日本で作ろう!マダガスカル料理 第4回
ツァラマース・シ・ヘーナ
(tsaramaso sy hena)の巻
初出:『マダガスカル研究懇談会ニュースレター Serasera』第8号 pp.6-7 2003年
1.用意するもの(4人から6人分)
  1. 乾燥白インゲン(花豆・白花豆・福豆などの商品名で売られています)

  2. 300gから400g(小売りで2袋くらい)
  3. 牛肉 もしくは 豚肉のブロック 500gから1kg
  4. 玉葱 1個
  5. 完熟トマト 3個から4個 もしくは ホール茹でトマト缶詰1缶
  6. 塩 小さじ 一杯半から二杯
  7. 水 
  8. 深めの鍋
2.料理方法
  1. 牛肉もしくは豚肉のブロックをマッチ箱くらいの大きさに切り分けます。煮込み料理ですが、白インゲンの粒の大きさの食感が大事ですので、肉はあまり大きく切り分けないほうが良いでしょう。一匙で、肉と白インゲンの双方を口の中に運べるくらいの大きさが適当です。
  2. 玉葱の皮を剥き、スライスします。トマトはへたと種子を取り、皮がついたまま4つくらいに切り分けます。マダガスカル料理では、トマトの皮を湯剥きしたりしません。
  3. 白インゲンをざっと水洗いし、汚れやゴミを取り除きます。
  4. 鍋に水をはり、白インゲン、切り分けた肉、スライスした玉葱、種子を取ったトマト、それに塩を加えて煮込みます。水加減は、煮込む豆と肉の総量の2倍から3倍くらいが適当です。沸騰するまでは強火、沸騰してからは弱火でじっくりと煮込みます。白インゲンの甘い香りが鍋から立ち上がり、豆の一部が煮崩れてとろみが少し出たくらいのところで火を止めます。豆が柔らかくなる前に水分が足りなくなってきた時は、水を足してください。
3.ここがポイント!
  1. 乾燥白インゲンは、<白インゲン>と銘うたれて販売されるよりも、<花豆>や<白花豆>や<福豆>などの商品名ないし栽培品種名で販売されていることが多い点に留意してください。乾物屋さんでなくても、ほとんどのスーパーの乾物売場の棚に置かれていますし、インターネット上でも販売されていますので、入手は難しくありません。日本で白インゲンを購入する際は選別する必要ありませんが、マダガスカルで購入する際は、歯で咬んでみて柔らかく表皮に皺の少ないものを選ぶように心がけた上、少しでも形の悪い豆や色の良くない豆は選り分け捨てるようにしてください。
  2. 牛肉でも構いませんが、豚肉の脂のとろみと甘みが、白インゲンのとろみと甘みによく合います。ですから豚肉を用いる時は、赤身よりも脂身の混じったバラ肉を使う方が、味が良くなります。また、この日本で脂身の甘さを賞味するためには、豚肉に「鹿児島産黒豚」などの<高級ブランド>を用いる必要があります。牛肉と豚肉の他にも、ソーセージとの相性も良いのですが、日本ではマダガスカルで作られている種類のソーセージを入手する点で、難があります。
  3. 季節により良い完熟トマトを入手できない時は、イタリア料理に用いるホール茹でトマトの缶詰を代わりに使ってください。あるいは生のトマトに缶詰のトマトを足すことも、お勧めです。
  4. 白インゲンの煮込みには、3時間前後を目安にかなりの時間が必要です。昼食にこの料理を出す際は、前日の夜から水をはった鍋に白インゲンだけを入れてふやかしておくと良いでしょう。料理に用いた白インゲンの状態と水加減によって、煮込み時間にはかなりの差ができます。白インゲンの煮えた時の甘い匂いの嗅覚、白インゲンが煮えて少し煮崩れした時のとろみの視覚、この二つに基づいて火を止める頃合いを判断します。煮詰まってきますと、鍋の底に白インゲンが沈殿し焦げる恐れがありますので、鍋をかき回したり水を足したりして焦がさないように注意してください。
  5. 隠し味としてカレー粉を一匙入れると、味が引き立ちます。<伝統的>な白インゲンの料理方法ではありませんが、現代都会風の料理方法としてお勧めです。
 ツァラマース・シ・ヘーナとは、<白インゲンと肉>の意味です。この白インゲンの煮込み料理は、町と農村、高地と海岸、日常の食事と特別の食事、家庭料理と食堂の料理、地域や時間や内と外を超え幅広く調理され食されている点に大きな特徴があります。肉などを入れずに白インゲンだけを煮込めば、それは農村ではちょっと良いおかず、町では日常のおかずになります。白インゲンに牛肉か豚肉を加えれば、タクシ・ブルースが立ち寄る現地食堂(ホテーリ)の定番メニューですし、また脂ののった豚肉をたっぷり入れれば、日曜日や祭日における町の家庭のおかずとなります。豚や豚肉が禁忌(ファディ)とされる地域でも、白インゲンに牛肉を加えた煮込みはご馳走です。このように白インゲンの煮込みはほとんど<国民食>と呼んでよいくらいマダガスカル各地に普及していますが、白インゲンそのものは新大陸原産の豆です。現在は世界中で栽培され、マダガスカルへは17世紀頃にヨーロッパ人航海者の手によって持ち込まれたのではないかと言われています。余談ですが、マダガスカル語で一般にカバロ(kabaro)と呼ばれとりわけチュレアール州で栽培の盛んな日本人には馴染みの少ないライマメは、白インゲンを大粒にしたような外見の上、白インゲンと同じ料理法によって美味しく食することができますが、こちらは白インゲン(Phaseolus vulgaris)とは近縁の別種です(Phaseolus lunatus)。またアメリカのポーク・ビーンズと素材・料理法ともほぼ同じですが、トマト味よりも白インゲンの味を引き立たせること、白インゲンをとろみが出るまで煮込むことの点で、ツァラマース・シ・ヘーナはポーク・ビーンズではなく<マダガスカル料理>そのものに他ならないのかもしれません。皆さんが、マダガスカルを旅した時の食堂の味を想いだしながら、あるいはマダガスカルに生活した時の家庭の味を想いだしながら、この<国民食>の再現に挑戦してください!
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