27Field+ 2012 07 no.8画を見て、チベットの伝統や習慣、言葉などがうまく写し取れていないし、着物の着方ひとつをとっても違和感を感じると言う人は多かったのです。われわれ自身もそう感じていました。これも自分たちで映画を作ろうと思い立った1つの理由です。――先ほど上映した「静かなるマニ石」を見るとイランのアッバス・キアロスタミ監督の作風を思い出すのですが、監督ご自身としてはどんな映画に一番影響を受けたのでしょうか?【ペマ】よく聞かれるのですが、子供のころに見たほとんどの映画は中国の革命映画で、外国の映画は少なかったと思います。外国映画の中で一番影響を受けたのはチャップリンの「モダン・タイムス」です。専門的に語れるほど映画は見ていませんが、2002年に北京電影学院に入学してから、映画の歴史も含めて専門的に勉強しました。2003年に「静かなるマニ石」の撮影に入る前に、先ほどおっしゃったキアロスタミ監督の映画を見たことがありまして、たいへん勉強になりました。中国で映画を制作するにはさまざまな困難があります。1つは映画制作に際して受けなければならない政府の審査です。この点ではイランの映画制作の――もう1つのきっかけとは?【ペマ】2つ目のきっかけは、他にも映画を専門的に勉強していたチベット人が何人かいまして、撮影技術や録音技術などを学んだ人たちなのですが、彼らに声をかけ、大学の同期でもあるサンジェが中心となって映像制作の会社を作ったのです。チベット人がチベット語で話すチベット映画、チベットのありのままの生活を反映した映画を作ろうと思いまして、映画制作をスタートさせました。2004年に「草原」というショートフィルムを制作してから物語的な映画を4、5本ほど、ドキュメンタリー映画も何本か制作しました。――チベット人が撮る映画ということで特徴はありますか?【ペマ】われわれの映画と漢人監督ないし外国人の制作した映画の違いといえば、われわれのほうが、言葉遣いにしても、伝統や習慣にしても、チベットの実生活や考え方とマッチしている点だと思います。――チベットを舞台にした映画はこれまでにも数多くありますよね?【ペマ】ええ、チベットに関する映画はたくさんありますが、そういう映厳寒のチベットで撮影中の一コマ。ショートフィルム「草原」の撮影風景。映画「静かなるマニ石」の撮影風景。◎ペマツェテン監督紹介1969年チベット、アムド地方生まれ。西北民族大学大学院にてチベット語チベット文学を学んだ後、2002年、北京電影学院に入学し、映像制作を開始。2003年に「静かなるマニ石」の短編版、2004年に「草原」を制作。「草原」は北京電影学院学生映画祭ショートフィルム最優秀作品賞、ロッテルダム国際映画祭ショートフィルム賞を受賞。2004年にドキュメンタリー作品「最後のシャーマンたち」を発表、 2005年には「静かなるマニ石」の長編版を発表、バンクーバー国際映画祭にてドラゴン&タイガー賞などを受賞。2008年に「ティメークンデンを探して」 および「オールド・ドッグ」を制作。「オールド・ドッグ」は2011年の第35回香港国際映画祭にてアジア・デジタル・コンペティションにて金賞を受賞、東京フィルメックス国際映画祭のコンペティションで最優秀作品賞を受賞している。小説家でもあり、チベット語、漢語の両方で数多くの小説を発表している。
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