共同研究プロジェクト

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共同研究所である本研究所にとって、所員が中心となって所外の研究者と共同で推進する共同研究プロジェクトは、最も大切な研究業務のひとつです。
これまで数多くのプロジェクトが組織され、約350点に及ぶ出版物を初めとして多様な研究成果をあげています。
また、昨年度からは、限られた予算のなかで、従来の研究分野を越えた斬新な共同研究を推進するため、新たに重点プロジェクトというカテゴリが設けられました。最初の重点プロジェクトとして「東南アジアにおける人の移動と文化の創造」プロジェクトが組織され、国際シンポジウムを行うなど、活発な研究活動が展開されています。
今年度からは、重点プロジェクトに「音韻に関する通言語的研究」プロジェクトが加わるほか、6プロジェクトが新たに開始されます。
 本年度行われるプロジェクトは次のとおりです。


目次


重点共同研究プロジェクト

東南アジアにおける人の移動と文化の創造)
宮崎恒二(所員11名、共同研究員48名)

 諸文化の形成に関して、これまでの文明中心的な発想から地域中心的な発想への転換が進んでいるが、かって「文明の十字路」として捉えられた東南アジアの諸地域についても、地域的なネットワークの存在とその役割が強調されつつある。このような発想の転換は、必然的に現在の諸文化の形成過程を人の移動と交流という観点から見直す方向へとわれわれを導き、また、人の移動が様々な形で現在も進行中であることは、今後この地域でどのような文化が形成されるのか、という関心を喚起する。現在の東南アジア諸地域は、一方ではいわゆる民族問題の火種を常に抱えつつ、他方では欧米的価値観との差異化を目指して「国民文化」のみならず「アジア文化」という意識さえ次第に形成されつつある。このような意識の「広域化」と「個別化」を、人の移動による集団の同化と異化という視点から読み解き、これまでの東南アジアの諸文化の形成過程を捉え直すとともに、今後の広域的意識形成の動向についての考察を試みることが本プロジェクトのねらいである。
 本年度(三年計画の二年目)は、前年度に開催された国際シンポジウムにおいて提出されたいくつかの論点、すなわち、非植民地的状況における人の移動と移民文化、移動する民の意識と生活、東南アジアにおける大衆文化などに焦点を絞り、個別事例の報告をもとに討議する。

青木恵理子 青山 亨 飯島明子 池上重広 石川 登 伊藤 真 上杉富之 内堀基光 牛島 巌 小野沢正喜 オマール・ファルーク 川島 緑 加藤 剛 川田牧人 栗田博之 黒田景子 桑原季雄 小池 誠 清水 展 白石さや 杉島敬志 鈴木伸隆 瀬川昌久 関本照夫 染谷臣道 高谷紀夫 高橋美和 田中恭子 坪井善明 土佐桂子 富沢寿勇 中澤正樹 永田淳嗣 中谷文美 弘末雅士 深見純生 福岡正太 古田元夫 三野洋子 宮本 勝 森山幹弘 山下普司 山田幸宏 結城史隆 横山広子 吉田敏浩 吉野 晃 吉原和男

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音韻に関する通言語的研究 ホームページはこちら
(梶 茂樹)(所員15名、共同研究員13名)

 言語学の本来の研究分野は、音韻、形態、統語、意味であるが、その中でも音韻論は、長らく他の研究分野をリードしてきた。本研究プロジェクトは、音韻論の中でも声調(tone)を中心とする超分節素(suprasegumentals)の研究を行う。
 世界に、声調言語は意外と多い。中国語諸方言やチベット・ビルマ語系諸語、またベトナム語、タイ語などの東南アジア諸語、バンツー系やクワ系などのニジェール・コンゴ諸語、マサイ語やナンディ語などのナイル系諸語、南部アフリカのコイ・サン系諸語、またアフロ・アジアティックの中でもチャディク諸語、さらにはニューカレドニア諸語やアメリカ・インディアン諸語など。また、日本語やインド・ヨーロッパ系のスウェーデン語やセルボ・クロアティア語、パンジャブ語などのピッチ・アクセント諸語の研究も重要である。
 具体的な研究テーマとしては、声調、音調、アクセントなどの用語の整理と同時に、次の様なものが考えられる。
−声調(正確にはピッチ)の生理学的、音響学的特性
−子音の特性と声調との関係
−個々の言語における声調の体系
−声調の語彙的、文法的機能
−声調言語とアクセント言語との違い
−世界の声調言語のタイポロジー
−声調の通時的変化と比較研究
ー声調の発生と消滅

上野善道 大江孝男 加藤昌彦 久保智之 窪園晴夫 坂本恭章 清水克正 早田輝洋 平山久男 堀 博文 松森晶子 箕浦信勝 湯川恭敏

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一般共同研究プロジェクト

言語文化接触に関する研究
(中嶋幹起)(所員14名、共同研究員29名)

 東アジアに共生する幾多の民族の言語は、多様性に富み、その長い歴史と相まって、多くの言語資料が集積されています。さらに、近年は、中国やロシアなどの開放政策により、文献資料や学術成果もつぎつぎに公にされつつあります。
 本プロジェクトでは、朝鮮語、満州語、モンゴル語、エペンキ語、漢語、ウイグル語、チベット語、苗語、西夏語、白語などの言語研究者が現地調査での成果を報告し、それぞれの研究について、言語学のみならず、文化人類学、歴史学などの分野を含めた多角的かつ広域的視点から討論をおこないつつ、言語のダイナミックスを探ろうとするものです。

伊藤英人 鵜殿倫次 大江孝男 太田 斎 大塚秀明 大瀧幸子 大橋由美 落合守和 岸田文隆 北村 甫 栗林 均 慶谷寿信 坂本恭章 佐々木猛 佐藤 進 佐藤晴彦 高田時雄 津曲敏郎 丁 鋒 富平美波 中川千枝子 西 義郎 花登正宏 樋口康一 藤本幸夫 星実千代 細谷良夫 前川捷三 村上嘉英

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旅と表象の比較研究
(高知尾 仁)(所員4名、共同研究員9名)

 この研究は、他者との出会いを提示し、他者の言表と他者世界が表象するものを解釈し、他者文化の持つ多様な意味を構成する旅のディスクールを主要な対象とする。その際、他者言説を生むコンテクストや、他者の自己(自己文化)との距離・差異の構築や、他者表象が持つ価値評価などが問題となると思われる。他者が直接的に語られるという前提への疑問と、他者表象のバイアスと他者についてのディスクールそれ自体が充分に見つめられなかったことへの反省として、近年欧米で飛躍的に研究が進められている旅行記研究に対応して、ここでは、近代ヨーロッパ(ルネサンス以降)の旅のテクストとそのほかの文化の旅のテクストを取り上げるとともに、他者についての多種多様な表象形態や、それに関連した諸理念(例えば、秩序、正義、正統、コスモス)の表象化についても研究の対象とする。従って、この研究では、旅論・表象論・他者論とそれらの交差する領域が取り扱われることとなる。このような比較研究によって、エクリチュールを有する文化による、他者と他者のいる場所と時間の配置・配列が明らかにされ、またその文化と他者との関係性(例えば、理想、調和、幻想、混乱、絶望、排除)を提示するディスクールが明らかにされるものと期待される。またさらには、他者に対比された自己(自己文化)のアイデンティティの提示の実体や、文化の普遍性や近代というディスクールについても考察されることが期待される。

荒木正純 彌永信美 宇波 彰 大室幹雄 重松伸司 田中純男 西尾哲夫 原 毅彦 渡辺公三

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アジア・アフリカ言語資料の情報処理と辞典編纂
上岡弘二(所員9名、共同研究員20名)

 本プロジェクトは、アジア・アフリカ諸地域における言語資料(テキスト、辞書など)の機械可読形式(machine readable form)化とその利用研究を目的とする。
 対象となる言語資料には、既存のメディアや形式の異なる資料(手書き、印刷物、各種テープ、フロッピーなど)ばかりでなく新たに目的別に構築すべき資料(各言語の機械可読辞書など)も含まれる。
 またこれらの資料を有機的に利用できる総合環境も研究課題としている。
 構築される機械可読形式の資料および研究成果は、本研究所内外の研究者に広く利用してもらうために、公開する予定である。

赤松明彦 家本太郎 内田紀彦 岡口典雄 長田俊樹 小野 基 熊谷康雄 児玉 望 佐々木嗣也 高橋孝信 武内紹人 塚本明広 中川聡史 中谷英明 奈良 毅 林佳世子 保阪修司 三浦 徹 矢野道雄 山下博司

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言語文化データベースの研究とCAI開発
峰岸真琴(所員7名、共同研究員4名)

 本プロジェクトの目的は、アジア・アフリカの言語を中心とした、多様な文化についての情報をデータベース化するための研究と、そのデータを利用して言語文化教育のためのCAI教材を開発することにあります。
 アジア・アフリカの言語の大部分は、「特殊な」言語と見なされ、極めて限られた学習の機会しかないのが現状です。また、その話されている地理的、文化的環境が、日本のそれとは大きく違うため、学習内容の理解が困難になることもあります。特に服装、行事、住居など言語による説明よりも、写真や映像にしたものを見たほうが理解が早いものもたくさんあります。
 また、言語学習そのものについても、テープレコーダによる録音教材だけでなく、ビデオや写真を組み合わせて構成した教材のほうが効果的なのは当然ですが、そのような教材を開発するには、言語、文化に関する画像、映像資料を常に収集、蓄積し、それを構成化して、いつでも利用可能なデータベースにしておかなければなりません。また、必要な資料を効率よく取り出し、それを有機的に結合して、教育用のCAIソフトを開発するには、一定のノウハウの蓄積が必要である。
 本研究所では、科学研究費補助金による、昭和63年度から平成4年度までの自動化研修システムの試作の成果を踏まえ、新たに平成6年度から、言語文化情報のCAI化の研究が進められており、4言語、4地域の言語文化情報の実用化を目指しています。
 本プロジェクトでは、より多くのアジア・アフリカ地域の言語と、その文化的環境を対象にして、
 (1)CAI開発の資料となる言語・文化情報資料の理論的研究
 (2)実際のCAIのプラットフォームとなるハードウェア構成の検討
 (3)現実に稼動しているCAI設備の見学、研究
 (4)CAIシステムの制作とその発表、評価
 (5)効果的なプレゼンテーション、ユーザーインターフェイスの研究

 を行い、実用的な言語文化に関する自動化研修システムの製作と運用を目指します。
大野仁美 武井直紀 益子幸江 山内譲二


シャン文化圏に関する総合的研究
新谷忠彦(所員3名、共同研究員8名)

 本プロジェクトは以下の目的をもって共同研究を行い、必要に応じて研究会を開き、その成果を資料集・論文集として出版する。
 (1)一つの複合文化交流圏(シャン文化圏)の解明のための方法論の検討。
 (2)シャン文化圏に関する情報収集と現地調査のための準備。
 (3)現地調査の報告と成果の検討。
 (4)シャン系言語の学習と修得。
 (5)文献資料及び非文献資料の解読・整理。
 (6)基本的文献資料の解読出版。
 なお、本プロジェクトと並行して、科研の海外調査「シャン文化圏における言語学的・文化人類学的調査」を行う。(1996年度〜1998年度)

飯島明子 石井米雄 上田玲子 宇佐美洋 加藤昌彦 加藤久美子 小坂隆一 横山慶子

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西南中国非漢族の歴史に関する総合的研究
クリスチャン・ダニエルス(所員5名、共同研究員16名)

 現在の西南中国は、もともと非漢族の居住地域であり、中国歴代王朝の支配下に少しずつ組み込まれていく歴史をもつ地域である。元明清を通じて、漢民族移民の増大と歴代王朝の統治政策によって、より多くの非漢族が中央政府に直接支配されるようになり、そのことによって民族移動が激しくなり、非漢族の土着社会に大きな変容が起こり、東南アジア大陸部へ移住する非漢族も出現した。だが、従来この歴史過程を総合的に分析する研究は僅少であった。
 本プロジェクトの目的は、(1)西南中国非漢族の歴史に関する研究発表、(2)史(資)料の発掘・収集・整理を行うことによって、従来注目されることのなかったこの地域の歴史に対する研究を促進することにある。なお、方法論として非漢族を主体とした分析視点を重視すると同時に、歴史学者以外に文化人類学、民族学、民俗学、言語学などの専門家の参加によって学際的なアプローチの構築を目指す。

上西泰之 井上 徹 上田 信 菊池秀明 岸本美緒 末成道男 武内房司 多田◇介 谷口房男 張 士陽 塚田誠之 寺田浩明 林謙一郎 吉野 晃 渡部 武 渡辺佳成

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東アジアの社会変容と国際環境
中見立夫(所員5名、共同研究員27名)

 近年における国際情勢の変化と学術交流の発展によってわれわれ歴史学研究者は東アジア各地域の文書館・図書館などに所蔵される一次資料に対し、以前とは比べられないほど容易に、接近できるようになった。さらに、現地学会でも、あらたな歴史評価・研究動向がおこり、われわれの研究への刺激となっている。ただ対象とすべき史料の量があまりに膨大で、その実態を体系的に把握してはいない。
 また、個別の研究が深化するとともに、より大きな視野のもとに、問題をとらえなおし、分析枠組みを再検討することも必要である。さらに海外学会との共同研究、史料調査も、双方にとって、より具体的で実りの多い形で推進しなければならない。
 本プロジェクトでは、このような研究状況を念頭におきながら、18世紀から20世紀初頭の東アジア世界各地域における社会の変容が、外部世界とどのように有機的に連関していたかという問題を中心にすえ、文書史料によりそれがどこまであきらかにできるか検討する。東アジアに関する史料と研究情報の開かれたフォーラムをめざしている。
 毎回テーマをかえながら、海外からのゲスト・スピーカーもまじえ、シンポジウム形式で研究会を開催し、また『東アジア史資料業刊』などの出版物も刊行している。

赤嶺 守 石井 明 石浜裕美子 伊藤秀一 井村哲郎 江夏由樹 岡 洋樹 尾形洋一 小野和子 笠原十九司 加藤直人 岸本美緒 楠本賢道 佐々木揚 坪井善明 中村 義 西村成雄 荻原 守 浜下武志 原 ◇之 藤井昇三 細谷良夫 松重充浩 毛里和子 森川哲雄 森山茂徳 柳澤 明

中央アジアにおける「民族」の創出に関する総合的研究
新免 康(所員2名、共同研究員18名)

 近年、ソ連の崩壊に伴う各「民族」共和国の独立や、中国の開放政策による新◇ウイグル自治区(東トルキスタン)の「発展」など、中央アジア地域が大きく変動している。そのなかで注目されるのは、「民族」文化の強調とイスラームの「復興」が顕著なことである。「民族」の文化的「伝統」や「歴史」の再発見、もしくは創造と言えるような局面さえ見いだせる。
 このような動向にはソ連支配の消滅や中国における民族政策の緩和に基づいた新規のアスペクトという側面がある。しかしその「民族文化」なるものを特徴づける枠組み自体は、むしろソ連時代に成型された歴史的産物なのである。近代以前の中央アジアは、ペルシャ語・文化と重層する形で、共通の文化的基礎としてトルコ・イスラーム文化の広がりをもつとともに、オアシス定住民諸集団・遊牧民諸集団の交錯する複合社会を形成していたと思われる。しかし、18〜19世紀に「異民族」・「異教徒」による支配に組み込まれ、さらに20世紀には、ソ連における「民族的境界画定」や、新◇における「民族」の規定を通じて、人為的な「民族」的枠組みが創出されていった。各「民族語」の成立もその一環と言える。これにより現在に至るまで様々なレベルにおける軋轢や矛盾が生じたが、その一方でこのような分断的な枠組みが次第に定着し、新しい文化の生成を促していったことも否定できない。
 そこで本プロジェクトでは、中央アジアが前近代から現在へと辿った歴史過程と現状に関して、基層文化の実態、「近代化」の進展、各国家体制における政治的状況、などとの関連を視野に入れつつ、「民族」的枠組の創出とそれに伴う社会・文化の再構成のダイナミズムを軸に多角的に検討を加えていく。

赤坂恒明 梅村 担 宇山智彦 大石真一郎 王 建新 帯谷知可 川口琢司 久保一之 小松久男 坂井弘紀 真田 安 澤田 稔 菅原 純 菅原 睦 濱田正美 堀  直 堀川 徹 山内昌之

African Linguistic Perspective: A Working Group ホームページはこちら
松下周二(所員4名、共同研究員20名)

 多様なアフリカの言語をアフリカの視点から観察、記述するための研究プロジェクト。同時に、日本のアフリカ言語学を世界に知らしめることも目的とする。音韻、文法研究を中心にしつつも、言語の社会的役割、言語遊技など、社会言語学的テーマも重要なものとなる。

市ノ瀬敦 江口一久 大野仁美 小森淳子 桜井 隆 清水紀佳 ジョン・フィリップス 砂野幸稔 竹村景子 柘植洋一 中川 裕 中島 久 西江雅之 稗田 乃 日野舜也 宮本正興 宮本律子 守野庸雄 湯川恭敏 米山信子

イスラム圏における異文化接触のメカニズムー人間動態と情報に関する総合的研究
家島彦一(所員8名、共同研究員19名)

(目的)
   過去5年間にわたる研究プロジェクト「市の比較研究」と国際学術研究「イスラム圏における市の比較研究」(平成元年〜平成3年実施)及び「イスラム圏における人間移動と共生システムに関する調査研究会」(平成6年〜8年実施)の成果をふまえて、人間動態のダイナミズムとそれにともなう言語文化接触の諸態様を総合的に分析・研究します。
 最近の世界情勢を念頭に、国家体制の解体、社会経済の変動、民族・宗教対立などの状況と人間動態のあり方について、年2〜3回の総合研究会と月1回程度の小研究会を行っています。
(研究の内容)
(1) 人間の地理的・社会的移動と言語・文化接触の流動現象(mobility)を「人間動態」としてとらえる。
(2) 人間動態の諸要因およびその動態と影響について言語学・歴史学・人類学・地理学などの諸分野から学際的に分析・研究する。
(3) 人間動態にともなっておこる言語文化適合(不適合)に関する事例研究
(4)複数の言語圏を統合するような共通言語の機能、複数の文化圏の基底に共通して存在する物質・生活複合や社会・文化共生の諸側面について検討する。
(5) 人間や情報の移動を支えるような受け渡しシステム、あるいは社会の中で情報やモノの交換・接続の役割を果たす要素についての比較研究を行う。
(6) 本年度は研究とりまとめのための最終年度であるために、調査資料の整理・分析を目的とした小研究会と、動態論のための総合研究会(3回)を計画している。

赤堀雅幸 大塚和夫 片倉もとこ 川瀬豊子 北川誠一 佐原徹哉 真田 安 清水宏祐 鈴木 均 鷹木恵子 店田広文 寺島憲治 永田雄三 西尾哲夫 濱田正美 原 隆一 堀内正樹 松本 弘 三木 亘

インド寺院儀礼の比較研究ー神像開眼儀礼を中心として
高島 淳(所員3名、共同研究員4名)

 インド宗教史の研究においては、仏教とヒンドゥー教、更にヒンドゥー教の中の様々な宗派の間の相互作用に焦点を当てることなくしてその歴史的展開の実相に切り込むことはできない。表面的に現れた思想史的関連については従来からも多少の研究はあったが、宗教生活の深層の現れである儀礼をめぐっては今までそうした研究はほとんど行われていない。
 本プロジェクトは、儀礼の中でも、神像開眼儀礼(prati\d{s}\d{t}h\={a})という神像に神性を付与する儀礼に焦点を当てて仏教とヒンドウー教諸宗派の間の比較研究を行いながらインド宗教史の発展に関して新しい視点を切り開こうとするものである。
 対象とする宗派は、プラーナ文献のヒンドゥー教(永ノ尾)、建築学文献のヒンドゥー教(小倉)、インド後期密教(森)、ヴィシュヌ教パンチャラートラ派(引田)、シヴァ教(高島)であり、文化人類学(石井、田辺)の側からの現在の寺院儀礼についての知見も積極的な比較の対象となる。
 直接的な目的としては、ヒンドゥー教成立時(ヴェーダ文献終期からプラーナ文献初期、およそ紀元頃から4世紀)から、現在まで続くヒンドゥー教の完成期(シヴァ教とヴィシュヌ教の固定期、およそ13世紀)までの期間における神像開眼儀礼の発展と展開を仏教との対比において明確にすることにある。
 このような研究によって、ヒンドゥー教と仏教におけるこの儀礼の歴史的展開について従来不明であった諸点を明らかにすることができるのみならず、儀礼の背後に見える思想の分析を通じて神性と人間のあり方に関するインド的心性の様相の発展について新たな知見を得ることが期待される。

永ノ尾信悟 小倉 泰 引田弘道 森 雅秀

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多言語共存環境における文字コードと照合(collation)系についての研究
豊島正之(所員6名、共同研究員3名)

 アジアの複数の言語・表記系の混在する環境で、多言語共存電子メール・wwwページ等を正しく表示し、多言語対照テキストデータベース、対訳辞書などを編纂・検索するためには、文字コードを曖昧さ無く運用し、それに基づく文字列操作(string manipulation)・文字列照合(collation)を行う事は、必須の要素である。
 にも拘らず、現状の国際文字コード(符号化文字集合)とそれに基づく計算機システムでは、これらアジアの諸言語の文字列操作・照合に対する配慮が十分でなく、提案されている諸システムも、安定的な運用を行うには不十分で、現に、現行のUnicode・ISO/IEC 10646-1に基づく安定運用が行われているシステムは見出し難い。
 本プロジェクトでは、こうした現状を打開し、新たに、将来にわたっての安定運用が可能な国際的な提案を行うために、下記の4点について、現状の問題の明確化と、それに対する対案を提案する為の基礎的研究を行う。
 1.アジアの複数の言語・表記系(例:タイ、カンボジア、ウルドゥー、ドラビダ、ペルシャ、デーバナーガリー、漢字)が共存する環境で、曖昧さ無く運用可能な文字コード(符号化文字集合)の策定、及びその運用方法の策定。
 2.文字列データに対する基本的な操作(manipulation)の定義。即ち、文字列に対する基本的な操作である文字検索、「ー文字」の削除・追加などに就ての、実装方法を考慮した定義。
 3.複数の言語・表記系が共存する環境での、文化的に正統な文字列の整列(sorting)・照合(collation)の方法。
 4.文字列出力(presentation forms)。

太田昌孝 芝野耕司 安岡孝一

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「中華」に関する意識と実践の人類学的研究
三尾裕子(所員3名、共同研究員14名)

「中華」に関する意識と実践の人類学的研究  近代以前の中国周辺地域は、中華文明を長く理想型と見なし、それを積極的に取り込むことにより、自らの文化の正統性を確保してきた。しかし、近代以降は、この地域の諸国家では国境が確定され、国家建設のために西欧近代をモデルとしたイデオロギー(共産主義を含めて)を求 心力として国民を各国の中心へ引きつけるという動きが見られた。ところが、近年では、これらの国々は、急速な経済発展を遂げて政治経済的に自信をつけ初めおり、いわば「一枚岩の国民」を作り上げるイデオロギーにこだわる必要もなくなり、民主化、対外交流、多様性の容認等といった現象が見られるようになった。   他方、中国も対外閉鎖路線から開放政策へと転換を図ることで、経済発展の道を歩み始めており、地方の主体性を容認して、対外交流を積極的に押し進めるようになってきた。このような中国側及び周辺諸国側双方の変化は、両地域の経済及び文化の側面での相互交流を促進し、両地域の伝統文化の変容、民俗文化の再創造といったプロセスが進行しつつある。さらに、このことは、中国国内の周辺部とそれに歴史文化的につながりのある周辺諸地域との間の新たなネットワーク形成、経済・文化圏形成にも繋がってきており、かつての周辺地域を新たな中心とする、中心周縁関係が生み出されつつある。 以上のことから、本共同研究では、昨今の経済発展の中での各地域における民俗文化の再編成・再創造のプロセスを明らかにし、従来の国家の枠組みを解体・再構成するような社会・文化の創造の可能性に関して新しい視点を提起していくことを目的としている。本研究は三年計画を予定しているが、初年度では、特、香港と台湾を中心にとりあげ、他の諸地域及び中国本土との比較を試みる。二年度と三年度は、対象地域を広げ、雲南及び中国と東南アジアの国境地域、チベット、中国西北部、モンゴル、韓国、ベトナムなど、もしくはかつて歴史的に中国と朝貢関係にあった東南アジア諸地域等へ重点を移していきたい。

植野弘子 小熊 誠 笠原政治 川崎有三 韓  敏 佐々木衛 清水 純 秦 兆雄 末成道雄 瀬川昌久 聶 莉莉 西澤治彦 秀村研二 堀江俊一


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インド洋海域世界に関する基礎的研究
深澤秀夫(所員5名、共同研究員11名)

 16世紀以降の近代世界システム成立以前に存在した、多様な人びとが共有する活動や交流の空間の中で最も広範囲なもののひとつが、「インド洋海域世界」である。紀元前数世紀に姿をあらわし、8世紀から16世紀にかけ、インド亜大陸をはさんでアラビアから東アフリカ地域と東南アジア地域とを交易と人の移動によって不断に結びつけていたのがインド洋海域世界であり、この海域世界の存在とダイナミズムが、その当時とその後のインド洋に位置する陸世界の歴史や国家また社会や文化のあり方に多大な影響を及ぼしたことが近年次第に認識されている。さらに、欧米による近代世界システムによってインド洋海域世界が包摂され、その結果主権国家や領域国家によって陸上はおろか海上まで分断された後も、インド洋海域における人と物の行き来や交通が停止したわけではなく、むしろ欧米の行った奴隷交易・契約労働移民・植民地化の諸施策は、新たな人の移動を生み出し、インド洋海域のネットワークを拡大させ、人と物との混交をより一層深めたと見なすことができる。このように、「インド洋海域世界」は、様々な言語と文化をもった人びとが2000年の時の経過と共に行き交う中でつくりだした社会と歴史の総体であり、言わば多元性と多層性がその特徴である。本共同研究プロジェクトでは、オセアニア・東南アジア・東アジア・アラビア・東アフリカ・インド洋島◇の各社会および言語・文化・社会・技術・農耕の各分野の専門研究者を集い、「インド洋海域世界」という視点の許にこの多元性と多層性にアプローチしてゆく可能性について討議してゆくことを、当初三年間の目標として設定している。

秋道智弥 飯田 卓 内堀基光 川床睦夫 崎山 理 杉本星子 田中耕司 富永智津子 花渕誓也 松浦 章 森山 工

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独立インドの政治とカースト−州レベルでの研究を中心に−
内藤雅雄(所員2名、共同研究員13名)

 インドは間もなく独立後半世紀を迎える。その間インド政治の重要な問題の一つが連邦(中央政府)・州関係であったが、憲法の連邦制規定にもかかわらず、実際は中央集権的体制の下に州政治は多大な制約を受けてきた。しかし近年、かつて一党独裁と形容された国民会議派の組織力は脆弱化し、連立政権体制が不可避の現実となっている。今や連邦制のあり方、州政治の意味・役割に関する新たな検討が重要な研究課題である。
 本研究は、こうしたインドの州政治状況の変化と実態を、カースト諸関係を一つの手がかりとして考察する。州政治を動かす要因は様々であるが、重要な鍵がカーストである点は今日なお否定できない。「政治のカースト化」「カーストの政治化」という現象はますます顕著である。一方、従来のインド州政治研究が扱った各州のカースト状況にも大きな変化が起こっている。特に1980年代以降の「下層階級(カースト)=OBC」をめぐる「留保問題」、指定カーストに基盤を置くバフジャン・サマージ党の台頭等々、多くの新しい現象が見られる。
 主要な作業は、各州のカースト間の諸関係を明らかにし、特定のカーストの政治的結集や複数カースト間の政治的提携、あるいは離反・対立をもたらす諸要因を検討することである。様々なレベルの選挙でのカースト票の流れだけでなく、インド特有の社会区分と言われるカーストと政治のつなぎ目を州別に具体的に探る。選挙や政治活動によって出来上がったカースト関係(「政治化したカースト」)が、社会生活上のカースト関係にどうフィード・バックしていくかという観点も必要であろう。本研究の中心テーマは政治であるが、より深い考察を目指し、政治・歴史・経済及び文化人類学の分野の研究者を含む研究態勢で進める。

粟屋利江 井坂理穂 井上恭子 押川文子 近藤則夫 佐藤 宏 篠田 隆 杉山圭以子 関根康正 長谷安朗 堀本武功 山田桂子 脇村孝平

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東南アジアにとって20世紀とは何か
根本 敬(所員6名、共同研究員16名)

(1)20世紀の東南アジア史を概観するという時系列的な問題意識ではなく、東南アジアの歴史に「20世紀という時代」がもたらした変容を問題にし、それに基づいて東南アジア史の側から見た「20世紀」の統括を試みるものとする。
(2)その際の重要項目として、「ナショナリズムと国民国家の形成」「近代思想と伝統思想の葛藤」「国民経済の成立と展開およびグローバリゼーションの影響」「民衆生活の変容」の4点を設定し、それぞれについて東南アジア各国の様相を比較の視点を重視しながら議論していく。
(3)東南アジアの歴史を扱うため、プロジェクト参加者は前近代史を含む歴史研究者を中心とするが、そのほかにも東南アジアをフィールドとし、かつ現地の言語と文化に通じている政治学者、人類学者、経済学者、文学研究者にも参加を要請する。
(4)研究会においては基本報告とコメンテイターによる議論を核としつつ、できる限り議論に時間をかけ、かつ毎回の記録を作成して次の回までにメンバー全員に配布する。
(5)3年計画のプロジェクトとする。

石井和子 奥平龍二 押川典昭 川島 緑 菊池陽子 小泉順子 斎藤照子 嶋尾 稔 末広 昭 鈴木恒之 土佐桂子 中野 聡 弘末雅士 福島真人 古田元夫 村嶋英治
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その他のプロジェクト

言語研修
梶 茂樹(所員15名、共同研究員7名)

 言語研修委員会は、その分野に精通する研究者によって構成され、アジア・アフリカの言語に習熟し、実際的に役立つ能力を高める最も効果的な方法を検討することを目指しています。
 短期集中言語研修の目標は、
 1)口語及び書き言葉の能力をつける。
 2)言語の科学的研究と実際的応用の訓練の提供。
 3)大学院相当の学生に野外調査を実施するための手段としての言語習得の援助。
 専門委員会が年2回、専門委員・共同研究員合同会議が年1回開催され、研修言語の選定、教授法、開催時期・期間、実施方法、評価等について討論します。

大坪一夫、栗林 均 長野泰彦 松田みか 森安孝夫 山田桂子 吉川武時

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過去に行われたプロジェクト(1996年度終了分)


音・図像・身体による表象の通文化的研究
川田順造 (所員11名・共同研究員19名)

 この学際的共同研究では、音(音声言語を含む)、図像(文字 を含む)、身体による表象を、相互に関連させてとりあげ、通文化的 な視野で検討します。これらの総合されたものとしての映画・演劇も 対象とします。異質な媒体による表象をあえて関連させ、対比するこ とによって、それぞれのうちに、あるいは全体の中に、隠れていた特 質や問題を発見してゆきます。
 第3年度目までは、基本的な問題の設定、音・図像・身体それぞれ を媒体とする表象の事例研究を通して問題の検討を行いました。第4 年度目は、より抽象度を高め、異なる媒体の表象を関連・対比させて とりあげ、「表象」という概念についても学際的な視野で再考します。

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言語文化接触に関する研究
中嶋幹起 (所員9名・共同研究員28名)

 東アジアに共生する幾多の民族の言語は多様性に富み、その長 い歴史と相まって、多くの言語資料が集積されています。さらに、近 年は中国やソ連などの開放政策により学術成果も公にされつつありま す。  本プロジェクトでは、朝鮮語、満洲語、モンゴル語、エウェンキ語、 漢語、ウイグル語、チベット語苗語、西夏語、白語、東南アジア諸語 等の言語研究者が現地調査での成果を報告し、それぞれの研究につい て、言語学のみならず、文化人類学、歴史学などの分野を含めた多角 的かつ広域的視点から討論をおこないつつ、言語のダイナミックスを 探ります。

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個別言語のデータの分析・記述と言語類型論
林  徹 (所員4名・共同研究員47名)

 この共同研究プロジェクトは、各参加者が自分が専門とする言 語の音韻・形態・文法デ−タを持ち寄り、それらを他の言語の研究者 と一緒になって分析することにより、そのデ−タから得られる知見を、 その言語の専門家でない研究者との間で共有できるような、できるだ け一般的な形で提示するための分析・記述方法を開発することを目的 としています。こうした作業を通し、個別言語の研究と言語類型論の 研究の双方にとって最適の言語研究のパラダイムを構築することをめ ざします。
 今年度は、昨年度に続き、「所有表現」をテ−マとし、さらに、個 別言語デ−タを広く共有する具体的な方法のひとつとして、コンピュ −タの言語研究への利用法もひき続き取り上げる予定です。また、昨 年度開始した語彙機能文法に関する連続セミナーも継続して行います。

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物語と民衆の認識世界:物語の発生学
小田淳一 (所員12名・共同研究員28名)

 アラビアン・ナイトが中東・イスラム世界の民衆文化の研究に とってはもちろん、民話研究を含めた物語学一般にとっても最高の資 料であることはあらためて強調する必要もないでしょう。アラビアン ・ナイトは、ヨ−ロッパのオリエンタリズム的嗜好が創った西欧文学 の不可分の要素として、ヨ−ロッパとオリエントを相補的に映す鏡で もあります。
 本研究では、まずアラビアン・ナイトの誕生と変容に焦点をあて、 中世的語りの世界におけるアラビアン・ナイトの生態を見極めたいと 思います。その上で、物語がいつどのように発生するのかについて考 えるつもりです。「語り」の形態=媒体が文字テクストと音響映像に 分化した現代、特に文学が《書物》として個人空間に閉じ込められた 現代において、その分化以前の物語を体現したアラビアン・ナイトに ついて語ることは、コミュニケ−ション(=語り)媒体のモジュ−ル 的合体の総和、つまり原初的な語りへの回帰と捉えることもできるマ ルチメディアの未来を、いわば遡行的に描くことにもつながります。

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カンボジア事典編纂のための基礎的研究
峰岸真琴 (所員2名・共同研究員13名)

 本プロジェクトの設立目的は、カンボジアについて、言語、歴 史、民族、民俗、文化、政治、経済、社会等のあらゆる分野において、 いわゆる百科事典的な基本的情報を集積していくことにあります。こ れと並行して、カンボジアに関する基礎的デ−タの充実に役立つよう な、現在各分野において入手可能な文献、資料のデ−タベ−スを作成 することも企画しています。
 将来的にはその成果を、電子メディアを含む何らかの事典の形式に まとめることを構想しています。

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東アジアの社会変容と国際環境
中見立夫 (所員5名・共同研究員28名)

 近年における国際情勢の変化と学術交流の発展によってわれわ れ歴史学研究者は東アジア各地域の文書館・図書館などに所蔵される 一次資料に対し、以前とは比べられないほど容易に、接近できるよう になった。さらに、現地学界でも、あらたな歴史評価・研究動向がお こり、われわれの研究への刺激となっている。ただ対象とすべき史料 の量があまりに膨大で、その実態を体系的に把握してはいない。
 また、個別の研究が深化するとともに、より大きな視野のもとに、 問題をとらえなおし、分析枠組みを再検討することも必要である。さ らに海外学界との共同研究、史料調査も、双方にとって、より具体的 で実りの多い形で推進しなければならない。
 本プロジェクトでは、このような研究状況を念頭におきながら、18 世紀から20世紀初頭の東アジア世界各地域における社会の変容が、外 部世界とどのように有機的に連関していたかという問題を中心にすえ、 文書史料によりそれがどこまであきらかにできるか検討する。東アジ アに関する史料と研究情報の開かれたフォ一ラムをめざしている。
 毎回テ−マをかえながら、海外からのゲスト・スピーカーもまじえ、 シンポジウム形式で研究会を開催し、また『東アジア史資料叢刊』な どの出版物も刊行している。

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