aa_mark東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所
 
中国古文字の世界

図版にみる先秦漢字の芸術と歴史

  
● 会期:平成19年7月2日(月)~8月10日(金)
   *土・日・祝日休館(7月7日特別開館)
● 開場:午前10時~午後5時 *入場無料
殷・周・徽章文字
  紀元前三世紀末、秦始皇帝によって文字が統一される以前に、漢字はすでに長い道のりを歩んできました。人々は、文字を華麗な青銅器に鋳込み、動物の骨や甲羅に刻み込み、竹や木の札と帛に筆写し、また日常の実用道具にも記しました。その書体や風格は多様性を極めていました。秦以前の中国には多彩な文字の世界が広がっていたのです。
   
  古代人の豊富な書写経験の中から、後世の書道にも劣らない美術性が育まれ、我々現代人も、すぐにそれに魅了されてしまいます。展示企画から時代の早い例をあげますと、躍如として真に迫る氏族の象形的な徽章文字と、抑揚の変化に富み立体感あふれる西周の青銅器文字(金文)には、後世の能書家に遜色のない作品が数多く残されています。それらとは対照的に、殷周の甲骨文字は、字形の簡略化とともに、象形性が希薄になり、むしろ実用性が際立つようになりますが、その中になお豊かな芸術性が見出せるのは、現代の硬筆書道と変わりがありません。
     殷・甲骨文
 
西周・金文
 
  時代が下って春秋になると、当時の貴族たちの繊細な精神文化を象徴する如く、同じ金文でも、西周の力強い筆勢とは違い、細い線を重んじるエレガントな書風が現れます。中でも、込み入った曲線模様によって特徴付けられる「鳥虫書」は、とりわけ装飾性の強い字体ですが、精細な筆画を青銅器に鋳込み若しくは刻み込む当時の技術には、誠に想像を絶するものがあります。
  
   
  戦国時代には漢字文化の裾野が大きく広がり、現代風に言えば庶民的な書き手が歴史の舞台に登場します。彼らによって、各地域で独自の字体が作り出され、漢字は方言の時代を迎えます。実用性が重視されるにつれて、字体は自然に簡略化の方向に傾き、地方的特色の濃い「俗字」が漢字の主役になりますが、そこに新たな芸術性が生まれたことも忘れてはいけません。諸子百家の哲学著作が記されている楚簡の文字は、よくこの新しい美意識を伝えてくれるように思われます。
 
 二十世紀には、中国各地で膨大な数の文物が地下から出土しました。この文物に記されている文字は、古代人の書写経験を今に伝えるよき証人と言えます。出土史料によって、我々は伝統的な文字学では想像もできなかったほど、先秦時代の漢字に関する知識を獲得しました。しかし、文物そのものは世界中に散らばり、それを一堂に集めることは不可能になっています。本展は、公開図版および未公開写真からその精粋を取り出し、先秦漢字の歴史を一望に俯瞰できるように工夫してみました。我々と一緒にその美をお楽しみいただければ幸いです。