FIELD PLUS No.8
26/36

基本仕様●“マルチレイヤ(多層)”の意味 お馴染みのGoogle Mapsに、プロジェクトメンバー厳選の古地図をレイヤとして埋め込んだ。「古地図A、古地図B、古地図C……、Google Maps標準地図、Google Maps標準衛星写真」と層をなしている。●マルチレイヤのダイナミズム Google Maps同様、古地図レイヤの拡大・縮小は自由自在である。また、古地図レイヤは透過でき、たとえば19世紀の古地図を50%透過表示して、その下に現在の衛星写真を表示することで比較が可能となる(図1)。また画面を2分割し、左側に古地図A、右側に古地図BないしGoogle Maps標準地図などを表示させることもできる(図2)。古地図とGoogle Mapsの宿命的なズレについては、ズレそのものに重要な意味があるという議論を経たが、今回はわかりやすさ・使いやすさを重視して、Arc GISによってズレを解消した。 ここまでは一般公開され、アカウントを取得しなくても自由に閲覧可能である。研究成果を一般に公開するとともに、地図そのものを楽しんでもらうことを企図した。情報登録●情報の登録とは 様々な年代の地図を選び、任意の点(ポイント)、線(ライン)、面(ポリゴン)を指定して、そこに情報を保存しリンクさせることができる(図3)。点・線・面をクリックするとそれが表示される仕組みだ。たとえばある建物の中庭を点で指定して自分が撮った写真を貼るとか、歴史上重要な境界(ベイルートの内戦時軍事境界線など)を線で指定し、そこに関連資料を登録するとか、ある地区を面で指定し、居住者の宗派別人口を登録する、など。線の長さと面の面積の算出もできる。●情報の種類 情報の種類はブラウザで開けるファイル全てに対応している。たとえば、現地調査で得た写真・地図等の画像(jpegなど)、ビデオ動画(mpeg、movなど)、インタビュー記録等の音声(wmvなど)、あるいは史料、引用文献そのものをWordやPDFなどの文書にして保存・再生することもできる。いわば、普段PCのフォルダに整理してある情報を、様々な年代の地図という時空間上に関連づけて配置し保存することができるのだ。他のWebサイトやYou Tube等への動画にリンクすることもできる。Field+ 2012 07 no.824図1 アレッポ衛星写真をベースに1929年の地籍図(プラン・キャダストラル:50%透過)を重ねる。図2 アレッポのスーク(アラビア語で「市場」のこと)中心部。左:地籍図、右:衛星写真(閲覧時点)、天蓋に覆われたスークの内部構造は見えない。図4 モロッコ・フェス(現在は対象外)の場合。左側に1912年の都市計画プラン(筆者オリジナル)、右に衛星写真。旧市街の南西に新市街が計画的に実現されている。図3 左:イスタンブル1920年の古地図上に、ポリゴンでバーザール、ポイントでバーザール中の主要ハーン(アラビア語で「隊商宿」のこと)を示す。右:衛星写真。フロンティア 中東都市研究の新展開! 多層ベースマップシステムそれぞれの記憶から大きな記憶へ──システムの思想と技術松原康介 まつばら こうすけ / 筑波大学、AA研共同研究員本システムを一言で説明すると、「Google Mapsに古地図を貼り付けて、都市の経年変化を一目瞭然にするとともに、任意の年代・場所に、テキスト・写真・動画・音源・文書など参加者の持つ様々な情報を埋め込み蓄積するシステム」となる。都市に眠るそれぞれの記憶の断片を共有し、大きな記憶の再現を目指すため、私たちはわかりやすさ、使いやすさを最重視した。ここでは、実際にどんなことが可能かを解説したい。

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る