国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B21
ヴィシュヌ神の化身を描いた絵入り写本
オリヤ文字オリヤ語

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「まるで坊主頭が並んでいるような」といわれるオリヤ文字(インドのオリッサ州の文字)の写本というか美術工芸品。

五つ折の各開きごとの中央の部分をめくると絵・文・絵と3面が現れるようになっており、絵が10面、文が5面あります。描かれているのはヒンドゥー教の主神の一人であるヴィシュヌの10人の化身です。魚・亀・猪・小人・人獅子・斧を持ったラーマ・ラーマ・バララーマ・佛陀・カルキンという顔ぶれです。

8人目にクリシュナではなくバララーマがいるのがオリッサ州らしいところです。有名なプリーのジャガンナート寺院の祭りを見ても解るように、ここでは世界の主(ジャガンナート)はクリシュナ神です。クリシュナは、ヴィシュヌの化身ではなく本体ですから、化身としてはクリシュナの兄であるバララーマがあげられ、一般的な10化身のリストのようにクリシュナが出てきません。また、多くのインド神話ではヴィシュヌの化身としての佛陀は誤った教えを説いて悪しき人々を惑わす存在として描かれていますが、この写本での佛陀の瞑想する姿は、かつては仏教が極めて盛んだったオリッサの風土を反映しているもののように思われます。

詩は、どれも「〜の身体を持つジャガディーシャよ、ハリよ、勝利あれ。」(〜のところに魚・亀・猪などがはいります)と終わっています。呼びかけに現れているジャガディーシャとハリというのは、いずれも、ジャガンナータ神の異名です。

使われている言語は、オリヤ語です。ただし、現在のオリッサで一般的に話したり書いたりされるような種類のオリヤ語とは異なります。 インドの古典語であるサンスクリットを真似て古雅を装っています。単語にかんしては、サンスクリットから借用した語だと思わせる語だけを使い、文法にかんしても、複合語を連ねてサンスクリットを感じさせています。しかし、サンスクリットとしては、正しい語や正しい文法ではない部分があります。

(高島 淳・山部 順治[ノートルダム清心女子大学])