国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B06
パーリ語文法注釈書
ビルマ文字パーリ語/ビルマ語

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一見すると端から端まで丸っこい文字が並んでいるだけにしか見えませんが、この貝葉には二つの異なる言語が混在しています。一つは上座部仏教の経典語であるパーリ語の本文、もう一つはビルマ語の逐語訳や注釈です。ビルマ語の訳注はパーリ語の語句に直接後続して書かれるため、二重の縦線を境界にしておおむね

パーリ語の語句‖ そのビルマ語訳注‖ 次のパーリ語の語句‖ そのビルマ語訳注‖…

という構成を取ります。このような注釈の形式をビルマ語でニッサヤnissayaと呼びます。ニッサヤのビルマ語逐語訳はパーリ語の語形変化によって表される人称・数・格などの情報を適切に表すための工夫が凝らされたもので、以後のビルマ文語の文法にも大きな影響を与えました。

この貝葉の本文はスリランカの僧侶アヌルッダーが著したパーリ語文法の一部で、全8巻のうち第1巻タンディ(結合)と第2巻ナン(名詞)の第1部を含んでいます。上座部仏教の僧侶にとってパーリ語は必須の知識で、多くのビルマ人僧侶がこの文法書でパーリ語を学んできたのだそうです。

アヌルッダーの生没年、原典であるパーリ語文法の成立年代、ニッサヤの成立年代などいずれも不詳ですが、この貝葉自体は19世紀末に、在家信者が功徳を積むために書写したものです。タンディ巻はビルマ暦1252年ダグー月(1890年春)に、ナン巻第1部は同年ダバウン月(1891年春)に、書写を終えたとそれぞれの末尾に記されています。

(澤田英夫)