「マダガスカルにおける文化領域論の系譜」 |
国立民族学博物館 飯田 卓 主催 共同研究プロジェクト
「マダガスカルの文化的多様性に関する研究」
2006年11月25日 発表原稿
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I.<文化領域>論とは?
- <文化領域>(Culture Area)
「類似した文化が分布しており、その文化によって、他の地域とは区別されるような地域をさす。文化領域の概念はアメリカ文化人類学において、ことにアメリカ・インディアン研究との関連において発達した。それは文献記録をもたず、また基本的には同一人種に属するアメリカ・インディアンについての知識を分類整理するための枠組みであった。・・・文化領域の概念を本格的に採用したのは、1917年のウィッスラー(C.Wissler 1870−1947)の著『アメリカ・インディアン』であった。・・・文化領域は、クローバー(1876−1960)が論じたように、そこに住む人間の歴史の最終結果であり、また機能的にはその自然環境と関連している。したがって、文化領域を区画するに当たり、歴史的な要因と生態学的な要因の双方が考慮されるのが普通である。北アメリカのように、巨大な文明の中心が存在しなかった大陸においては、まず平原とか、東部森林というように生態学的条件で大区画を行い、その内部をさらに生態学的条件ばかりでなく、語族の分布などの歴史的条件を加味して細分することが行われる」(大林太良「文化領域」『文化人類学事典』弘文堂 1987 pp.676-678)
- ボアズ学派の文化領域論の系譜
「伝播的探求のための要件である地域的調査は、特定の文化的特色が共通に分布し、したがって、文化的関連をもった地域としての文化領域(culture area)の概念によって基礎づけられ、広くアメリカ人類学の共通の財産となった。文化領域の概念は、はじめボアズ(1858−1942)が博物館陳列のために民族的標本の比較検討にあたって、いろいろな地方から集められた文化的要素が、類同性をもって一定の地域にわたって分布する傾向のあることを発見し、これらの文化的要素が一定の複合的な密度をもって共通に分布する地理的・歴史的地域を意味するものとして用いられるにいたった。・・・文化領域の決定にとっては、個々の文化的要素の特色をなす文化特色(culture traits)の分析が相関的な要件である。文化特色は、文化形態の記述的な構成単位であり、建物、橋などのごとき物質的な特性から、民俗、信仰、儀式などの非物質的なものを含む。それらの特質の形態、細目は民族と文化によって相違するが、いずれの文化にあっても共通な要素にまで分析することができる。・・・ウィスラー(Clark Wissler)は、食物、運搬航行の手段、編物技術、建築、冶金、芸術、社会団体、社会統制(財産、相続、婚姻、教育)、儀礼、神話などの文化複合について要素的分布の領域を調べ、一定の共通的要素の統合する地域にしたがって、文化の全体的な分類としての文化領域を決定した。かくのごとくボアズにより地域的調査の概念として新しく導入された文化領域、周辺領域、文化特色などの概念は、ウィスラーをはじめ、ローヴィー、ゴールデンワイザーなどによって発展され、アメリカ原住民の文化伝播の歴史的研究の方法概念として重要な役割を演じ、また文化複合体の要素的分類に用いられた。これらの概念によって、具体的な部族文化は客観的に比較可能な諸要素に分析され、その地理的な分布にしたがって文化領域の決定が可能となったのである」(堀 喜望『文化人類学』法律文化社 1954 pp.216-218)。
「一つの部族集団が営む文化を、機械的単位として記述するのでは不充分である。それは余りに大きすぎるので、その部分の分析と細目的研究なしには全体として理解することができない。未開人の文化は、部族的単位を超えて、その要素的な特色にしたがって分析記述されなければならない。かくて文化特色(cultural trait)は、文化統一を構成する要素的な最小単位であり、物質文化、芸術、社会組織の分野について分析的に解明される。しかしながら文化は、その全体性において統合され、部分が絡み合っているので、かかる要素を分離することは極めて困難である。・・・ウィスラーは、食物獲得、動物飼育と運輸の方法、編物技術、陶器技術、装飾意匠、建築、石鉄細工、および特殊の発明などの項目を設定し、類同の形態が見られる地方を地図上に分布をたどり、かかる文化特色にしたがった社会集団の分類を実証的にこころみた。このようにして「すべての特色を同時的な考察のもとにもたらし、われわれの観点を社会的または部族的な単位に移すとき、われわれは極めて明確な集団を形成することができる。」それがいわゆる文化領域(culture area)と呼ばれるものである」(堀 喜望 同上 pp.240-241)。
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