インドネシア語新聞翻訳
2009年11月8日(日)
【レプブリカ紙】


〔メッカ巡礼レポート〕必ずしも「お客様は神様」ではない

 インドネシアのメッカ巡礼者は買い物の達人だ。私だけではない。マスジディル・ハラーム(訳注1)左側の門向かいにある、モール内のケンタッキー・フライドチキン店付近の小通りにいたクルドゥン(訳注2)の商人もそのように言うのだ。巡礼団よりも10日早くメッカに到着したインドネシア・メッカ巡礼係員に向かって、彼はインドネシア巡礼団がいつ到着するのかしきりに尋ねた。

 インドネシア巡礼団が来る前の市場にはまだ活気がない。海外からの巡礼者がひとりふたり来たとしても、一番売れるのは靴下、履物、クルドゥンの内側の被り物もしくは傘といった「細々とした」必需品だ。それほど高いものではない。にぎやかではないと彼は言った。「シティ・ラーマー(訳注3)が来れば繁盛するようになる」

 シティ・ラーマーとは私たち〔インドネシア〕巡礼団に対するニックネームだが、いつもそのように呼ばれている訳ではない。彼らは〔私たちに対して〕時には親しみを込めて「おにいさん」「おねえさん」さらには「ハニー」と呼ぶこともある。むしろ改装前のタナー・アバン(訳注4)のような雰囲気で、私たちの気を引こうとしているのだ。

 若い商人が50才過ぎと思われる巡礼者に商品を勧めるのを、私と友人は自然と微笑みながら見ていた。「どうぞお兄さん、見てって」と彼は声をかけた。面白いよ!

 マスジディル・ハラームとジン・モスク(以前ここにはパサール・セン《訳注5》があった)間の道沿い、ヒルトン・ホテルとザムザム・タワー間の小通り、そしてジアド地域における露天商の商人たちは、一般に客とのコミュニケーションにインドネシア語を使う。しかし計算ミスがないように、値段交渉には指が使われることも多い。

 おみやげ、衣服、そして台所用品にいたる様々な〔商品を扱う〕商人は、メッカ巡礼シーズンにはマスジディル・ハラーム周辺以外の場所にもいる。メッカ巡礼宿泊施設があるところには屋台が並ぶため、メッカはこの巡礼シーズンには屋台の町となる。

 到着2日目にバフトマーを訪れた時、この地域でインドネシア・メッカ巡礼者の宿泊施設を統括している第8セクター事務所周辺では、1店の常設の雑貨店が開いているだけで殆どひと気がない状態だった。〔ところが〕4ヵ所の宿泊施設がうまった現在、その周辺は「びっくり市」と化した。そこにはカーペット、いろいろな上着、電気製品にいたるまで様々な商品が陳列された。そう、そこでは〔インドネシアの〕マドゥラ〔島〕出身の居住者も〔物売りに〕加わって、時にはジャカルタのゴンダンディアで仕出屋が作る料理と味もほとんど変わらない、ルジャッ・チングル(訳注6)もこしらえてくれた。

 しかしメッカの商人たちから完全なサービスを期待してはいけない。ここでは客は必ずしも「神様」になるとは限らない。商人が客との交渉に「疲れる」と、客は店から追い出される可能性もある。時には明白な理由もなしに。呪文は一つ、「出ていけ(どうぞは使わずに)。インドネシアけち!」数人の巡礼者がそんな目にあっている。

 商人から罵られたとしても驚いてはいけない。値段〔の決定〕も確かに商人の特権となっている。初めて訪れた時には20リヤル〔約480円〕だった値段が、他を探すからと断り、あなたがもう一度訪れた時には30リヤル〔約720円〕になっていることもある。値切ったり前の値段を指摘したりすると「駄目、インドネシアけち」と彼は言う。

 客の追い出しは礼拝時にも起こる。メッカではアザーン(訳注7)が響き渡ると全ての活動が停止する。露天商だけではなく、通常は高級ホテルと連結している豪華なモール内〔の店〕でも同様だ。アザーンの時刻になるや否や開いている店は無くなる。店内にいる客はすぐに「強制的に」追い出される。それどころか買い物した一山の商品の支払いがその時行なわれていなくても、その場を去るように要求されるのだ。「礼拝、礼拝」警備員は叫び、客を強制的に追い出す。

 この町のトップクラスのスーパーマーケットで、礼拝時、私はたわいもないことを思いついた。店の扉がすでにロックされて、警備員がモスクに行っている間に「取り残された」客がいたら、店員はどうするのだろうか? その日の午後私は試してみることにした。

 通路でコーヒーをまだ夢中で選んでいる私を「見つけて」、ある店員が尋ねた。礼拝をしないのか。私は首を横に振った。すると彼は私が商品に触れるのを禁じた。「駄目、駄目」彼は言った。「祈れ、祈れ!」

 私を新聞と雑誌のカウンターに誘い、折りたたみ椅子のところまで連れて行くと、おとなしく座っているように彼は命じ、私が理解に苦しむ言語で、礼拝が終わるまで商品のエリアに向かわないように〔手振りを交えて〕合図した。シャー・ルク・カーン(数日前に誕生日を迎えたインドの映画スター)の写真が表紙を飾る一冊の雑誌を彼は取り出し、私に読むように手渡した。

 そんな訳でその日の午後、私はその雑誌のカウンターで「ディスプレー用マネキン」となった。私が読める唯一の新聞は「アラブニュース」だけで、その日のニュースはあまり面白くなかったので、本当にマネキンのように〔私は座っていた〕。その他のアラビア語の新聞と雑誌は私には理解できなかったのだ!


訳注
1) マスジディル・ハラーム: 聖地メッカの聖モスク。その中にイスラームの聖殿であるカアバがある。巡礼者は、カアバの周りを反時計回りに7周するタワーフと呼ばれる儀式を行う。
2) クルドゥン: イスラーム教徒の被り物
3) シティ・ラーマー: 買い物をするインドネシア出身の女性巡礼者に対する呼称。
4) タナー・アバン: 中央ジャカルタの小区域。ジャカルタで最大級の商店街がある区域として知られ、現在は近代的なショッピングセンターも建設された
5) パサール・セン: マスジディル・ハラームを訪れた人は必ず立ち寄る場所で、比較的安く買い物ができることで人気があった
6) ルジャッ・チングル: 牛の鼻のスライスが入り、ピーナッツソースがかかっている野菜サラダ
7) アザーン: イスラーム教徒が一日5回行う礼拝時間を知らせる呼びかけ

(翻訳者:川名桂子)
(記事ID:in0911081kk)

原題:Tak Selamanya Pembeli Adalah Raja
http://www.republika.co.id/koran/127/87815/Tak_Selamanya_Pembeli_adalah_Raja



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