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2010(平成22)年度 教育セミナー報告

東長 靖(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)

 今年度の教育セミナーのトップバッターを仰せつかったので、大学院で研究するとはどういうことか、という基本的な問題から話すことにした。スケジュール管理に加えて、精神衛生管理をすることの大切さを説いた。

 本講義のタイトルである「スーフィズムと学際研究」については、講師自身が過去14年ほど続けている共同学際研究の経験を元に、ディシプリンのみならず、地域・時間をもまたいで研究しようとする姿勢について語った。スーフィズムとタリーカ、聖者信仰は、重なり合う部分を持ちながらも別個に考察しなければいけない部分もある対象である。これについて、思想研究と歴史研究を架橋しようとした拙稿「宗教の中の歴史と歴史の中の宗教」(島薗進編『宗教史の可能性』岩波書店,2004年2月,31-56頁)、思想研究と人類学の間の乖離を埋めようとした「イスラームの聖者論と聖者信仰−イスラーム学の伝統のなかで」(赤堀雅幸編『民衆のイスラーム−スーフィー・聖者・精霊の世界』山川出版社,2008年4月,13-39頁)および ”Sufi Saints and Non-sufi Saints in Early Islamic History”(The Journal of Sophia Asian Studies, vol. 22(2004), pp. 1-13)を素材に、その一端を紹介した。

 しかし、学際研究はディシプリン研究の基礎の上になされなければならない。その意味で、ディシプリンをしっかり身につけることを忘れて学際に走るべきではないことをも強調した。この点に関しては、のちの質疑応答のなかで、そもそもディシプリンを持たないで大学院に入ってくる学生が多いが、彼らはどうしたらよいのか、ということが問題になった。自分自身がディシプリンをすでに持っているがゆえに、その先の話ばかり強調してきたのだが、そもそもディシプリンを持つことについてのストラテジーも、もっとよく考えてみなければならないと反省させられた。

 第2の論点として、定説を疑うことの重要性と、しかし定説は十分に尊重しなければならないことを、講師自身がこれまでに発表してきた新説を例に説明した。学問が発展すればするほど、私たちが参照すべき先行研究は多くなる。ほとんど気が遠くなるような蓄積である。それを消化したうえで、自分なりのオリジナルを出していくことを研究者はみな求められているわけで、相当に大変な作業であることは間違いない。その重圧と闘うためにも、冒頭に述べた精神衛生管理が大切だと思うのである。

 最後になったが、受講生同士の出会いや再会の場としても得難いものであった。今回は院生だけでなく、実際の行政に関わっている方も参加されていたので、これもまた刺激になった。大学で研究していることがどう社会で活きるのか、社会からの関心や求められている情報は何かを考えつつ、それらに応える研究をしていくのが理想だろう。そのようなことも含め、今後の研究に新たな気持ちで臨みたいと思う。

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