
▲展示パネル
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ユーモラスな字形の象形文字として現在にも伝わるトンパ文字は、日本でもよく知られるようになりました。「東巴(トンパ)」とは、中国雲南省西部に住む納西(ナシ)族の「巫師」を指します。民族名から「ナシ象形文字」とも呼ばれます。この文字は、ナシ族であれば誰でも読み書きできるわけではなく、トンパが経典などを唱える際にテキストとして利用するのがほとんどです。
トンパ文字はきわめて純粋に象形文字を保っていることで有名ですが、他の文字体系にはあまりみられない興味深い特徴も観察されます。まず、この文字はナシ語をあらわすための文字ですが、発音されるものがすべて書きあらわされるわけではありません。たとえば、接続詞や「テニヲハ」などは省略されることがあります。また、ナシ語の語順と、表記される文字順が一致するとは限りません。 トンパ文字経典を例にとって説明しましょう。トンパ文字の経典は、横長の厚紙を3〜4段に区切り、各段をさらに数コマに区切ります。各コマの中に数文字が配置されて、ナシ語のー句から数句を成します。コマの内部では、各文字がおおよそ左から右に、文字によっては上下に重ねられて記されます。このとき本来の語順に関係なく、たとえば「天」に関するものはコマの上方に、「地」に関するものはコマの下部に
記されます。
これはナシ族の『創世記』冒頭の一コマです。「はるかな昔、天地は混沌としていて、月の神と太陽の神が唱和していた時代」と記されています。トンパ文字は、基本的な字形も非常に象形性・写実性に富んでいます。たとえば「刀」の字形を折り曲げて「刀が折れる」を表記するなど、文字の派生にも象形性がみられます。
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