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2010(平成22)年度 教育セミナー報告

錦田 愛子(東京外国語大学AA研)

  パレスチナ研究をめぐる可能性―研究の帯びる政治性と意義の位置付け

 本報告では、パレスチナ研究が孕む政治性や党派性と、社会活動を含む諸領域との関係の中で研究者が果たすべき役割、方法論の展開の可能性について、報告者自身の経験と現在の考察に基づいて話題提供した。

 研究そのものの政治性・党派性については、代表例として「ナクバ論争」を挙げた。1948年戦争(第一次中東戦争)でパレスチナ難民が生まれた過程については、イスラエル国立公文書館での資料公開を受けてイスラエルとパレスチナ双方で歴史学者による研究が進み、イスラエル国内で大きな議論を呼んだ。論争は学究上のものにとどまらず、特にイスラエル国籍の研究者の間では、シオニズムをめぐって国内での立場表明を迫られることとなった。また報告者自身がレバノンでフィールド調査を行った帰属意識についても、「タウティーン(帰化)」と「タジャンヌス(国籍取得)」の間にみられる差異の認識が、一部のパレスチナ研究者の間では初めから同一のものとして否定される場面があった。このように現在進行形の紛争と深くかかわる研究においては、問題認識の段階でデータの読み方が論者の立場によってアプリオリに規定・偏向される恐れが存在する。

 そうした中、複雑な初側面を含む紛争地についての研究を進める上ではどのような方法論が有効であるのか。この点について、報告者は自身の現在の立ち位置から、総合知としての地域研究の発展可能性を論じた。地域研究の魅力はその学際性にある。共同研究による学際性の追求も重要だが、個人として研究対象に応じてディシプリンを習得し、フィールドワークで培った地域言語や歴史、文化についての知識や一次資料を素材に議論を展開することで、より説得力のある研究成果を上げることが可能になる。また地域研究者は、研究過程でお世話になるフィールドの人々や、自分の調査地への社会的関心の高さにも応えることが必要となる。学ぶべき内容や期待される仕事の量は多いが、今後も活躍の場が広がるなかで若手研究者が果たすべき役割は多いといえる。

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