FIELD PLUS No.8
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28Field+ 2012 07 no.8環境と似ています。もう1つは資金面の苦労です。審査を受けるのにどういった点に留意すればよいのかなど、イランの映画から得たヒントは多々あります。イラン映画は子供に関する内容が多いのですが、子供に関するものだと政治や宗教とあまり関係がないので、審査に通りやすいのです。また制作資金が少ない場合に、俳優も専門の人でなくてもよく、撮影現場もセットなど作らずとも実在する場所そのままでよいということを教えてくれましたね。――先ほど、チベット人だけのチームを作って、チベットの伝統的な暮らしを写し取っていきたいとおっしゃっていましたが、上映してみてチベット人の反応はどうでしたか?【ペマ】2004年に「静かなるマニ石」の制作を開始し、2005年に完成した後、多くの映画祭に参加しました。そして、2006年からチベット各地での上映を準備し、最初に西寧で上映会を行ったところ、たくさんのチベット人が見にきてくれました。その後、この映画のロケ地であるチェンザという場所へ行って、ある祭に合わせてこの映画を上映しました。観客は5、6千人はいたのではないでしょうか。あの夜は私にとって本当に忘れられない夜です。上映したのは映画館などではなく野外でしたが、観客が多すぎてスクリーンの両側にも多くの人が座っているほどでした。その後も2、3人でチームを組んで、チベット人の多く住むゴロク州、海北州、玉樹州、海南州(いずれも青海省)など多くの地域へ行って上映しました。どこで上映しても、この映画はチベットのありのままの生活と近く、違和感のない映画だと良い評価をしてくれました。――チベット以外でも上映されたのですか?【ペマ】中国国内では2005年から映画祭に参加する機会を利用し、「静かなるマニ石」を上映しました。その後、2006年西寧で上映会を行った後、2007年の正月にあわせて北京の映画館で2週間上映する機会がありました。その後も上海や成都、寧波などの大都市であいついで上映しました。主演の少年僧を連れて行ったこともありました。北京での上映会には主要登場人物の1人である化身ラマ(転生ラマ)の少年も参加しました。その時は多くの観客が詰めかけました。この映画はチベットのありのままの生活を映し出した作品だと言いましたが、基本的には人と人の愛情を表現しているものであり、難しい内容ではありません。――海外でも上映されていますよね?【ペマ】海外では映画館などでは上映していません。映画祭での上映が中心です。15から20ほどの映画祭に参加したでしょうか。そのほかに大学などから要請があってこの映画の鑑賞会がおこなわれたこともあります。外国人の反応はというと、チベットの現在の姿というのはどういうものなのか、映像作品を通じて知る機会があまりなく、この映画を通じて今のチベットの生活について新たな知見を得られたという人が大勢いました。一方、今のチベットの生活は本当にこういうものなのか、信じられないという人もいました。われわれの映画では、チベットの、特にアムド地方(青海省、四川省、甘粛省のアムド・チベット語の話される地域)のありのままの生活を表現することを心がけていますので、映画の中でも、今チベット語の話し言葉が漢語の影響を受けていることは率直に表現しています。例えば、テレビのことはチベットでも漢語で「電視」と言いますが、日常生活の中で使われている漢語は映画のセリフにもそのまま使っています。これについて海外の観客からは、純粋なチベット語ではないという反応もあるのですが、われわれはアムド地方の言葉や田舎の生活の「今」の姿を表現したいのです。――映画の登場人物はプロの俳優ではないようですが、キャスティングはどうされているのですか?【ペマ】おっしゃる通り、プロの俳優は使っていません。プロを使っていない理由は2つありまして、1つはこの映画の舞台がチベットのアムド地方だということです。アムドにはプロの俳優はほとんどいません。もう1つは私が俳優に求めるのは生活の細かいところまで表現できる能力だということです。プロの俳優ではかえって難しいのです。例えば僧侶の日常を短時間で把握して演じられる俳優はいません。ですからこの映画では、僧侶は僧侶が演じましたし、化身ラマも本物の化身ラマが演じました。化身ラマは普通の僧侶には上手く演じることはできないだろうと思い、本物の化身ラマに出演してもらったのです。――いろいろ困難もあったのではないですか?【ペマ】そうですね。まず彼らにプロ意識がないので、俳優として何に気をつけなければいけないのかとか、時間通りに来ないとか、すぐに物語に感情移入できないなどの問題があります。また、セリフをなかなか覚えてもらえないこともあります。例えば1人のセリフを何回も撮り直したり、変えなければいけなかったりします。例えば映画の中で少年僧の伯父さん役の人は80歳で覚えも悪いのですが、心優しい人でした。映画を作るのにフィルムなどの経費がかかることを知り、自分がセリフ映画「静かなるマニ石」のポスター。映画「静かなるマニ石」のワンシーン。左がマニ石を彫るおじいさん。奥にいるのが主演の少年僧。マニ石とは石に経文や真言を刻んだもの。写真奥はマニ石を積み上げたマニ塚。映画「静かなるマニ石」のワンシーン。右端が主演の少年僧。少年僧は西遊記のビデオに夢中で、孫悟空のお面をかぶり、ビデオを大事そうに抱えている。

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