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2008(平成20)年度 研究セミナー報告【後期】

佐々木紳(東京大学大学院人文社会系研究科西アジア歴史社会専門分野博士課程)

 これまで「19世紀後半のオスマン帝国の政治思想史を勉強しています」などと自己紹介してきた私にとって,本セミナーは初めての体験づくしでした。まずは6名の発表者の中で,私の扱う時代が最も古かったこと。「前近代ではそうでしょうが,近代ではこうなるのです」といった根拠のない新しさに寄りかかることができなくなりました。また,いわゆる「歴史学」のディシプリンを全面に掲げる発表者も,私しかいませんでした。「史料からはこうとしか読めません」という歴史畑の殺し文句も,本セミナーの議論では一つの判断材料に過ぎません。

 というわけで,私にとっての本セミナーは,これまで進めてきた研究の徹底した相対化の体験だったと考えています。研究の手法や姿勢はもとより,自分の研究課題を(ディシプリンの如何を問わず)人にどのように伝えるのか,といったプレゼンテーションの問題も含めて,今までの私の研究のあり方を論理的に反省する極めて重大な機会を与えてくれたのが本セミナーでした。むろん,そのように狭い殻に閉じこもっていた私を,さまざまなご専門の立場から引き出し,諭し,相対化のヒントを与えてくださったのは,本セミナーのスタッフの諸先生方と参加者の皆さんです。この場を借りて御礼申し上げます。とくに最終日に「私の博士論文」と題する講演をおこなった吉村貴之さんからは,同じ政治思想史を専攻する先達として,有益なご助言を頂きました。「思想史研究はつねに“爆弾”を投げつづけることである」という魅力的なご発言(於懇親会)は,思想史研究において,表面的な客観性や中立性を装うのではなく,自身の研究に孕まれる偏向性をつねに意識しながらも,積極的に自身の解釈を示していくことの重要性を私に気づかせてくれました。本セミナーの定評ともいうべき懇親会の素晴らしさを最も実感した瞬間です。

 さて,本セミナーの感想では,今後のセミナーの発展に資する改善点を指摘するよう求められています。これまで4年間,今回も含めて6回続いてきた本セミナーの技術的な諸問題については,すでに微調整のレベルにまで解消されていると感じました。あとは,本セミナーあるいは同趣旨の場を提供する会合を,今後も継続する環境を整える必要があると考えます。本セミナーに関しては次年度をもって一区切りとなるとのことですが,博士論文や専著の執筆構想をまとまった形で発表し,質の高い批判や助言を受ける場は,まだまだ限られているようです。私の所属する研究科のセミナーでは,希望に応じてそうした場を設けてもらうことも不可能ではありませんが,それでも本セミナーで私が体験したような「異種格闘技戦」の中での自身の研究の相対化の機会を与えてくれる場は少ないのではないでしょうか。また,本セミナーでは私も含めた発表者を一貫して「研究者」として扱っていただきました。これは世辞でも建前でもなく,「研究者」たるからには自分の研究に責任を持って発表や質疑応答をこなすという意味合いでのことと考えます。このように研究者としての自覚や責任意識の向上を促す場も,限られていると思います。

 近年,とくに文系の研究者に対して,成果主義に基づく評価が厳しくなっていることについてはそれなりの不満もありますが,その一方でそうした現実に対応できるだけの能力を養成する場を,多くの若手研究者が求めています。その点で,学会発表とも大学のセミナーとも違う本セミナーの継続は,とくに若手研究者の育成にとって極めて重要な課題であると考えます。最後になりましたが,このような有益な場を設けていただいたAA研スタッフの皆様に,重ねて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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