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中東に関する公開講演会・研究会(AA研主催)
2006(平成18)年度
2007年3月29日 中東イスラーム研究教育プロジェクト研究会

報告: 堀井聡江(AA研非常勤研究員)
「イスラーム法と家族」

 3月末日をもって上記プロジェクト非常勤研究員職を幸いにも任期満了前に終了することになり、文字通り最後のご奉公となった。この報告は、大塚和夫所長のご提案により、報告者が来る6月に比較法史学会で行う予定の発表の予行演習という趣旨であり、個人的には大変に大きな成果を得た。

  報告の目的は、古典的なイスラーム法の家族に関する規定の分析よりは、近現代も射程に入れて、法の変化と家族の変化の関係性を明らかにすることである(その意味で、当初の報告仮題「イスラーム法における家族」を上記のように改めた)。その内容は概略以下の通りである。今日一般に、イスラームは家族を非常に重視する宗教である、と信じられている。そのことは歴史的には、イスラームは元来、それ以前のアラブの部族的な結合原理を否定し、対等な個人の信仰による社会的結合を説いていたが、現実のイスラーム共同体の建設過程で血縁的な結合原理に譲歩し、部族に変わる社会の基本単位として家族に着目するようになったためであると考えられている。実際、イスラーム法のうえでも、ムスリムという種の保存を婚姻の重要な目的とし、宗教的に高い価値を置くように、家族がイスラーム共同体の基本単位であるという考えが確認できる。しかし現実の社会慣行はともかくとして、イスラーム法のうえでは、集団としての家族が問題にされることはなく、家族という用語も曖昧であったばかりか、家族を構成する個人と個人の権利義務のみが規定され、制度としての家や家産の概念もなかった。これに対し、19世紀以降は、単純にいえばイスラーム共同体に代わる近代国家の登場により、家族もまた近代的意味でのそれに規定されていくことになる。報告ではこのことを、エジプトにおける主として「身分関係」の概念をもとに示した。また、「身分関係」の規律が国民主義的な司法統一へと収斂されていくなかで、身分法そのものも変化し、前近代とは異なる意味での婚姻の重要視と、婚姻と離婚の法を中心とする改革立法に至ったことを示した。

  以上の報告に対しては、参加者より大変に有意義な数々のご指摘を頂いた。とくに報告の前半と後半における「家族」という語の使い方の齟齬のご指摘と、これに関連する議論は報告全体を整理し直す手がかりとなった。皆様に感謝しつつ、本番に備えたいと思う。

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