概要

■古地図が語る空間情報とデジタル化された現代の空間情報

 本企画では、中東地域を古地図の発達を時間軸に沿ってたどるのではなく、次のように19世紀以降という比較的新しい時期の、記載された情報量の多い地図6点を展示します。いずれも一定の実測にもとづいて作成されています。年代順に並べると次のようになります。



 「イスタンブル市街地図」(1819年)
 「オスマン海軍省地中海全図」(1857年)
 「オスマン帝国アナトリア地図」(1882年)
 「オスマン帝国全図」(1907/08年)
 「バルカン戦争後のバルカン地図」(1914年)
 「パレスチナ地図」(1918/19年)

 いずれも地図そのものは個人蔵ですが、AA研はその電子データを所有しています。

 AA研の「共同利用・共同研究課題」というプロジェクトの一つに「中東都市社会における人間移動と多民族・多宗派の共存」があります。そこではサブ・プロジェクトとして、「多層ベースマップシステム」を、(株)国際航業の優れた技術により開発してきました。これまでにベイルート(レバノン)、アレッポ(シリア)、テヘラン(イラン)、イスタンブル(トルコ)の4都市を対象に、複数の古地図をGoogle Mapsに重ね合わせ、ズームアップやズームダウンはもちろん、Google Mapsとの透過度を段階的に調整したり、空撮写真と対照したりすることもできます。また共同研究のツールとしてこれを利用するために、そこにポイントやライン、ポリゴン(平面)を設定して、文字情報はもちろん、画像や動画、音声も載せて共有し、情報検索も可能なシステムとしました。古地図が示すところの、その時代に特有の意味を表現する空間に、研究情報を位置づけるようにしたいと考えたのです。このシステムには、都市計画学を専門とする共同研究員の松原康介さん(筑波大学)のアイデアが様々な形で生かされています。





 今回の展示に際して、私たちは上記の展示地図のうち「イスタンブル市街地図」以外の5点について、新たにGoogle Mapsに重ね合わせてみました。都市図だけでなく、より広域の地図に関しても、利用することが可能になったのです。

 展示会場にはパソコンを置いて、実際に「多層ベースマップシステム」を使って展示された古地図をGoogle Mapsに自在に重ね合わせ、古地図そのものが語る情報と、現代の地図空間が語る情報との比較を楽しめるようになっています。皆様のご来場をお待ちしております。

 なお、その他の古地図のデジタル化画像は、基幹研究「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」のサイトにてご覧いただけます。
http://www.aa.tufs.ac.jp/fsc/gis/ottomanmaps/index.html

※古地図の撮影・デジタル化と修復・額装については「東京修復保存センター」のお世話になりました。