国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B07
仏教儀礼のマニュアル
ビルマ文字パーリ語

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貝葉に漆塗りをし金箔を押した上に黒漆で経文を書いた、いかにも豪華な体裁を持つ経典です。パーリ語で受戒や懺悔などを行う際の作法規則を意味するカンマヴァーチャー(kammavaacaa)をビルマ語式に発音した「カマワーザー」という名称で呼ばれます。

経文はパーリ語三蔵(Tipitaka)の律(Vinayapitaka)からの抜粋です。パーリ語はインド・ヨーロッパ語族インド語派のプラークリット(中期インド・アーリア語)を代表する言語で、スリランカから東南アジアに広まった南方上座部仏教の経典語です。特にビルマ語はパーリ語から多数の語彙を借用し、その範囲は仏教用語から日常語彙にまで及んでいます。

パーリ語の表記には、シンハラ文字ビルマ文字タイ文字クメール文字など、上座部仏教の伝わった民族の文字が用いられ、読み方も上に見た「カマワーザー」のように、それぞれの文字の読み方に従います。このカマワーザーで用いられているのは当然ビルマ文字ですが、書体は現行ビルマ文字のような丸形ではなく方形をしており、マメ科の植物タマリンド(マジー)の種(スィー)を思わせる筆画の形に因んで「マジーズィー書体」と呼ばれています。字形そのものの違いと、通常のビルマ文字の場合と異なる特殊な行配置(上の行の下付き符号と下の行の上付き符号を同じ高さに並べて書く)のため、ビルマ人でも修練しないと読めません。

(澤田英夫)