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2008(平成20)年度 教育セミナー報告

西井 凉子(東京外国語大学AA研)

   人類学者とフィールドのawkward(ぎこちない)な関係
        −南タイでムスリムと仏教徒と暮らして−

 中東・イスラーム教育セミナーでは、研究者が自分自身のライフヒストリーを織り込みつつ、これから博士論文を執筆する若手の研究者に自分の研究を紹介するスタイルをとった講義もしばしばなされてきた。そこで、今回ははじめて調査地に入って20年目となる現時点において、自分の研究を振り返りつつ、調査地である南タイの現状を紹介する報告を行った。具体的な報告の目的として次の2点をあげた。

 1.人類学が一つの学問分野としてよってたつ基盤としているフィールドワークとはいったいどのようなものか。

 2.人類学者としての私がフィールドとどのように関わってきたのかについて、20年目の現在において思うことを述べる。

 まず、従来の人類学的フィールドワーク論のレヴューを行い、1980年代、1990年代のフィールドワークの危機を経たあとで、日本では2000年代になって人類学においてフィールドワーク論が出版されはじめている状況を説明した。

 また、東南アジアにおける上座仏教圏とイスラーム圏の接点に位置する南タイの調査村を、タイにおけるムスリムの歴史的・政治的背景から位置づけた。タイは仏教徒が94%以上をしめ、その中においてムスリムは数%で、最大のマイノリティであるといえる。しかし、南タイのマレーシアとの国境に近い4つの県はムスリムが県人口の60%から80%をしめる。南タイは大きく2つに分けて捉えることができる。1960年以降活発化した分離独立運動の中心であり、2004年1月以降の南タイ騒乱の中心地でもある東海岸のマレー語を母語とするムスリムが多い地域と、常に政治的に問題がなく模範的なムスリムであるタイ国民として捉えられてきた西海岸のタイ語を母語とするムスリムの居住する地域である。調査地は政治的に問題がないとされる西海岸に位置し、ムスリムと仏教徒が混住している。1987年から1988年にかけての1年4ヶ月のはじめてのフィールドワークは、夫が仏教徒、妻が元ムスリムで改宗して仏教徒になっている家族との同居からはじまった。報告では、ムスリムであること、仏教徒であることの実態を、誕生から葬式にいたるまでの様々な機会における儀礼や、全婚姻数の20%にのぼるイスラーム教徒―仏教徒婚の通婚から紹介した。

 最後に、人類学者(私)とフィールドの関係を、awkwardな(ぎこちない)と感じてきた経緯やその感情の20年目にしての変化について述べた。それは、自分がどのようにフィールド体験やそれに連なる人々との関わりを自分の人生の中に位置づけるのかという問題である。

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