インドネシア語新聞翻訳
2010年4月24日(土)
【メディア・インドネシア紙】


ナフダトゥル・ウラマ流のイスラーム穏健思想

【カイロ】
 ナフダトゥル・ウラマ(NU)(訳注1)は宗教においても、政治、社会的諸権利、および文化においても、バランスのとれた穏健な関係を築く努力を惜しまないシステムをとっている。NUはまたあらゆる種類の過激主義を拒絶している。

 これは4月22日にカイロのテーベ大学の大講堂で行われた一般講演「平和と寛容におけるインドネシア穏健派イスラーム社会の役割:ナフダトゥル・ウラマの経験」の中で、NUの若い知識人ズハイリ・ミスラウィ氏が述べたことだ。

 この催しは、社会評論家のシャムス・アラム・ダルウィス氏が4月23日(金)本紙に語った通り、カイロのインドネシア大使館政治部の計らいにより行われた。

 「NUは世界最大の宗教団体になっており、スンナ派(訳注2)へのアプローチを優先し、人々と共にインドネシア全国に広がっているワッハーブ主義(訳注3)の増殖を抑えている」とズハイリ氏は述べた。

 ズハイリ氏、別名グス・ミスによると、NUのウラマ(訳注4)たちはシャーフィイー、ハナフィー、ハンバル、マーリクの[スンナ派]四法学の開祖の思想、アシュアリーとマートリーディー(訳注5)の教えを汲む「スンナと共同体の民」(訳注6)の思想を参照し、アル・ガザーリーとアル・ジュワイニ(訳注7)の両導師が喧伝した神秘主義(訳注8)の経験も忘れてはいない。

 ワッハーブ派は過激主義的な法学派かとの参加者からの質問にズハイリ氏は、ワッハーブ派は膠着した思想でありイスラームの豊かな学問的遺産を受け継いでいない、と答えた。

 さらに同氏は、国際的な調査によるとワッハーブ派とテロ組織の間には関係があるとして、「現在サウディ・アラビアの国王は変革のプログラムを進めており、アル・アズハール機構(訳注9)の300人のウラマに、ワッハーブ思想を中庸化させるために同国のさまざまな高等教育機関で穏健なイスラームを教えるよう要請している」と述べた。

イスラーム国家
 1923年にトルコのオスマン王朝が倒れた後、イスラーム教徒を団結させるための最良の方法はイスラーム国家を樹立することだとする考えが一部のイスラーム教徒の中に生まれた、とズハイリ氏は説明した。

 「その考えの中に含まれているのはイスラーム法、復讐、そして刑法の適用だ」と同氏は述べた。

 イスラーム国家を樹立してイスラーム法の適用を主張するこの運動、はサウディ・アラビア、パキスタン、アフガニスタン、マレーシア、およびその他の国々で暖かい歓迎を受けた。

 しかし、トルコ自身はオスマン王朝崩壊のあと、世俗国家を樹立する方向へ向かい、すべてのイスラーム法、特に政治の分野におけるイスラーム法適用を拒否した。

 この件に関してインドネシアは、世界最大のイスラーム教徒を抱える国の代表として、イスラームと世俗の中間の道をとった。それは政策や政治的決定はイスラーム国家のシステムに基づかなかったことを意味する。

 「しかし、伝統、文化、および宗教の多様さを変わらずに維持しながらもイスラームのモラル、価値観をとりあげている」と同氏は述べ、満場の拍手を得た。

グス・ドゥル時代
 NUはあらゆる種類の宗教的過激思想を排している。その一方で他宗教間との交流において寛容の精神を発揮し、和平の原則を前面に出している、とズハイリ氏は続けた。

 アブドゥルラフマン・ワヒド(グス・ドゥル)(訳注10)が、NUの本部役員会の議長だった時代〔1980年代中盤以降〕、民間の人たちが国家のシステムである民主主義を推し進めるために働いた。

 その時、アブドゥルラフマン・ワヒドは、インドネシアの全ての宗教、種族、社会階層の人々と極めて多くの対話をし、ひとびとを統合しナショナリズム精神を築いた。

 「グス・ドゥルは、国の一番の任務は国民に利益をもたらす政策をとることで人々の豊かな暮らしを実現することだ、と明言していた」とズハイリ氏は述べた。

 同じく一般講義に出席した前出のシャムス・アラム・ダルウィス氏は、インドネシアとエジプトの間で穏健派イスラームの外交網が拡充される必要があるとコメントした。

 「特に、アル・アズハール機構とエジプトの人々との間〔で必要〕だ。なぜなら今日のグローバル時代において、イスラームとイスラーム教徒の将来はこのイスラームの穏健さがどこまで適用されているかによって測られるからだ」と同氏は述べた。

 一方、大使館の教育・社会・文化担当のアリ・アンディカ・ワルダナ書記官とテーベ大学学長は、カイロのインドネシア大使館とテーベ大学の間で具体的な協力関係を結び良好な関係を築くことで合意した。

 「例えば、近々実行される協力は、テーベ大学学長のインドネシア訪問だ。インドネシアでは学長のためにいくつかの大学でイスラーム世界のモラルに関するセミナーを催す」とアリ・アンディカ書記官は説明した。

 テーベ大学の学長自身も、カイロのインドネシア大使館の政治部のこの機会供与を評価しており、この種の学問的な会合が将来ますます増えることを期待している。


訳注
1) ナフダトゥル・ウラマ: 伝統主義的イスラーム組織
2) スンナ派(あるいはスンニー派): イスラーム世界の90%を占める宗派。
3) ワッハーブ派:18世紀半ばにアラビア半島で西欧列強の帝国主義に対抗して起こった復古主義的なイスラーム改革運動。スンナ派の中でも戒律が厳しいとされ、サウディ・アラビアの国教となっている。
4) ウラマ: イスラームの宗教指導者。法学者
5) アシュアリーとマートリーディー: ともに9−10世紀のイスラーム法学者
6) スンナと共同体の民: スンナ派の正式な呼称
7) アル・ガザーリーとアル・ジュワイニ: ともに11−12世紀のイスラーム法学者
8) 神秘主義: スンナ派の中の一つの流れで、神秘的修行により神との合一を願う。スーフィズムとも言う。
9) アル・アズハール機構: 大学、初等・中等教育機関、モスク、出版部門などをもつ在カイロの教育機関。特にアル・アズハール大学はイスラーム世界で最古の最高学府と言われている。
10) アブドゥラフマン・ワヒド: インドネシアの第四代大統領(1999-2001)。2009年末死去


(翻訳者:山本肇)
(記事ID:in1004245hy)

原題:Kemoderatan Islam Ala Nahdlatul Ulama
http://us.detiknews.com/read/2010/04/24/000336/1344475/10/kemoderatan-islam-ala-nahdlatul-ulama



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