インドネシア語新聞翻訳
2010年7月30日(金)
【レプブリカ紙】


聖地へ向かう道を切り開く〔正しいメッカ巡礼貯金〕

 聖地へ向かう道は多くある。今日、メッカのカアバ神殿を訪れることができるのは裕福な人たちばかりではない。収入がぎりぎりのイスラーム教徒もイスラームの5行〔信仰告白、礼拝、断食、喜捨、巡礼〕の5番目を果たす機会がある。その方法とは?

 現在、いくつかのインドネシアの銀行がメッカ巡礼貯金の商品を提供している。顧客は所得から天引きの形でメッカ巡礼の義務を果たすための資金を貯めることができる。貯金額が大きくなればそれだけ聖地への出発する予定も早くなる。

 このような方法でメッカ巡礼の義務を果たすのは、イスラーム法に照らして許されるのか?

 インドネシア・シャリア銀行協会のA・リアワン・アミン会長は、全国シャリア審議会のファトワ(訳注1)に基づき、このメッカ巡礼貯金はイスラーム法的にハラル(訳注2)であると表明している。

 「従って、メッカ巡礼貯金をしようと考えている人は、シャリア銀行(訳注3)に貯金する限り、問題はない。貯金に利子をつける在来銀行の場合と異なり、シャリア銀行では預かっている金に利子がつかないからだ」とこのムアマラット銀行の元頭取だった同会長は述べた。

 同会長によると、メッカ巡礼貯金の存在はイスラームの5行の5番目〔メッカ巡礼〕を果たそうとしている人たちにとって、極めて助けになっているという。彼は、巡礼を予定している人は、そのために用意している資金を貯金しておいたほうが良いと考えている。というのは家に置いておくと使ってしまったり、無くなってしまう可能性があるからだ。

 「巡礼貯金にしておくと、巡礼参加予定者はいつ出発するか、計画をたてることができる。なぜなら巡礼貯金は好きなときにいつでも下ろすというわけにはいかないからだ」と同会長は述べた。ただ、一般的にインドネシア経済は常にインフレに対して弱い、と彼は述べた。

 巡礼貯金であれ、一般の貯金であれ、すべての貯金はインフレの影響を受ける。その結果、通貨価値が蝕まれ通貨の購買力がますます小さくなる。同会長は、これら全ては一般的なリスクであるとみなしている。「長年貯金をしていても、その金を下ろすときには、その購買力はますます小さくなっている」

 巡礼貯金を運用する面で、シャリア銀行は巡礼貯金と通常貯金の区別はしていない、と同会長は述べた。全ての貯金は集められて、それから生産分与方式(訳注4)によって人々に貸し出される。

 彼によると、この生産分与方式は利子システムとは明らかに違うという。もし、この生産分与方式が利子システムと同じであると言う人がいれば、その人は生産分与方式を詳しく知らない者だと彼は明言した。

 インドネシア・ウラマ評議会マールフ・アミン議長は、巡礼貯金の法的問題に関するリアワン会長の説明を正しいと認めた。彼によると、巡礼貯金はイスラーム法上許容されているという。インドネシア大統領の諮問委員会のメンバーでもある同議長はさらに、巡礼貯金は巡礼費用を即金で払うことができない人たちにとっての解決策になる、と述べた。

 同議長はメッカ巡礼のために貯金することは許容されているとはっきり述べた。その条件はシャリア銀行に貯金することで、そうすれば預けた金に利子がつかない。「巡礼貯金は助けになることが多い。もしこれがなければ巡礼に行けない人が多く出るだろう」と彼は述べた。

 シャリア銀行は、と同議長は続けた。もちろん貯金の運用をイスラーム法の諸原則に則って行っている。「このシャリア銀行には、ムダラバ(訳注5)、ムラバハ(訳注6)といった原則や、その他にも多くの原則がある。はっきりしていることは、シャリア銀行には人々の資金をイスラーム法に則って運用するいくつかの仕組みがあるということだ。シャリア銀行にあるのは、利子制度に基づかない〔イスラーム法に則った〕生産分与方式だけだ」

 ワカラ・インドゥク・ヌサンタラの役員ザイム・サイディ氏は、巡礼のため貯金することは、イスラーム法の決まりに沿っている限り、イスラームに照らして許容されると語った。しかし彼は、政府が実施している巡礼予定者のための貯金方法は間違っていると考えている。

 それはどういうことか? その理由はその巡礼貯金に利子がつくからだ、とザイム氏は述べた。イスラーム法では貯金に利子をつけることはハラム(訳注7)であるにもかかわらず〔政府の巡礼貯金には利子が付いている〕。「ここで問題になっているのはハラルとハラムが混同されていることだ。巡礼のために貯金する気持ちはハラルだ。しかし、貯金に利子がついているので、その利子がハラムだ」

 巡礼貯金の利子がハラムであるほかに、ルピアあるいは米ドルの形での巡礼貯金は損をするばかりだ。その理由は両者の通貨価値が下がり続けているからだ。その結果、巡礼費用が高くなるばかりだ、と同氏は語った。「巡礼貯金はディナール金貨(訳注8)の形で蓄え、その貯金は利子がつかないものであるべきだ」

 巡礼に必要なためにディナール金貨で貯金するメリットは数多くあると同氏は述べる。一例として、巡礼にでかける費用が年ごとに安くなる。というのはディナール金貨の価値が年ごとに上がっているからだ。

 「もしルピア建てで巡礼貯金をすると、巡礼に行く費用は年に5%ずつ上がってゆくことになる。一方、米ドル建てにすると巡礼費用は年に約3.5%上がってゆく。しかし、ディナール金貨を使って巡礼貯金をすると、巡礼費用は毎年およそ8%下がることになる」と同氏は述べた。

 その結果、巡礼予定者は損ではなく得をすることになる。彼は、現在ある巡礼貯金はまだメリットを持っていないと考えている。なぜなら、巡礼予定者の資金は活用されておらず、かつ利子制度下にあるからだ。

 同氏は、政府が巡礼貯金にディナール金貨を利用する方向へ変えることを期待している。その結果、巡礼予定者は巡礼費用が下がり得することになる。「宗教省が政策立案者として、早急にディナール金貨に関する特別研究を行うことを期待している」


訳注
1) ファトワ: イスラーム法に基づく宗教学者の見解
2) ハラル: イスラーム法によって許容されている行為、摂取物
3) シャリア銀行: イスラーム法に則って業務を行う銀行。例えば利子の徴収は認められていない。
4) 生産分与方式: 貸付先がその資金を利用してあげた利益の一定割合を銀行が受けること。
5) ムダラバ: 顧客に事業資金を提供し、その事業から発生した利益を配当の形で受け取る方法
6) ムラバハ: 物品の売買を介在させる金融方法
7) ハラム: イスラーム法によって禁じられている行為、および摂取物
8) ディナール金貨: イスラーム圏では国際取引の決済手段として変動の激しい米ドルではなく金そのものを使用しようという発想があり、金純度の高いイスラーム金貨ディナールが基準通貨として候補となった。2002年マレーシアのマハティール首相が提唱し、2009年イスラーム圏経済会議で使用促進に関する決議がされている。1ディナール金貨は純度約97%の金を4.25グラム含有している。


(翻訳者:山本肇)
(記事ID:ec1007301hy)

原題:Meretas Jalan Menuju Tanah Suci
http://koran.republika.co.id/koran/52/116225/Meretas_Jalan_Menuju_Tanah_Suci


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