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2010(平成22)年度 教育セミナー報告

近藤 信彰(東京外国語大学AA研)

 報告者は、これまで20年以上にわたって、イラン史を中心に研究を行ってきたが、その経過を振り返るとともに、現在、イラン史研究をとりまいている状況、課題について、報告者の視点から述べた。

 イランは、古代にさかのぼることができる長い歴史を誇り、その過程でさまざまな要素が付加されたきわめて興味深い研究対象である。アラブによる征服を受けながら、独自の言語ペルシア語を保ち、トルコ・モンゴル系遊牧国家の支配を経験し、さらにシーア派化する。近代以降は立憲革命や石油国有化に代表されるようなナショナリズムの発露を見て、さらに、イラン革命を経て、イスラーム共和制に至る。これほどのダイナミズムを示す地域は中東でも類を見ない。

 ただ、こうしたダイナミズムは一方で研究上の障碍ともなり得る。たとえば、現在のイランはイスラーム共和制を取るが、これに対する評価はきわめて難しい。そもそも、イスラーム共和制を生み出したイラン革命が何であったのかという点に関しても、さまざまな立場があり、研究者間の意見の一致を見ない。さらに、ハータミー期からアフマディーネジャード期の劇的変化に見て取れるように、現在も状況はきわめて流動的である。こうした状況を反映して、世界のイラン学界では、イラン国内と欧米、あるいは欧米でもイラン系と非イラン系で、研究者コミュニティーは分裂しており、どのようなスタンスを取るかは難しい問題である。

 また、イランは中東のなかでもっとも国民国家的な枠組みが強固であり、周辺地域の研究者から孤立しがちな傾向にある。ややもすれば、イラン研究者がイランに集中して他の地域に関心を持たなかったり、非イラン研究者がイランを無視したりということが起こる。実際にアラブ史・オスマン史中心のイスラーム世界史や中東史のなかで、イラン史の占める割合はきわめて低い。ただ、イラン研究者にも隣接するトルコやイラク、アフガニスタンや中央アジア、南アジアを視野におくことで、国民国家的枠組みの罠から脱け出す必要がある。

 もう一つの問題は、歴史学全体の危機である。史的唯物論や近代化論や反帝国主義と民族解放などの大枠が崩壊した後、歴史学はひたすら専門化・個別化の道を歩んできた。それは、歴史学の実証性と多様性をもたらしたが、蛸壺化が進んだことも否めない。技術レベルが格段に上がった現在、それをどのように大きなテーマに結びつけるか、何のために歴史を研究するのかが問われている。

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