・カシュガル(喀什、Qashqar)市は新疆最西部に位置する、南疆(タリム盆地を中心とする南部新疆地域)の中心都市である。2001年の統計では同市の総人口は34万人で、そのうち「ウイグル族」は26万人(77%)、ついで漢族が7万人(21%)を占めている(新疆維吾爾自治区地方志編纂委員会『新疆年鑑2002』烏魯木斉:新疆年鑑社,2002年8月,14頁)。鉄道が開通し年々漢族の人口が増加の傾向を見せているとはいえ、依然ウイグル人がマジョリティである都市としては最大の規模を誇る、ウイグル文化の中心都市である。

・2002年9月の時点で、カシュガルで特に注目されたこととしては(あくまで私見に過ぎないが)2点ほどある。第1点は日誌でもふれたように、カシュガル市政府当局による旧市街の「区画整理」である。第2点は今年(2002年)5月に行われたとされる宗教・歴史出版物を中心とする「焚書」事件とその余波である。

・区画整理はカシュガル市の西側、ヘイトカル・ジャーミーを中心とする、カシュガルでも比較的古い街区のあるウスタン・ボイ路、ヌルベシ路などが対象といわれる。調査を実施した時点では9月にも区画整理が実施されるということであったが、2003年2月になってもなおその工事は始められていないが、区画整理後はカシュガル市の歴史的な区画の一部が消滅するのは確実である。
→海外ウイグル人組織による関連記事

・「焚書」事件については私が今回調査対象とした「リサーラ」の現代ウイグル語刊本(『古代ウイグル手工芸』)が最初にその対象となり、以後歴史・宗教に関する出版物(ちなみにこれらの図書はみな一度は検閲をパスし発売された公式の出版物である)が片っ端から焼却されているといわれている。憂慮すべき事態である。
→台湾中央日報の関連記事

・これら2点に加え、いわゆる「9.11」の結果「カウンターテロリズム」が中国でもクローズアップされ、新疆とくにカシュガルの政治状況は日に日に緊張の度を高めている。・こうした状況で外国人が(たとえ政治とは無関係な話題であっても)住民に直接聞き取りを行なうということは、相手に相応のリスクを負わせることにもなりかねない。こうした特殊事情に加え、時間もきわめて限られていた点も私としては悔やまれたところである。したがって、今回の調査はあくまで表面的なものに終始した、予備調査の域を出ないものであったことをここでお断りしておきたい。カシュガルでは、さらに複数回、時間をかけて再調査する必要を痛感している次第である。


カシュガル市人民政府前の毛沢東像
(別名Mahmutjan Kaptarwaz=「ハト飼いのマフムード親父」:
いつも鳩が肩に止まっていることに由来する「愛称」)




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