2007年5月16日(水)

イスラーム教徒意識の高さを心配する必要はない

 イスラーム志向が強く、かつインドネシア国民意識が高いことは可能である。シャリフ・ヒダヤトゥーラ国立イスラーム大学の「イスラームと社会研究センター(PPIM)」が、イスラームと国民としての自覚に関する調査を実施し、このような結果を得た。

 2007年1月〜3月に実施された調査の結果、インドネシアのイスラーム教徒の大部分が、現在もパンチャシラ(注1)を国の原則ととらえており、イスラーム国家を選択していないことが明らかになった。調査対象となった1,200人のイスラーム教徒のうち、76%がパンチャシラの復興を支持。90.4%が宗教はパンチャシラに即したものだと考え、91.6%がパンチャシラと1945年憲法(注2)を国民と国家の基本だと回答している。

 「約84.7%の人が、インドネシア共和国統一国家はパンチャシラに基づくべきと回答しており、インドネシアをイスラーム国家にしたいと考えている人は22.8%にすぎない」とPPIM専務理事のジャヤト・ブルハヌディン氏は、5月15日(火)ジャカルタで語った。しかし、イスラーム教徒としてのアイデンティティー(41.3%)のほうが、インドネシア人としてのアイデンテイティー(24.6%)よりも依然として高いことも調査の結果明らかになった。

 国立イスラーム大学大学院理事のアズユマルディ・アズラは、パンチャシラに対する信奉も高いのだから、イスラーム教徒としてのアイデンティティーの高さを不安に思う必要はないとし、さらに次のように語った。「パンチャシラをよく読むと、イスラーム教徒であることとインドネシア国民であることを対比させる必要はないことが分かる。イスラーム教徒意識が高く、かつインドネシア国民意識が高いことは問題にならない」

 一方、国民がより繁栄し、法の支配を確立するためには、政府がパンチャシラを早急に再活性化することが望ましいと語った。それは、パンチャシラがイスラーム教徒にさらに受け入れられることにもつながる。

 「法の支配が確立していないからイスラーム法を導入したほうがよいと、イスラーム教徒が言い出すような事態は、避けなくてはならない」と国立イスラーム大学の元教師でもある同氏は語り、次のように加えた。イスラーム国家の設立を望むイスラーム教徒が、まだ22.8%いることは無視できない。イスラームの信仰と、イスラーム国家実現を目指す政治は一体である、という信念を持っている信徒は常に存在している。その上、宗教に対して友好的でないフランス型の世俗化(注3)を経験したトルコは例外だが、世界のイスラーム教徒のほとんどは、世俗化の過程を経験してはいない。

 さらに、公の場所で宗教的シンボルを着用することが許され、宗教とより結びつきのあるアメリカ合衆国の世俗主義を例としてあげた上で、「インドネシアは、国外の専門家たちからも世俗国家とみなされている」と同氏は語った。

 それには次の二つの根拠がある。イスラームが大多数を占めていながら、それが国の基本となっていないこと、そしてイスラームが唯一の公的な宗教ではないことだ。国防大臣の専門スタッフであるバンバン・プラノオは、この調査には時代背景を考慮に入れていないという弱点を指摘する。インドネシアのイスラーム教徒の望みは、時代の流れに応じて発展してきた。彼は1955年(注4)、共産主義イデオロギーを主張するインドネシア共産党に対抗し、ムハマディヤ(注5)とナフダトゥル・ウラマ(注6)が、国の基本としてイスラームを熱心に担いだことを例にあげた。

 バンバンによれば、スカルノ時代のパンチャシラは、ゴトン・ロヨン(注7)イデオロギー色が強く、信仰の価値があいまいになっているため、イスラームの信者には受け入れられないものであった。一方、スハルト時代のパンチャシラは、より宗教的なものだった。しかし現在では、さらにあいまいになっている。その例として、世俗政党である闘争民主党ですら、イスラーム教徒の念願を受け止めるため、バイトゥル・ムスリミン(注8)という組織を結成したことに言及し、「インドネシア国民であることと、イスラーム教徒であることとは二分されるべきではない」とバンバンは語った。

注1) パンチャシラ:インドネシア共和国の建国5原則(唯一神への信仰、公平で文化的な人道主義、インドネシアの統一、協議と代議制において英知によって導かれる民主主義、インドネシア全人民に対する社会主義)代々の政権が国是としてきた。

注2) 1945年憲法:インドネシア共和国独立の際に定められた憲法で、前文にパンチャシラが記載されている。1950年8月〜1959年7月の間を除きインドネシアの憲法とされてきた。スハルト独裁体制崩壊後、民主化にむけて一連の改正が行われている。

注3) 世俗化: 国家原理から宗教を分離
注4) 1955年: インドネシアで最初に総選挙が実施された年
注5) ムハマディヤ: 改革派イスラーム団体
注6) ナフダトゥル・ウラマ: 伝統主義的イスラーム組織
注7) ゴトン・ロヨン:自発的相互扶助を意味するインドネシア語
注8) バイトゥル・ムスリミン: 「イスラーム教徒の家」の意


(翻訳者:山本肇)
(記事ID:so0705161hy)

原題:Identitas Keislaman Tinggi tak Perlu Dikhawatirkan
http://www.republika.co.id/Koran_detail.asp?id=293386&kat_id=6



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