アジアの言語のうち声調を持つ言語の系統的内訳は、漢語諸方言、タイ系、チベット=ビルマ系(声調を持たないものもある)、ミャオ=ヤオ系およびモン=クメール系(ヴェトナム語)などである。
これらの中でも特に漢語・タイ語・ビルマ語の使用地域を中心とする地域では、他に比べて声調というものに対する意識が強い。
ビルマ語はモン文字を、タイ語はクメール文字を、それぞれもとにして自言語のための文字を作り出した。モン語・クメール語には声調が存在しないので、当然ながらモン文字・クメール文字は声調表記のしくみを持たない。そのため声調を持つビルマ語・タイ語は自言語の弁別特徴である声調を表し分けるための表記を新しく考案した。ラオ文字・ラーンナー文字・シャン文字・カレン諸文字などもそれぞれの言語の声調を表記するためのしくみを持っている。
漢語の表記に用いられる漢字は非表音文字であり声調表記の仕組みも持たない。しかし漢人は古くより自らの言語が声調(四声)を持つことに気づき、唐代以降、漢字をまず声調ごとに分類して配列した「韻書」と呼ばれる字典が数多く編纂された。
声調に対する意識の強さは、その言語において声調が形態素や語の弁別に果たす重要性の度合と関連があるのかもしれない。
また、自言語あるいは近隣言語が声調表記を含む文字体系をすでに持っていれば、新しい表記法を作る際にその影響が現れるということは当然あり得る。
これらの事柄は、声調表記というものを考える際に無視できない重要性を持っている。
チュワン語の声調表記(韋・覃 編「中国少数民族語言簡志叢書・壮語簡志」による)
第1調 | (記号なし) | na | 「厚い」 | 第2調 | sの左右反転字を音節の後に付加* | na2 | 「田」 | 第3調 | зを音節の後に付加 | naз | 「顔」 | 第4調 | чを音節の後に付加 | vaч | 「瓦」 | 第5調 | ローマ数字の5に似た符号を音節の後に付加* | va5 | 「スカート」 | 第6調 | ъを音節の後に付加 | vaъ | 「話」 |
調類 | 1 | 1' | 2 | 3 | 3' | 4 | 5 | 5' | 6 | |
調値 | 55 | 35 | 11 | 323 | 13 | 31 | 53 | 453 | 33 | |
表記 | l | p | c | s | t | x | v | k | h | |
例 | 舒 声 | bal 魚 | pap 灰色 | bac 耙 | bas 父の姉妹 | qat 軽い | miax 刀 | baqv 葉 | pak 破れる | bah 糠 |
促 声 | bedl 鴨 | sedp 七 | medc 蟻 | bads 鉢 | padt 血 | bagx 白い | ||||