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2008(平成20)年度 教育セミナー報告

山根 聡(大阪大学世界言語研究センター)

  「南アジアにおけるイスラーム文化の諸相」

 本プログラムの参加者は,中東・アフリカ,および東南アジア地域におけるイスラームの動態を研究しているため,まず南アジアの地理的,歴史的な概説を行い,これに合わせていくつかのトピックについて解説を行った。

 まず南アジアのイスラームを研究することの意義であるが,同地域には4億人のムスリムが居住しており,世界最大のムスリム人口を抱えているが,10億のヒンドゥーに比べると,4億のムスリムは「少数派」として扱われている。さらに非アラブ圏として,イスラーム世界においても周縁的な扱いを受けているのである。しかし,一八世紀以降現代まで同地域で展開されたイスラーム復興の動きは,イスラーム世界に多大な影響を及ぼしてきた。このことは,イスラーム研究において南アジアが非常に重要な地域であることを示している。南アジアはイスラーム復興や思想の発信地であり,かつ,対ソ連戦争や対テロ戦争での拠点として,世界のムスリムを集める拠点としても機能していることを忘れてはならない。

 この南アジア地域にはイスラーム以前より海路でアラブ系商人らが訪れていた。8世紀以降に同地域を訪れた西アジアのムスリムは南アジア(インド)に関する多くの記述を残したが,これは南アジアの歴史研究において重要な資料となっている。11世紀以降,南アジアでは各地でムスリム政権が盛衰し,16世紀に成立したムガル朝では「インド・イスラーム文化」が花開いた。南アジアにおけるイスラームの浸透についてはスーフィズムによる平和的な改宗が進んだといわれている。本講義ではムガル期の代表的なウルドゥー語抒情詩ガザルのなかから,「存在一性論」の影響を受けた詩句を紹介した。

 また,南アジアのイスラームはヒンドゥー教と影響関係にあって,民衆的イスラームの諸相が見られることも,邪視に関する映像資料を紹介しながら解説した。

 18世紀以降,イスラーム復興運動がシャー・ワリーウッラーらによって展開されたが,19世紀半ばにイギリスの直接統治が始まると,南アジアのムスリムの中には,西洋的近代を受容するもの,反発するもの,近代的技術を用いてイスラーム復興を志向するものなどが現れ,それぞれが関連しあいながら,印パ独立へと進んでいった。本講義では,パキスタンやバングラデシュにおけるイスラームの諸相について,特に部族地域での伝統とイスラームの価値観の間の確執について解説した。

 質疑応答では,参加者のうち研究者からの質問がほとんどであった。質問はガザルの内容に関するものから現代のイスラーム復興の動きに関するものまで多岐に渡り,南アジアのイスラーム研究への関心の高さが感じられた。また用語の確認に関するご指摘は報告者自身にとってよい勉強となり,刺激を受けることができた。

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