2007年9月29日(土)

断食は災害の闇に覆われて

村民は支援物資のみで、断食前の食事(注1)と断食後の食事(注2)をまかなう

 北ブンクル県、アイル・ブシ郡、コタ・アグン村の住民数百人が、ムッタキン・モスクの庭に集まった。パシル・プティ海岸沿いのモスク付近で、何十人もの子供たちがインドネシア赤新月社(注3)のガイドと共にフライング・フォックスを楽しんだ。

 このフライング・フォックスは、高いところからロープを伝って滑り降りる遊びで、今年9月12日、北ブンクル地域を襲った震災犠牲者に対するトラウマ療法プログラムの一環だ。「子供たちが地震のトラウマを忘れ、以前のような生活をしてほしいのです」と、9月26日(水)、インドネシア中央赤新月社、広報部のダルマ・ウィジャヤ氏は、本紙に対して述べた。

 彼らの住むところをマグニチュード7.9の地震が襲って以来、この夕方のように、大勢の村民が一箇所に集まったのは初めてのことだ。モスクから約200メートルの場所に住む女性ロザリ(60才)は、次のように述べた。コタ・アグン村の住民たちは、彼らの村の破壊をより深刻にする余震が起こらないかずっと心配している。

 「いつものように眠ることすら出来ません。ラマダーン(注4)の断食をするのに、みな不安で、落ち着かない状態がつづいています」と、ロザリさんは述べた。地震からちょうど2週間経ち、村民の避難所となったテントがまだ建っているのが目に入る。しかし、そのテントは、もう休憩や料理をする場所として使われていない。「みな家に戻ったのです」とロザリさんは述べた。

 断食明けの約1時間前、国民協議会のヒダヤット・ヌル・ワヒド議長一行が、ムッタキン・モスクに到着した。村民が先を競って同氏に握手を求めた。同氏はスピーチを終えた後、コーランの中で指定された章を暗誦できた人に、10万ルピアの賞金がでるクイズを行なった。

 震災の犠牲者と共に断食明け前に行ったクイズの中で、同氏は災害と終焉をテーマにした章を選んだ。彼は、震災の犠牲者は立ち上がる必要があり、悲しみと泥沼の中で、ぼんやりとしていてはいけないとし、さらに次のように述べた。

 地震は、神から与えられた恩恵に対し、信者がさらに感謝し続けるようにという、アッラーからの警告を意味している。「私もジョクジャカルタ地震の犠牲者だ。私の母や兄弟の家は崩壊したが、こうしたことがあっても不信仰者になってはならない。アッラーへの感謝を、より一層高める必要がある」

 海岸沿いのモスクにアザーン(注5)が響き渡り、コタ・アグン村の村民たちは、断食明けの料理を食べた。鶏肉の揚げ物、野菜、果物など配られた料理も、モスクに一緒に集まろうという勇気が戻ってきた喜びには、勝てなかったようだ。

 「正直なところ、今までモスクへ行くのが怖かった。タラウィーフ(注6)参加者も昨年の断食時と比べると、激減している」と、村民の一人であるヨハンさんは語った。別の村民ズルカルナエンさんは、美味しい断食明けの料理を楽しめたことに感謝すると語った。これまで断食明けのメニューは、外からの支援品であるインスタント麺や塩漬け魚が中心だった、と彼は発言した。

 「村民は、まだ普段の仕事に戻れないでいる。そのため、食べ物を買うのにも限界がある」とズルカルナエンさんは、付け加えた。彼の隣人であるレニ・アルディアンさんは、崩壊した村民の家を修復するための支援が、すぐに行なわれることを期待している。断食月明けがもう近いからだ。

 「断食月明けの大祭がまた以前のようになり、子供たちを喜ばせるものになってほしい」とレニさんは述べた。イシャー(注7)の礼拝時間が近づいた。信者たちは、イシャーとタラウィーフの礼拝にグループを分けている。男性たちはモスクの中、女性たちはモスクの庭でこれを行う。タクビル(注8)の声が、タラウィーフで行われる11回の礼拝動作の間、響き渡る。モスクの庭を走り回る子供たちの朗らかな声は、震災の犠牲者たちの不安感から解き放たれ、普通の生活に戻りたいという気持ちを強くするようだ。「家の修復支援が早く行なわれれば、我々はすぐにまた落ち着いて礼拝することができる」とレニさんは語った。

【EH Ismail記者】


注1) 断食前の食事: 断食を行なう際、夜明け前までにとる食事。真夜中から暁(夜が白む頃)の間にとられる。インドネシア語では、サフールと呼ばれる。
注2) 断食明けの食事: イスラーム教徒が断食をする際、断食を終える時間である日没後にとる食事。インドネシア語では、ブカ・プアサと呼ばれる。
注3) 赤新月社: イスラーム教国の赤十字社にあたる。
注4) ラマダーン: イスラーム暦9月 断食月
注5) アザーン: イスラーム教徒が一日5回行う礼拝時間を知らせる呼びかけ(記事中では断食明けを告げる日没後の礼拝時間のアザーンを指す)
注6) タラウィーフ: ラマダーン月のイシャー礼拝(夜の礼拝)後に行われる自発的礼拝
注7) イシャー: イスラーム教徒が毎日行う礼拝のうち、夜の礼拝(19:30頃)を示す。
注8) タクビル: 「アッラーは偉大なり」と唱えること。礼拝の各動作を行う際には、この言葉が唱えられる。


(翻訳者:川名桂子)
(記事ID:li0709291kk)

原題:'Puasa Kami Berbalut Bencana'
http://www.republika.co.id/Koran_detail.asp?id=308799&kat_id=164



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