四月 サカ月

 

第一段落 / 第二段落 / 第三段落 / 第四段落 / 第五段落
第六段落 / 第七段落 / 第八段落

第一段落

 ラサでは四月になると相当暖かくなります。チベットでは四月には雨は降りません。ですから、昼間はとても暑いんですよ。でもインドほど暑くありません。朝と晩は涼しいんです。四月は仏教的な面では、サカ月と言って、四月の十五日の月が満ちたときに、仏陀生誕のお祭りと、仏陀成道のお祭り、仏陀入滅のお祭りの三つが同じ時に重なっています。ですから、そのお祭りは大切に思われています。サカ月と特に四月十五日に善行をたくさん行えば一万倍にも十万倍にもなると仏教の経典に書かれています。ですから、人々は篤く信じて、善行を積みます。

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(注釈付き)

第二段落

 どのような善行をするかというと、その日ツグラーカンにお灯明を上げ、右遶をし、全身を地に投げ打つ五体投地の礼をしたり、断食無言の行に入ったりなどの善行をたくさん行います。四月一日から三十日まで、サカ月の期間中罪を犯さないようにし、善行を積むなどをします。また、サカ月に良くない行為すなわちたくさんの罪を積んだら、同様に罪も倍加されます。ですからサカ月にはチベット人は皆罪深いことはやめ、善行をおこなうように一生懸命努力します。

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第三段落

 サカ月の十五日に政府からも各僧院に臨時の供養料がたくさん与えられます。そのとき大臣の方々と大書記官の方々、ラプラン出納局の執事の方々、出納局の執務官すべての方々が各々制服制帽を着用したまま、外苑道路巡り(リンコー)にお出かけになります。いつも仕事場で着用しているのと同じ着物と履物、帽子を身につけてリンコーにお出かけになるのです。リンコーに行くときは、ツグラーカンとポタラ宮の周りを回らなければなりません。その距離というのは五マイルあまりあるようです。リンコーに行くときは日差しが強く、たいへんお疲れになります。しかし道中でお休みをとりながら歩くし、喉が乾いたら水分もたくさんおとりになります。それからリンコーの道のりが半分ほど過ぎると、ポタラ宮の後ろ側にある龍神殿に到たちします。龍神殿の周囲は池になっています。そういうわけで龍神殿に行くときは、みな革舟に乗っていきます。ハトンの渡しから革舟の舟頭たちがみんなを龍神殿に(運ぶために)革舟を持って革舟を漕ぎにやってきます。ハトンの渡しというのは革舟を漕ぐ人たちの住んでいる地域のことです。

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第四段落

 その時期には大勢のラサの人々がリンコーをし、龍神殿にやってきてピクニックをして過ごします。一般の人たちもその時期は池の中を革舟に乗ってたいへんさかんに行き来します。ですから革舟の舟頭たちは一般の人々から舟賃がたっぷり入ってきます。しかし政府のお役人たちが龍神殿に行くときは、舟賃は支払われません。政府のお役人さんたちを龍神殿まで革舟でお連れするというのはハトンの渡しの舟頭たちの税のようなものなのです。

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第五段落

 大臣の方々や大書記官たちが龍神殿に参拝にいらっしゃるとき、ラプラン出納局がお茶とご飯、お水などはすべて用意しなければなりません。龍神殿の池を革舟に乗っていくというのは、サカ月の十五日だけで、普段は行いません。その日はピクニックをする人がとてもたくさんいます。巡礼路巡りをする人や五体投地の礼をする人たちはサカ月の一日から十五日まで、跡絶えることなくとてもたくさんいます。中でも身体全体を投げ出して行う五体投地の礼(キャンヂャー)をする人がとても多いです。キャンヂャーをしながら巡礼路巡りをすると、おおよそ十日から十二日かかります。朝早く夜が明けないうちに五体投地の礼をしに出かけます。昼間日差しが強いときは休みをとってしばらくやめています。

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第六段落

 全身で五体投地の礼をする人たちには、身近な親しい者たちが毎日交代で休憩をとっている場所がどこにあたっていても、そこにお茶とお菓子、お食事などを差し上げるために出向きます。また豪勢な準備をして、テントを張って待っている人たちもいます。それにまた、リンコーの周囲には物乞いが大勢列をなして麦焦がしやお金をくれる人を待っています。リンコーに行く人たちは、お金と麦焦がしの入った袋を持ってお布施するのです。

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第七段落

 その日(十五日)は特別なお祭りであるので、動物の命を救う者も大勢います。屠殺場から羊の命を救ったり、漁師の手から魚の命を救ったりする者が大勢います。またある者は、川辺の水が干上がりそうなところに魚や蛙、おたまじゃくしなどが乾いて死にそうになっていたら、干上がっているところから取り出して、水のたっぷりあるところに投げ込んだりもします。これもまた、動物が死なないように命を救う策を講じたというつもりなのです。チベットのあちこちの地域で同じような善行がおこなわれています。サカ月の間は、歩くときでも足の下で虫を殺してしまうと思って、出歩かずに家の中で読経して過ごす人もたくさんいます。

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第八段落

 またサカ月の間は大勢のラママニ(旅回りの説教師)がタンカ(仏画)を持って人々に説法をしにやってきます。彼らは大部分がツァン方面からやってきています。ツァン方面からやってくる人たちはギャンカラと呼ばれています。彼らの説法の仕方がどういうものかというと、タンカにたくさんの物語が描いてあるのを持ってきます。物語はどんなものかというと、ドワ・サンモ、ペマ・ウンバー、ティミー・クンデン、チュン・トゥンユー・トゥンドゥプ、ポモ・ナンサ、ギャサ・ペーサ、ノーサン、スーキ・ニマなどのお話をその生い立ちの始めから最後まで話します。彼らがお話を話すと、人々の心によく残るのです。そして聞いている人々はラママニにお金のお布施を差し上げます。ラママニたちは説話をそらで話せます。台本を読む必要はありません。ラママニたちはサカ月の間に得たお布施のお金をみんなそれぞれ各自のお寺に献上します。説話のお話は悲しみを誘うものなので、聞いているものたちの目からは自ずと涙があふれてしまいます。その上説話のお話はみんな因果応報についてのものなので、仏様の教えだという思いがして、信仰の念とうれしさもまた込み上げてくるのです。
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