Q1:大文字と小文字に異なった音価を持たせることについて


(文責)若狭

記述言語の場合

解説

慣習では、大文字は固有名詞の語頭や文頭などに用いられることが多いのですが、そこに言語学的必然性はありません。この慣習から離れれば、大文字と小文字で別々の音価を持たせる事も可能になります。そうすれば用いることのできる記号が二倍になり、音素の数が多い言語の場合に多くの音素を補助記号なしに表すことができるという利点があります。 さらに、大文字と小文字の関連性を利用して音韻システム内の体系性を反映させることができるという利点もあります。( ただし、慣習的表記から離れることの短所というものも否定できません(以下参照))。 以下に大文字と小文字で別々の音価を表すことの長所を具体的に挙げます。

長所
  1. 表し分けることができる音素の数が増える。
    アクセント記号などの補助記号を使うことなく、パソコンのキーボード上から直接簡単に入力が出来ます。テキストファイルなど汎用性の高い形式で保存しておくことが可能です。
    複数の記号で一つの音を表す必要が減ります(別項参照)。
  2. 音韻システム内の体系性を反映させやすい。
    例1)小文字を普通の無声音に、大文字を対応する喉頭化音に充てる(例)。

    例2)母音調和のある言語の場合、ある類には小文字を、もう一つの類には大文字を充てる(例)。


正書法の場合

解説

大文字と小文字に別の音を割り当てるという方法は、少なくとも実用的な正書法としては余りお薦めできません。

短所
  1. 慣習からはずれることへの違和感。英語等の西洋諸言語の正書法の影響はあまりに強く、文頭を小文字で書き始めることに対して、何とも言えない違和感を感じる人が多いでしょう。慣れの問題というのは馬鹿になりません。コミュニティーの人が不自然に感じる正書法を、言語学で説得してまでわざわざ採用する必要はないのではないか、私はそう思います(若狭)。
  2. 文字の形。特に手書きの時ですが、紛らわしい文字があります。cとC、kとK、oとO、sとS等です。異なった音価を担わせる場合、このようなまぎらわしさは、大きな問題となる可能性があります。

表す音という点では全く同じ文字が二つずつ存在するなど一見無駄に見えますが、音以外の何かが表せるという点では、実に秀逸な仕組みなのです。大文字と小文字の区別を純粋に音の区別のためにではなく、それ以外の機能を担わせるために取っておく価値はあります。以下にそのような機能の例を挙げます。

大文字・小文字の機能
  1. 固有名詞を大文字で始める
    英語の場合、固有名詞を大文字で始めるという習慣がありますが、これがどれほどありがたいものなのか、例えば、大文字小文字の区別の無いアラビア語で、固有名詞である事が見抜けなかったために何十分も辞書と格闘した経験のある人にはすぐ分かると思います。ネイティブの人には固有名詞であるのかないのかは割合に自明な事かもしれませんが、普通名詞と固有名詞が同じ音形であることもありますし、固有名詞を大文字で始めることには一定のメリットがあります。
  2. 看板や文書のタイトル等、総て大文字で書くことによって、ある種の表現効果を出すことができます。



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