国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B14
ヒンドゥー教儀礼のマニュアル
デーヴァナーガリー文字サンスクリット語他、ネパール

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これは、僧侶が儀礼の際に読み開いて、マントラを間違えずに唱えるための一種のあんちょこ本です。

ネパールの首都カトマンドゥの古くからの基層を構成するネワール族の人々は、仏教もヒンドゥー教も信仰しています。そのヒンドゥー教の中でも最もポピュラーなものが女神たちへの信仰です。この写本は、図像からも解るように、8母神の供養のためのマントラ(真言)を記した儀礼のマニュアルで、わずかなネワール語の儀礼の指示を除くとサンスクリット語のマントラが順に記述されています。

この折本の形は、「ティヤサフー」と呼ばれます。文字がネワール文字でなくデーヴァナーガリー文字になっていることから見て、古くとも100年程度以前のものかと思われます。紙の黄色い色をしている部分は、防腐防虫のために、ハリターラと呼ばれる雄黄(=硫化砒素)を塗ってあります。黄色は吉祥の色ですから、現在の出版本で、雄黄を使っていなくとも、同じような黄色の紙を使う例も沢山あります。

図像の部分の神名を記してある文字はネパール文字で、最初のガネーシャ神を除いて、インドラーヤニー、トリプラスンダリー、マヘーシュヴァリー、バイシュナヴィー、クマーリー、バーラーヒー、カーリー、バイラヴァーとあります。最後のバイラヴァーは良くある誤記で正しくはバイラヴァというシヴァ神の現れの一つです。本文の中に8母神とありますが、本来は7母神で、図像の方はその形式に従っているようです。しかし、7母神でも8母神でも、トリプラスンダリーの代わりにブラーフマニーが入るのが普通で、その点珍しい例と言えます。

(高島 淳)