言語学者の求める表記方法と話者コミュニティの求める正書法の間のギャップ


 言語学者にとって,表記の第一の目的は,言語の音声データを正確に表示にすることです。そのため,彼らの表記においては,対立のあるすべての要素(音素,および超分節的特徴)を効率的に書き分けることが優先されることになります。一方,話者コミュニティは,原則としてその言語をよく知っている母語話者の集団ですから,厳密な対立の表示は求めません。また,彼らにとって,正書法は,その集団のアイデンティティを対外的に示すシンボルとしても機能します。それゆえ,文字種の選定などに関して言語学者とは異なる社会的,経済的,政治的要望を持つことになります。
 そのため,言語学者の求める表記と,言語コミュニティが求める正書法の間には,本質的にいくらかのギャップが生じることになります。


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