<スンバワの民話> 次のお話

ヤシの木平たい石

スンバワ語テキスト提供:塩原朝子

 

むかしむかし、おかあさんが子どもたちと住んでいました。
子どもは女の子が一人,男の子が一人でした。

子供たちは毎日、「ナンレロ石」という名前の大きな平たい石の上で遊んでいました。

ある日、いつものように、おかあさんはご飯の準備をし、子供たちは石の上にすわっていました。
二人はまだ朝ごはんを食べていませんでした。

子どもたちは、おかあさんに言いました。
「おかあさん、おかあさん、ごはんをちょうだいよー。石が大きくなっちゃったら大変だー。」

子供たちがこんなふうに騒ぐのはいつものことでした。
お母さんも,いつものようにこう答えました。
「 ちょっと待ってね。今お米を搗いているところだから。終わったらご飯を炊くからね。
そしたらあんたたちにご飯をあげられるから。」

ご飯が炊けるまでには長い時間がかかるというのに、幼い二人の子どもは,叫び続けました。
「おかあさん、おかあさん、ごはんをちょうだいよー。石が大きくなっちゃったら大変だー。
石がどんどん大きくなっていくよー。
もし石が大きくなったら、お母さんはぼくたちにご飯を届けることができなくなるよ。」

おかあさんは答えました。

「今,急いで準備してるからね。ほら、今はお米から籾を取り除いているところだよ。
これが終わったら、お米をお釜に入れることができるから。
ほら、もうご飯を炊き始めるよ。今火を起こしているところだよ。」

お母さんは火を起こし、お釜をその上に置きました。
ようやくお釜の中身が沸騰したころ、子どもたちはまた叫び出しました。
子どもたちはまだ小さかったので、聞き分けがなかったのです。
二人は、早くご飯が食べたい一心で言いました。
「おかあさん、おかあさん早くご飯をちょうだいよー。 石が大きくなっちゃったらどうするの?」

そのときでした。驚いたことに,石はぐらぐら揺れ始め、本当に大きくなり出したのです。

石はみるみるうちに大きくなりました。子どもたちは叫びました。
「おかあさん、おかあさん!みてみて!石がどんどん大きくなってきたよー。」

ちょうどそのとき、ご飯が炊きあがり、おかあさんはお皿を子どものところに運んでいこうとしました。
ところが、石はすっかり大きくなっていて、子どもは姿も形も見えなくなっていたのです。

お母さんは途方にくれて,思案の末、からすのところに出かけていきました。
「からすさん、からすさん、何とか助けて下さいな。石を前のような大きさにしてくださいな。」

からすは石の上をぐるぐる飛び回って「ガーガーガー」と鳴きました。

でも,石はぴくりとも動かず,高いままでした。

お母さんは今度は、おうむの家を訪ねていきました。
おうむは、石の上で「カカー、カカー」と鳴きました。

石は,今度もぴくりとも動かず,高いままでした。

その後も,お母さんはたくさんの鳥のところを訪ねましたが、どの鳥も石を小さくすることができませんでした。

最後にお母さんは、ブビット鳥の夫婦のところへ行きました。

「ブビット鳥さん、ブビット鳥さん、石に低くなるように言ってくれませんか、このままじゃ、子どもたちにご飯をあげられないんですよ。子どもたちは朝から何にも食べていないんですから。」

ブビット鳥の夫婦はやってきて、石の上でこんな呪文をとなえました。
「ななななながーい。みみみみみじかーい。長かったら手ではかり、短かったら翼ではかろう。」
こんな呪文でした。

「ななななながーい。みみみみみじかーい。長かったら手ではかり、短かったら翼ではかろう。」
石は少しずつ少しずつ小さくなりました。

ブビット鳥の夫婦はくり返し、くり返し呪文を唱えました。
夫と妻はかわるがわる、ときには声を合わせて呪文を唱えました。

「ななななながーい。みみみみみじかーい。長かったら手ではかり、短かったら翼ではかろう。」

ブビット鳥のおかげで、石は少しずつ少しずつ小さくなって、ついに,おかあさんは子どもにご飯をあげることができました。

めでたしめでたし。

 


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