2.6.世帯形態
 

 ここでは世帯形態を以下の4つのタイプに大別し、調査3村におけるタイプ別の世帯数とその変化を検討する。

 A:複数の世代に既婚者が存在し、どこかの世代に複数組の既婚者がある。

 B:少なくとも2世代に夫婦が一組ずつ存在する。

 C:揃っている夫婦が一組のみ。

 D:どの世代にも揃った夫婦が存在しない。

 3村とも、同じ世帯内の既婚男性は通常、父系でつながるが、例外も少数存在する。一夫多妻例もごく少数あるが、ここでの分類では便宜的に夫婦一組と見なす。



2.6.1. S村(ネワール)の世帯形態別世帯数
 

 S村の世帯形態別世帯数をカーストごとに示したのが以下のグラフである。

上記A〜D型の世帯形態は、「表現形」としては存在するが、世帯形態の理想型はA型である。すなわち条件が整えばそうあるべきであるとされる世帯の形態は、親夫婦が揃い既婚の息子夫婦(できれば複数カップル)が同一世帯に住む形なのである。しかし現実には、親がいなかったり、兄弟が(生きて)いなかったり、あるいは他出しているなどの理由でB型あるいはC型などの世帯しか形成できない例は多い。さらにA型を形成していた世帯が何らかの理由で分裂することも稀ではない。それらが複合する結果として、「表現形」としてはいわゆる「核家族型」のC型が多く、「直系家族型」のB型(あるいは場合によりA型)がそれに次ぐという比率となり、それはほとんどの時点での3村の世帯形態のあり方を通じて見られるところである。また、それはカースト別に見た場合にもかなりの程度いい得る。


S村 世帯形態別世帯数の推移
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世帯形態別世帯数の比率の変化

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S村 世帯形態別居住合計人数の変化

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   S村では、社会経済変化や、人口自体の変化はかなりの程度見られるが、全体としてみた場合世帯形態のグラフには急激な変化はない。敢えて指摘するとすれば、1984年に「核家族化」が進んでいるような数値が見られるが、それは1996年には元に(1970年代に似た比率に)戻ってしまう。カースト別に見た場合、人口の少ないカーストでは当然ながら比率のあり方のばらつきがあるが、人口の多いカーストすなわちシェショとジャプでは世帯形態ごとの比率にそれほど大きな差異がなく、変化もなだらかである。このあり方は、カースト間に大きな人口差があったり、あるいは有力カーストであるシェショとジャプの間の社会的な差異が存在することを考えれば、むしろそれ自体が興味深い。これは、他の2村と比べた場合にも指摘できることで、B村では変化の態様にある特異性があり、G村ではカースト間にS村やB村にはない変化のあり方の違いがある。



2.6.2 B村(バルパテ・ヒンドゥー)の世帯形態別世帯数

B村 世帯形態別世帯数の推移

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B村 世帯形態別世帯数の比率の変化

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   B村の世帯形態の変化を見ると、A型およびD型の世帯が減少し、B型は漸増、C型は増加しているという傾向が見られる。カースト別に見てみると、どのカーストでもC型すなわち核家族的な世帯が増加していることがわかる。これは一部にはD型の増加、すなわち夫婦が揃っていない世帯の人が世帯持ちになったという変化によるが、いちばん複雑な型であるA型が少なくなり次のB型が漸増にとどまることにより、全体としてC型の増加という結果になっている。ごく一般的な言葉を使えば、世帯の「核家族化」傾向といえるが、それにもかかわらず上で見たようにB村の平均世帯員数は2時点間で上昇している。つまり、世帯形態は単純化しても世帯内の人口は増えるという世帯がかなりあるのである。この方向は、ひとつには、親夫婦や既婚の兄弟と一緒に住んでいた夫婦が、比較的早く彼らから分かれて別の世帯を作るというケースが多くなっているということを示すが、それは同時に世帯人口の減少につながっているわけではない。核家族化した世帯の中にかなり多く(5〜6人)の未婚の子供が存在する例が珍しくないという現象が現れているのである。以前は幼児死亡率が高かったと考えられるが、近年では子供が生き残る確率がかなり高くなっているのである。これは栄養、衛生・医療の改善によるところが大きい。そしてそれは、ここで見る限り全カーストについていえることである。

 

2.6.3 G村(ミティラー)の世帯形態別世帯数

G村 世帯形態別世帯数の推移
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G村 形態別世帯数の変化

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 世帯形態はG村では全体的には、もっとも複雑なA型が少なくなり、そのかわりB型が増えるという点が顕著なものとして指摘できる。C型、D型ともに漸増であり、全体としては世帯形態は単純なものが多くなる傾向にある。すでに見たように、ここでの平均世帯員数は2時点間で下降の傾向を見せていたが、これは世帯形態の単純化と整合的な方向であり、比較した場合、むしろ、B村の方が特異な状況にあるといえる。

 G村の世帯形態の変化をカースト別に見た場合、ブラーマンでは2時点間の変化はそれほど大きくないが、ダーヌックではB型が増えてC型が減っている。一方、低カーストのタトマーでは、A型の減少とB型の増加、C型の比率の漸増が指摘できる。少し詳しく見ても、ここ7年以内にA型の世帯が分裂していくつかのC型およびB型の世帯になった例は10<例近くあり、現象的には「核家族化」が進んでいると見える。ただ、ダーヌックの例もあり、また先のS村の変化のところで見たように、これがごく一時的な動きである可能性もあり、これについてはさらに将来の変化を追跡する必要がある。

 以上のように、3村における人口、世帯形態の変化を見た場合、S村では(経済変化等を受け)人口面での変化がかなりありながら、世帯形態は、26年間でそれほどの変わりを見せないという結果になっている。しかしこれは中間での変化の不在を意味するものではなく、1978年には世帯形態の少々の複雑化傾向があり、1984年には逆に単純化が見られた。そのような変動を経つつ、1996年には比率としてはむしろ1970年のものに近い数に戻っているのである。

 B村の傾向は興味深く、形態的には核家族化しつつ、世帯内が平均的には混んできているという形が見てとれる。ここで分析した対象とした面ではカースト差は少ない。G村は全体的には緩やかな世帯形態の単純化の方向に見えるが、カースト差はかなり見られる。

 このように見た場合、調査対象村落ごとの変化のカースト差のあり方には相当な相違があることがわかる。また、世帯形態の全体的な変化のあり方も多様である。そして、その変化は「核家族化」というような単純な用語では捉えきれない様相を示す。それを生業、教育、衛生等々を視野に入れながら考察するのは、別の章での仕事となる。


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