アジアの言語の転写法・正書法における声調表記


(文責)澤田

アジアの言語のうち声調を持つ言語の系統的内訳は、漢語諸方言、タイ系、チベット=ビルマ系(声調を持たないものもある)、ミャオ=ヤオ系およびモン=クメール系(ヴェトナム語)などである。

これらの中でも特に漢語・タイ語・ビルマ語の使用地域を中心とする地域では、他に比べて声調というものに対する意識が強い。
ビルマ語はモン文字を、タイ語はクメール文字を、それぞれもとにして自言語のための文字を作り出した。モン語・クメール語には声調が存在しないので、当然ながらモン文字・クメール文字は声調表記のしくみを持たない。そのため声調を持つビルマ語・タイ語は自言語の弁別特徴である声調を表し分けるための表記を新しく考案した。ラオ文字・ラーンナー文字・シャン文字・カレン諸文字などもそれぞれの言語の声調を表記するためのしくみを持っている。
漢語の表記に用いられる漢字は非表音文字であり声調表記の仕組みも持たない。しかし漢人は古くより自らの言語が声調(四声)を持つことに気づき、唐代以降、漢字をまず声調ごとに分類して配列した「韻書」と呼ばれる字典が数多く編纂された。

声調に対する意識の強さは、その言語において声調が形態素や語の弁別に果たす重要性の度合と関連があるのかもしれない。
また、自言語あるいは近隣言語が声調表記を含む文字体系をすでに持っていれば、新しい表記法を作る際にその影響が現れるということは当然あり得る。
これらの事柄は、声調表記というものを考える際に無視できない重要性を持っている。

1.声調表記しないもの

正書法の例 転写法の例
長所:
短所:
正書法ならともかく言語学的転写法としてはそれ自体が問題でしょう。

2.ダイアクリティック記号を用いるもの

正書法の例 正書法に準じるものの例 転写法の例
長所:
さほど見苦しくない。
音節の核を把握しやすい。
短所:
使える記号の種類にも限りがあると思われるので、声調の数があまり多くなると対応が難しくなる。
他にも補助符号を用いる場合、初心者はかなり面食らう。(例:ヴェトナム語正書法)
コンピュータ入力の場合、繁雑になる。

3.非ダイアクリティック記号を用いるもの(多くは句読点類)

正書法の例 転写法の例
長所:
音節の境界を把握しやすい。
短所:
句読点との間の区別がつきにくい→割と見苦しい。

4.分節表記と異なる種類の文字を用いるもの

正書法の例
長所:
音節の境界を把握しやすい。
短所:
専用のフォントを用意しない限り、コンピュータ入力が困難あるいは不可能。

5.分節表記と同じ種類の文字を用いるもの(多くは子音字)

正書法の例
長所:
入力は容易。
短所:
分節表記と紛らわしい。特に末子音を伴う音節がある場合、ものすごくわかりにくい。
音節の境界を把握しにくい。

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