インドネシア語新聞翻訳
2010年4月9日(金)
【レプブリカ紙】


なぜシャリア銀行は競争に負けたのか?

【寄稿者】ノーベン・スプラヨギ: スラバヤ、アイルランガ大学経済学部、シャリア経済部門教師

 インドネシアにおけるシャリア銀行(訳注1)は、2000年代以来成長を続けている金融機関で、投資家や一般のひとびとの関心を惹いている。しかし、現在その成長ぶりはシャリア普通銀行(訳注2)とシャリア事業体(訳注3)の数の増加に限られており、マーケットシェアの増加とはバランスがとれていない。2008年に目標としていたマーケットシェア 5% は達成されず、2010年初めの現在でもわずか 2% だ。この現象はシャリア銀行がまだ在来型銀行との競争に負けていることを示している。

 シャリア銀行が 5% のマーケットシェアを達成するのに失敗したことは、まだ在来型銀行との競争に負けていることの現われだ。この競争力の弱さは、比較優位と競争優位を重視して経営されてこなかったことに原因がある。

 このような状況になっているのには外的要因と内的要因がある。外的要因はインドネシア銀行(訳注4)の規定と現行の法律にある。インドネシア銀行はシャリア銀行の規定を作るときに、在来型銀行とは異なるその特殊性を考慮に入れなかった。

 そのため、在来型銀行のための規定の多くがシャリア銀行にも適用された。例えば、生産的資産に対するリスク準備金制度(訳注5)、非生産的資産(訳注6)、およびシャリア銀行におけるリスク・マネジメントなどに関する規定と政策の多くが、在来型銀行の諸規定を参照にして作られている。

 シャリア銀行業に関する2008年法律21号の第4章第1項を見ても同様で、ここでもシャリア銀行は在来型銀行と同一視されている。つまり、もっぱら資金を集め、貸し出す機関としてとらえられており、シャリア銀行としての性格や思想は排除されている。

 民法もイスラーム法の諸原則と相反することがたびたびある。シャリア銀行業は公正証書作成や、民法とイスラーム法が競合する場合にしばしば民法を優先しており、その結果シャリア銀行の特徴が失われている。

 ひとびとも間接的にシャリア銀行の比較優位と競争優位を弱いものにしている。シャリア銀行のサービスを利用する際に、まだ在来型銀行のサービスを利用するときと同じように接しているからだ。

 このような状況のため、シャリア銀行のマーケティング部は在来型銀行と変わらないものになっている。これはシャリア銀行の商品を顧客に理解してもらおうと指向した結果だ。

 本来ならシャリア銀行の商品の顧客への紹介は、顧客の行動を変えるための啓蒙を伴ったものであるべきだ。それによって、シャリア銀行の比較優位と競争優位が見えてくる。

 シャリア銀行の相対的優位性と競争力を弱めている内的な要素は、シャリア銀行自体のマネジメントにある。一般的にシャリア銀行はまだ在来型銀行のマネジメントのスタイルを踏襲している。これはシャリア銀行に対するインドネシア銀行の規定と政策の多くが在来型銀行を参照して作られているために起きていることだ。

 シャリア銀行の経営陣は、利幅、手数料、運用益分配率(訳注7)を決定するに当たって、まだ[在来型銀行の]利息水準を比較の指標として使っている。

 シャリア銀行の経営陣自体が自行の成績を在来型銀行の成績と比較して測っている。特にシャリア銀行と在来型銀行の預金サービス対価の比較においてはそうだ。

追随者で価格受容者
 上記の二つの状況の結果、シャリア銀行は単なる追随者で価格受容者(訳注8)になっている。シャリア銀行に対するインドネシア銀行による規定および政策は、これまで在来型銀行の実績を基準とし、これに合わせて経営を行うようシャリア銀行に強要してきた。」その結果、シャリア銀行は常に在来型銀行を参考にし、模倣してきた。

 このような状況は、シャリア銀行を、金融業界でマーケット・リーダーになっている在来型銀行の追随者であり価格受容者にしている。しかし、シャリア銀行はそのユニークさと特別な性格によって、金融界でのマーケットシェアの争奪戦において在来型銀行に対するチャレンジャーになれるのだ。

 追随者の地位にいる限りは、シャリア銀行が在来型銀行の上位に立つことはできないと思われる。できるとしても、顧客の目に比較優位と競争優位が見えるようにするには多大の努力を必要とするだろう。これまでシャリア銀行は、在来型銀行との競争において常に価格受容者となっていた。ムラバハ(訳注9)による融資によって顧客に売る商品の値段、[イジャーラの場合の]リース料(訳注10)の決め方、運用益分配率などを決めるベースおよび方法として、常に市場金利を援用してきた。

 しかし、これまで金利はシャリア銀行ではなく在来型銀行がコントロールしてきた。その結果、シャリア銀行はその利用者に過ぎず、その時の市場通常価格を決めるに当たって利用される情報の生産者ではなかった。

 そのためシャリア銀行は、在来型銀行との競争において価格作成者でなく価格受容者としている限り、競争力はない。シャリア銀行は売買取引、賃貸借、およびパートナーシップの市場価値を決める際のベースとして使うための、在来型銀行とは別の独自の情報システムを構築すべきだ。


訳注
1) シャリア銀行: イスラーム法に基づいて営業する銀行で金利の授受は認められないなどの特徴を持つ
2) シャリア普通銀行: 全面的にイスラーム法に則った銀行。ここでいう「普通」とはインドネシアにおいて県(Kabupaten)以上の規模で業務をおこなっている銀行のことで、郡(Kecamatan)や村(Desa)レベルでの小規模な信用金庫や組合、講よりも大きく、地域的普遍性があるという意味で、「普通」という言葉が使われる。
3) シャリア事業体: 在来型銀行の傘下にあるシャリア事業体
4) インドネシア銀行: インドネシアの中央銀行
5) 生産的資産: 融資、債券、他行への預金、投資など利益が期待できる資産。ただ、これらの資産はリスクを伴うため、一定割合のリスク準備金を積むことが要求されている。
6) 非生産的資産: 担保に取った物件、不良不動産など所有していても利益が期待できない資産
7) 運用益分配率: シャリア銀行は金利の授受が禁止されているため、顧客から預かった金を運用し、その運用益を分与する形で金利に相当するものを顧客に支払っている。その分配率のこと。
8) 価格受容者: 市場価格に影響を与えたり操作したりする力がなく、他社が設定した価格を受け入れるだけの者
9) ムラバハ: 物品の売買を介在させる金融方法。例えば企業がある設備を購入する資金を必要としている場合、シャリア銀行がその設備を購入し、それに利ざやをのせて企業に売却する。企業は購入代金を分割で銀行に払う。事実上銀行が企業に設備投資資金を融資した形になる。
10) イジャーラのリース料: 顧客がある設備を欲している場合、銀行が顧客に代わってその設備を購入し顧客にリースする契約をイジャーラと言うが、その時のリース料


(翻訳者:山本肇)
(記事ID:ec1004091hy)

原題:Kenapa Bank Syariah Kalah Bersaing?
http://koran.republika.co.id/koran/174/108196/Kenapa_Bank_Syariah_Kalah_Bersaing



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