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私の症例から導き出されるマラリアについての注意点;
  1)マダガスカルにおいて頭痛・関節痛・倦怠感・食欲不振・吐き気・発汗・めまいや立ちくらみ・下痢・悪心・悪寒・悪寒戦慄などを伴う発熱をみた場合にはその熱の高い低いにかかわらず先ず第一にマラリアの罹患を疑い、直ぐさま最寄りの県庁所在地の公立病院以上の水準の医療機関に行くこと。マダガスカルの医療機関ではこのような場合、臨床検査を経ずとも直ちにマラリア治療を開始するため、発熱から時間を経ずに医療機関に行くほど、治療時期を失して死に至るような危険性は低くなる。仮にこのような臨床検査による確定診断を経ないマラリア治療対策が<誤診>であったとしても、そのことを恐れる必要は全くない。危険なことは、眼前の疾患がマラリアによって惹起されているにもかかわらず、マラリア罹患の可能性を疑わないかあるいは臨床検査による確定診断に手間取り、そのことによって治療時期を失して死に到ることである。マラリアは単なる発熱性の感染症ではなく、全身症状を伴った死に到る極めて危険なそれも熱帯地域を中心に広範囲に分布する感染症であることを十分に認識すべきである。マラリア罹患による症状は多様である上熱波形も様々であり、それゆえ罹患を素人が、症状によってだけ判断することは極めて困難であることを認識すること。とりわけ、マラリア罹患経験の無い日本人が、初めてマラリアを発症した時は、危険性が高い。その症状がマラリアによって引き起こされたものであることの可能性を疑い、医師の診断と処置を受けるかどうかが、生死の分かれ目となることがある。
  2)マラリアの初期症状は、とりわけデング熱あるいはインフルエンや肝炎と酷似する点が多いことに注意すること。私のように発熱を風邪かインフルエンザと勝手に自己診断を下した上、手持ちの薬で自己治療を試みるなどということは言語道断である。もしこの時私が罹患したマラリアが、発熱から3日以内に治療を開始しないと重篤な状態に陥る危険の高い熱帯熱マラリアであった場合、命取りとなった可能性が極めて高い。また、肝炎は初期症状がマラリアに似ているだけではなく、疾病そのものとして危険でありかつマダガスカルでは罹患の可能性が高いため、長期滞在者や長期旅行者は予防対策としてA型・B型の各予防接種を日本で受けておくことが望ましい。
  3)マラリアを媒介するハマダラ蚊に吸血されないために、長袖のシャツや長ズボンを身につける、肌の露出部分に忌避剤を塗布する、家の窓や戸口に網戸を張る、夜寝る時は蚊帳を吊る、蚊取り線香を焚くなどの予防措置も大切であるが、それでも夜間に戸外活動を行う人間がとりわけ雨季に蚊に刺されることを完全に防ぐことは至難である。したがって、高濃度汚染地帯で活動する人間は、抗マラリア予防薬の定期的服用も併せて行うべきである。
  4)ニヴァキン等のクロロキン製剤・ファンシダールやMP錠等のサルファ剤とピリメサミンの合剤・フラヴォキン等のアモデアキン・あるいはクロロキン製剤とパラドリン等のクロールグアナイドとの併用や両者の合剤であるサヴァランなどを私自身マダガスカル現地で予防内服薬として実際に使用したが、以上の何れの薬の服用をもってしてもマラリアの罹患を経験している。マダガスカルにおいては薬剤耐性マラリアが広く存在しており、抗マラリア予防薬の定期的服用を過信してはならない。私は1996年よりメフロキン製剤のラリアムを抗マラリア予防薬として用いて良好な予防結果を得ていたが、2003年2月、マジュンガ州北部の農村における調査中、ラリアムを定期服用したにもかかわらず、発熱・血尿・粘血便を伴うマラリアを発症した。さらに2005年の1月から2月にかけての一ヶ月間同じマジュンガ州北部の農村における調査を終えてマジュンガに戻る帰路、二日ほど前から倦怠感および肩こりを自覚していたところ、機内において脱力感と冷や汗が出るマラリアの先駆症状を体感した。この調査期間中も、ラリアムを定期服用していた。マジュンガに到着後、後述するCoartemを服用し、発症をくいとめることができた。したがって、どのような予防薬を処方箋通り正確に服用していようとも、1)で記したような症状が出た場合には、マラリアを疑い最寄りの医療機関に直行するべきである。また、抗マラリア剤は人によっては重い副作用を伴うこともあるため、薬に添付されている処方箋を読み、その服用方法およびこれまでに報告されている副作用例また服用時の禁忌事項について正しく知っておくことは、言うまでもない。
  5)悪寒戦慄の発熱期と平熱期とを48時間毎に繰り返すとされる三日熱マラリアの場合でも、実際の症状は、その熱波形にしても自覚症状にしても教科書的な記述とはそぐわない事が多い点に注意しなければならない。私の場合、3月17日から23日まで21日朝の36・9度以外平熱期がなかった上、悪寒を感じることはあっても歯ががちがちと鳴るような悪寒戦慄状態は経験していない。とりわけ、悪寒戦慄を伴わないとされる一番危険な熱帯熱マラリアとその他の三日熱マラリア等を、素人が症状の点から区別することは不可能でありまたそのような自己診断を下すべきではない。1)の症状が出た場合には、マラリアの種類に関係なく、医療機関に行き治療を求めるべきである。さらに、マラリアは発熱のみならず脳性症状・下痢・黄疸・腎不全などをも併発する全身症状を呈することに注意を払わなければならない。2003年2月に罹患したマラリアは、発熱は38度代であったものの、激しい下痢を伴い、発症して1日半後には粘血便と血尿を出すに至った。したがって、マダガスカルで体調不良を覚えた場合には、先ず最初にマラリアの罹患を疑い、それに対処する行動をとらなければならない。
  6)マラリアそのもので死亡することは希であり「良性」とされる三日熱マラリアないしさらに症状の「軽い」とされる卵形マラリアでさえ、上記に記したような発熱と食物摂取不良による全身の衰弱と脱水を引き起こすとともに患者本人の頭痛・関節痛・動悸・眩暈・呼吸困難・嘔吐感・疲労感・虚脱感・悪心・悪寒戦慄等の自覚症状は激烈であり、とりわけ僻遠地での調査活動等に携わる人間にとって危険であることを十分に認識する必要がある。1984年の私の場合、発熱からわずか一週間の時点で、自力で行動できる限界に達していた。
  7)マダガスカルの県庁所在地クラスの町の医療機関と薬局ではマラリアに対するキニマックス等の薬を常備している確率が高いが、僻遠地での調査等に従事する人間は、抗マラリア予防薬だけではなく、予防に用いた薬とは異なる経口キニーネ製剤・アルテスネイト・チンハオス製剤・コーテキシン製剤等の治療薬をも同時に携行することが望ましい。あるいは最近では、アルテスネイト製剤とルメファトゥリン製剤を合剤にした、より即効性の高い、Coartemのような薬品も市販されている。1)のような症状が出てから最寄りの医療機関に出向くまで1日以上の時間がかかると予想される場合には、直ちにその手持ち治療薬によってマラリア治療を開始すべきである。予防薬を定期服用していて発症した際には、その予防薬に対する耐性をもつマラリア原虫に罹患したわけであり、したがって同じ薬品を治療量服用してもその十分な効果を期待することはできない。それゆえ、予防薬と治療薬とは、異なる種類の薬剤を用意することが肝要である。
  8)最近抗マラリア予防薬を長期服用することによる副作用の心配が指摘され、その結果、予防薬を服用せずに発症してから医師の鑑査のもとに罹患したマラリアに応じた抗マラリア薬を使用することが医師自身から推奨されるむきもある。しかしながら、このような対処方法は医療機関の近傍に居住する大使館員や派遣専門家・駐在員には奨められても、医師のいない僻遠地に赴くことの多い研究者や協力隊員や旅行者は、定期的予防内服を心がけるべきだと考える。なぜなら先に書いたとおり、僻遠地でマラリアを発症した場合その種類を問わず、その場から適切な医療機関のある場所まで移動することそのものに多大の障害を生じる危険性が高いからである。さらに、マダガスカルでは我々日本人のようなマラリア耐性や抵抗性のない人間が予防薬の服用を行わなければ確実に発症するようなマラリアの高濃度汚染地帯が広く分布している点からも、この予防内服を行わない方法については抗マラリア薬を服用することのできない体質や妊婦・妊娠の可能性のある人間を除き推奨できない。
  9)滞在および訪問先の地がマラリアの高濃度汚染地帯か否かの判定は、次の方法が簡便かつ確実である。その地に居住する3〜4歳から小学生くらいの成長期年齢の児童の腹部を見て、手足が痩せ細って関節が飛び出た栄養失調障害でもないのにみぞおちのあたりから下腹部にかけぶっくりと腹部全体が張ったように大きい場合、これはマラリアの慢性的罹患による脾臓もしくは肝臓の腫張を示しており、このような児童の全体に対し占める割合が高いほど汚染の濃度が高いと見なすことができる。ちなみに、私が調査を行っている上記のマハザンガ州北部の農村の場合、児童の半分以上がこのように腹部が腫張した状態であった。
  10)在マダガスカル邦人社会の一部で、マダガスカルのマラリアは重篤な症状には陥らず罹患しても風邪くらいの症状で済むとの情報が流布されているが、これは根も葉もない誤った極めて危険な噂である。マラリア耐性のない日本人がマラリアに罹患すればたとえ「良性」と分類される三日熱マラリアでも生命の危険にさらされることがある場合を私の上記の例が示しており、仮に熱帯熱マラリアの罹患を放置したならば、それは自殺行為以外の何ものでもない。現地に暮らすマダガスカル人がマラリアに罹患しても、こちらの目から見れば発熱や頭痛の風邪類似の症状しか示さない場合が多いが、乳幼児時期からマラリアの罹患を繰り返しマラリアに対する抵抗性を身につけた人間だけが成人している点を見逃してはならない。マラリアに対する抵抗性をもたない日本人にとっては、とりわけ僻遠地で発症した場合、全ての種類のマラリアが危険である。
  11)発熱をみなくとも、芯のあるような頭部の鈍痛・立ちくらみ・眩暈・倦怠感・疲労感・根拠のない不安感・食欲不振・嘔吐感・寝汗などは、しばしばマラリアが発症する前駆症状であり、このような自覚症状があった際には、調査・研究・仕事・旅行の途中であったとしても最寄りの医療機関への移動を早急に検討・決断し実行すべきである。
  12)マラリアと共にマダガスカルに在住する邦人がよく罹患する疾病にA型肝炎がある。マラリアは蚊に刺されることによって感染し、A型肝炎は水や食事から経口感染し、両者は感染経路こそ異なるものの、食事と睡眠を十分にとり過剰労働・睡眠不足や過密日程を極力避け、自己の免疫力や抵抗力を高めるように注意することが予防に繋がる点は同じである。私の場合も、一回めの発症がマダガスカルに到着してから84日め、二回めの発症が村で生活を始めてから87日めと、新しい生活に入って3ヶ月という点が符号しており、今から振り返ればその間のストレスや疲労の蓄積が頂点に達していたころである。
  13)現在では、間接蛍光抗体法と呼ばれるマラリアの検査方法があり、これを用いれば、発熱発作を起こしていない平熱時でもあるいは既に治療処置を行い治癒した後でも、数年以内であれば罹患したマラリアの種類とその時期を特定することができる。したがって、マラリアに罹患した者およびマラリアと思しき症状を経験した者は、この検査を受けることが望ましい。それによって、今後の再発の可能性およびそれを防ぐための根治治療の必要性を知り、対処することができる。ちなみにこの検査法は、群馬大学医学部寄生虫学教室で受けることができる。
  14)マダガスカル滞在中ではなく、日本帰国後にマラリアが発症した場合も極めて危険である。なぜなら、日本のほとんどの医師がマラリアを教科書で学習した経験しか持たないため、
  1. マラリアが生命にかかわる恐ろしい感染症であるとの認識が薄い
  2. 眼前の諸症状がマラリアによって引き起こされているとの疑いをなかなかもたない
  3. マラリアの検査・検出に不慣れである
  4. マラリアの治療法に精通していないだけではなく、その為の薬品類の入手にも困難を生じることがある からである。したがって、近傍のマラリア専門医療機関を常日頃から調べ、その疑いのある自覚症状を覚えた際には、そこに自分で万難を排して行くことが大切である。マラリアの診断とその治療という点では、大学病院や国公立の総合病院といえども決して安心してはならない。自己の居住地近傍にどのようなマラリアの専門医療機関があるかは、インターネット上で<マラリア>を検索し、そこから<マラリア・ネット>のHPを引き出しさらにリンクを追ってゆけば容易に見出すことができるはずである。また、これからマラリアの予防薬および治療薬について新薬の開発が急速に進むことが予想されるので、ネットを活用し薬剤についての知識を絶えず更新しておくことも大切である。
  15)2006年に東部のタマタヴ地方(トゥアマシナ地方)、さらにはチュレアール市内、マジュンガ市内などで、チクングンヤ熱(chikungunya)およびデング熱の流行を見た。2007年に入っても、東北部のアンタラハ地方で、デング熱の発生が報じられている。
  1. チクングンヤ熱(マダガスカルではチクングニヤと発音する場合が多い)は、デング熱や日本脳炎を引き起こすフラビウィルス属に近縁のトガウィルス属のチクングンヤウィルスによって引き起こされる感染症である。ヤブ蚊による吸血を媒介に、感染する。発熱および激しい関節痛、頭痛、発疹、顔の腫れなどを伴うが、デング熱と同じく予防法も治療法も確立していない。そのため、感染を防ぐにはヤブ蚊による吸血を防ぐことしかない。患者の症状は激烈であるが、一週間から10日くらいで自然治癒する場合が多い。また初期症状において、このチクングンヤ熱とデング熱、それにマラリアとを区別することは専門医でも不可能であり、血液検査を行うしか判定方法はない。
  2. デング熱は、フラビウィルス属のフラボウィルスが引き起こす、感染症である。発熱、頭痛、関節痛などの激しい症状を引き起こすが、デング熱に対する予防法および治療法は現在までのところ確立しておらず、一度発症した場合には、対処療法をとるしかない。デング熱は、熱帯シマカの吸血を媒介として感染するため、蚊による吸血を防ぐことが、唯一の予防法である。患者本人との直接接触による感染は、生じない。<古典的デング熱>の場合、患者の自覚症状は激烈でも致死率は低く、10日から2週間で自然治癒する。しかしながら出血性デング熱は、古典的デング熱に比べはるかに致死率が高く、電解質の補給や血小板の輸血などの適切な対処治療が必要である。
  3. マラリアを媒介するハマダラカは、薄明時と薄明時との間の夜間に活動し、脚部の吸血を好む。一方デング熱を媒介するシマカは、主として昼間活動し、吸血する部位を選ばない。したがって、蚊の多い地域で行動する場合には、肌の露出部分を少なくし、露出部分には虫の忌避剤を塗布することが、予防法として勧められる。
  4. マダガスカルで現在流行しているデング熱が、出血性のデング熱であった場合、サルチル酸系の鎮痛・解熱剤(商品名アスピリン等)の服用は血小板の溶解を促進する恐れがあるため禁忌である。このため、現在マダガスカル滞在中ないしマダガスカルから帰国後に発熱・頭痛を覚え当座の処置として鎮痛・解熱剤を服用する場合には、アセトアミノフェン系の鎮痛・解熱剤(商品名パレスタモール、イヴ等)を服用することが勧められる。パレスタモールは、マダガスカルの薬局であれば何処でも、医師の処方箋なしに簡単に買うことができる。
  5. マラリアとデング熱およびチクングンヤ熱を、先駆症状および初期症状で区別することは、熱帯医療の専門家でも不可能である。三者の区別は、血液検査しかない。また、マラリアの汚染地帯と、デング熱やチクングンヤ熱の汚染地帯とは、競合する可能性が極めて高い。それゆえ、現在マダガスカル滞在中およびマダガスカルから帰国後に体調不良を覚えた場合には、マダガスカル滞在中であれば州都クラスの公立病院や私立の総合病院、日本帰国後であれば熱帯医療の専門家のいる病院に直行しなければならない。デング熱やチクングンヤ熱を発症した場合対処療法しかないとは言え、熱帯熱マラリアを罹患し発症した場合には緊急に治療措置を開始する必要があり、マラリア罹患の可能性を臨床的に消去することは、重要である。また、出血性デング熱の場合には、適切な対処療法が不可欠であり、その点においても、体調の不良を覚えた場合には専門医の診断と治療を早急に受ける必要がこれまで以上に高く、症状による自己診断を絶対に行ってはならない。
【補遺:マダガスカルで可能なマラリア予防法】
  1)蚊帳は県庁所在地の町くらいまで、売られている。また、虫忌避剤を染み込ませた予防効果の高いSuper Moustiquaireも、薬局や雑貨店で広く売られている。
  2)蚊取り線香は、かなり田舎の雑貨店でも売られている。中国製とインドネシア製のBIG TOX(ビッグ・トックス)それにインドネシアでライセンス生産されたFUMAKILA(フマキラー)が、ある。中国製蚊取り線香は、朝起きると咽が痛くなったりいがらっぽくなったりするものが多い。BIG TOXとFUMAKILAは、6時間から7時間燃焼が持続し(湿度によって燃焼時間が異なってくる)、咽を痛めることも少ないのでこの二つの使用が勧められる。噴霧式の殺虫剤も、県庁所在地くらいの町までならば購入が可能。日本人の短期旅行者には、日本から日本製の蚊取り線香を持って行かれることが、勧められる。日本の蚊取り線香は、効き目、燃焼時間などのどれをとっても、たいへんに優れている。
  3)防虫剤は、ジェルとクリームと溶液のタイプを都市の薬局で入手可能だが、種類は少ない。直接肌に塗るものなので、肌の敏感な人は日本で自分の肌にあった薬剤を購入し、持っていった方が良い。
  4)マラリアの予防薬としては、クロロキン製剤のNivaquine(ニヴァキン)、クロロキン製剤とプログアナイル製剤の合剤で毎日服用する Svarine(サヴァラン)、メフロキン製剤の Lariam(ラリアム) が入手可能である。Nivaquineが最も広範囲に入手可能ではあるものの、Nivaquine単独での予防効果は低い。マダガスカル現地の邦人医療関係者の中にはクロロキン製剤単体による予防内服が効果的であると主張する者もいるが、ある程度マラリアに対する抵抗性を身につけているマダガスカル人へのクロロキン製剤の投与効果とマラリアに対する抵抗性を全くもたない日本人に対する投与効果を同等視した誤謬である。Savarineは州都などの薬局では入手可能であり、毎日服用するタイプなのでかえって飲み忘れがなく、また長期服用が可能であるなどの利点がある。予防効果はNivaquine単独よりは高いが、Lariamよりは劣る。現在市販されているマラリア予防薬の中で最も予防効果の高いのが、Lariamである。しかしながら、大都市の薬局の一部でしか販売されていないこと、大変に高価であること(二ヶ月分に相当する8錠1箱で、およそ6000円)、平衡感覚障害・悪夢・食欲不振・嘔吐感・倦怠感など副作用がかなり顕著であること、3ヶ月を超える長期服用の安全性が確立されていないこと(アメリカの平和部隊Peace Corpsの隊員にはメフロキンの服用が推奨されていると聞く)などの問題点がある。またLariamと雖も、予防効果は絶対ではなく、メフロキン耐性マラリアがマダガスカルでも出現していることを忘れてはならない。マラリアの治療薬としては、古くから使用されているキニーネ製剤のQuinimax(キニマックス)、マダガスカルでもライセンス生産されている中国が漢方薬から開発したArtesunate(アルテスネイト)、アルテスネイト製剤とルメファトゥリン製剤の合剤でArtesunateの即効性を高めたCoartem(コアルテム)があり、いずれも注射薬と経口剤の二つがある。マラリアの予防薬と治療薬は、医師の処方箋が無くとも薬局で購入することができる。僻遠地で活動する人は、予防薬の服用を行わなくとも、最低限これらのマラリア治療薬を常時携行すべきである。
   最後に、末筆ながらこの場をお借りして、1984年3月のマラリア罹患に際し多大のご迷惑をおかけするとともにたいへんなお世話を賜った旧大洋漁業・現在のマルハの森本文雄氏・加瀬邦彦氏・向井肇氏・田辺元彦氏の四氏、漁船員の方々、船員宿舎のマダガスカル人従業員の方々に厚く御礼を申し述べさせて頂きます。以上の方々が当時マハザンガにいらっしゃらなかったならば、あるいは一命を失っていたかもしれないということを、この日記を執筆しあらためて痛感させられた次第です。とりわけ向井肇氏には、その後の1995年12月の開放骨折事故の際にもマジュンガ現地で再度お世話になり、二度生命を助けて頂きましたことを幾重にも感謝申し上げます。その向井肇氏が、2000年2月10日に享年46才で亡くなられましたことに対し、この場を借り深い哀惜の念をもって合掌致します。
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