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2010(平成22)年度 教育セミナー報告

佐藤 卓巳(東京大学大学院総合文化研究科)

 本教育セミナーを通して得た知識・見聞は、将来の研究生活において繰り返し確認するべき一つの指標となることは間違いない。

 セミナーの内容や雰囲気については、すでに他の受講生が詳細に説明していることからここでは言及しない。ここでは、報告者が本セミナーをとおして学んだ内容について、報告者が従事する地域研究と引き付けてその意義について具体的に整理したい。というのも、ここで学んだ内容が自らの研究といかに関連付けることができるのかについての一事例を提示することで、来年以降の受講生の参加の判断の基準になってくれれば良い、と考えるからである。

 先生方の講義や居酒屋におけるお話は、学問領域的(ディシプリン)にも地域領域的にも多岐に渡っていた。しかし、そこには一つの共通した内容があったように思われる。以下に述べることは非常に主観的であり、ともすると先生方が意図していたメッセージとは異なる可能性がある。しかし、間違いを恐れず述べるならば、次の二点にまとめることができる。

 一点目は、ディシプリンの重要性である。自らの考察対象には、それ独自のオリジナリティーが必ず存在する。そして、そのオリジナリティーこそが、自らの研究において譲れない主張となる。しかし、そのオリジナリティーは、特定のディシプリンにおける研究内容の蓄積と関係付けることで、初めて浮かび上がるものである。この点において、ディシプリンは重要である。

 二点目――そしてこれは一点目の換言に近いのではあるが――は、自らの研究対象のオリジナリティーを、いかに普遍的な問題として昇華するか、という点である。近藤先生がセミナーで触れられた歴史学における研究対象の「蛸壺化」についてのお話は、非常に示唆的なものであった。というのも、ここでいう「蛸壺化」現象、もしくは「専門化」と呼ばれる現象は、一つの学問領域のなかで研究されている対象の専門化だけではなく、人文社会学系の諸学問領域そのものの専門化現象としてあてはめて考えることができるからだ。例えば、報告者が従事する地域研究は、社会学や歴史学、そして政治学などの学問領域の「限界状況」から派生した比較的新しい分野であり、学問領域全体の専門化の産物とみなすことができる。しかしながら、時代や地域によって左右されない「本質」を探究することに学問の目的の一つがあるとするならば、何かしらのディシプリンに依拠した考察を慎重に行わない限り、地域研究によって提示される議論は刻一刻と変化する情勢を追うだけの表層的な内容に留まってしまう可能性がある。このような事態を避けるためにも、自らの研究を普遍的な問題と結びつけることは、今後の研究を行ううえでも重要な課題となってくる。

 以上が、本セミナーを通し報告者が気付かされた点である。当然ながら、先生方の講義やお話は、このような抽象度の高い話ばかりではなく、各研究における非常に専門的な内容も含まれていた。ここで挙げた一例は、学部時代に特定のディシプリンを学ばず、言語取得にばかり時間をかけていた報告者にとって、一番印象に残った内容を整理しただけである。何を得るかは受講者のそのときの問題意識や関心によって変化するであろう。ここで述べたことが、来年以降の受講を考えている修士学生の参加の判断の参考となってくれれば幸いである。

 末筆ではありますが、セミナーを通して貴重なご意見を与えてくださった各先生方、講師の方々には大変感謝しております。ここで得た貴重なご意見を必ずや自らの研究に活かしたいと考えます。また、本セミナーで貴重な学術交流の機会を提供してくださり、さらには発表準備の段階からご迷惑おかけした事務の千葉様、そしてともに時間を過ごし議論を交わすことができた受講生の皆様に、感謝の意を表したいと思います。どうもありがとうございました。

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