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教育セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 大稔哲也
2005(平成17)年度
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大稔哲也
(九州大学大学院人文科学研究院・助教授)
「歴史学とフィールド―エジプトにおける事例を中心に―」
AA研での開催ということでもあり、筆者は当初、フィールドワークに明け暮れようとする文化(社会)人類学者の卵に、文献研究併用の重要性を説くことを想定していた。しかし、実際に蓋を開けてみると、参加者の大半は文献研究のみに従事する院生らであったため、話の重心をずらし、文献研究者にフィールドワーク併用の効用を説くこととなった。
まず、現在でいう中東にあたる地域が大量の文献を歴史的に生み出してきたことを前提とし、フィールドワーカーにとっても、それらと民間伝承との内容のやり取りを知ることは必要であるし、少なくとも、現地語で生み出される多くの研究を等閑に付せる時代は去りつつあると述べた。ここでさらに、これまでの(日本の)中東史研究者によるフィールドワークについて俯瞰した。
ついで、前近代を対象とした(私の考える)「歴史民族誌」と、史料、インフォーマント、研究者との関係についてまとめた。そのうえで、史料から得られた情報を文化人類学等の方法論と成果を援用して分析しようとした事例を紹介した。
さらに、筆者がこれまで行なってきた実際のフィールドワークから、コプトとムスリムのザッバーリーン(ゴミ回収業者)、その養豚業、墓地居住者や墓掘り人と墓参慣行、屠畜場や鞣皮業、革端切れなどを燃料とした窯業、などについて、筆者の撮りためてきたビデオをもとに解説した。くわえて、エジプトで製作された映画(3本)や、エジプト「死者の街」を題材とする欧米の文学者たちの記述の一端も紹介した。
フィールドワークと文献研究との総合と言うは易しで、実現には多大な労力を要する。しかし、顧みれば、宮本常一氏らは日本の民俗を歩いて調べるだけでなく、くずし字による文書も読み込んで活用してきたのではなかろうか。
最後に全体として、半ば外部からも眺めつつ本企画について言えば、大変良心的なセミナーであり、多くの大学院生に奨めうるものであったと思う。
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