展示品
[作品14]
■刑罰執行官およびその助手
Chief and Assistant Executioner 
(英語原文をよむ)

 ズルマトのギルジー部出身のムハンマド・シャーとカンダハールのポーパルザイ族の出身であるガウプールを描いたこれらの肖像は、王のナサクチーバーシー たち、すなわち刑罰執行官の、まことに奇怪で悪魔のような風貌に関して、ぼんやりとした感じしか与えないであろう。彼らを正しく評価するためには、真紅の上着を身につけ、あらゆる形の想像しうる空想上の高い帽子をかぶった彼らが、数百人の集団になっているところを見るべきである。帽子は、ロバのような大きな耳やヤマアラシのようなとげで飾られたものもあれば、山羊や水牛の角のような形をしたものもあり、多くは円錐、螺旋、鐘形をしていた。これらの帽子はすべて、多かれ少なかれ粗雑な像や意匠で装飾されており、いくつかには高位である象徴として槍の穂先が飾られていた。

■ムハンマド・シャー
 着座した執行官は貴人の出身であり、国王の前でも乗馬したままでいることできた。彼はその手に彩色された杖を持っており、その上部には一族の長であることを示す鳥の飾りがついていた。こうした服装の慣習は非常に遠い昔に起源を持っており、私が聞いたところによれば、古代ローマ皇帝の時代に守られていた慣習に由来するという。かの時代、廷臣たちはこの過度に飾り立てた衣装を身に着けていたというのである。もしこれらの人々の衣服が、その平和的な任務の際、すなわち棹をもって大声を上げながら息急き切ってシャーの前を走り、その道を空けているとき、それだけで見る者の心をひどく驚かせるならば、彼らがその残忍な仕事に従事するとき、キリスト教徒の男たちは、どれほど恐怖で凍りつくことであろうか。彼らは完全に殺すということをめったにせず、彼らの短刀に委ねられた不幸な罪人を引き裂き、叩き切り、あるいはのこぎり引きにし、その震える体を公衆の面前に晒すのである。誰も彼に止めを刺すことも、助けてやることもしない。なぜなら、こうした苦難は他の者への見せしめとなるとともに、犯された罪への償いとなるものとされているからである。

■ガズニーにおける大虐殺
 ガズニーの最初の占領後、70名のアフガン人の捕虜が王の命によって御前に召し出された。シャーが彼らを反逆者として叱責すると、他の者より憤慨していた1人が公開の法廷で1人のペーシュヘドマト を刺したが、死にいたる傷を与えたわけではなかった。捕虜は全員即座に死刑を宣告された。陣営より外で連れ出され、これらの悲惨な境遇にある者たちは背中合わせに縛り付けられ、ある者は座って、ある者は立った状態で、ある者は横たわった状態で1ヵ所に集められた。それから、一方から他方へ飛び跳ね、その長くて真っ直ぐな短刀を振り回しながら、血まみれの復讐の代行者たちは彼らの頭や首を手当たり次第に叩き切り、休息の時間をしばらく置いた後、70名すべてが虐殺されるまでそれを続けた。アフガン人がこのカトレ・ローズ (虐殺の日)ついて話すのを聞いたとき、私はバーンズにこの件について質問し、この虐殺が、ガズニーのシャーの陣営で、ほとんど私が描写したのと同じように行なわれてしまったことを知った。これは、私がカーブルに滞在していた間に起こったこの種の事件の唯一の例でなかった。私が言及せずにはおれない事件として、高い才能に恵まれた役人であるロード博士を殺した犯人に関するものがある。彼は私の不運な兄の親しい友人であり、彼の死後、私の兄が彼の任務を引きついだ。

■ロード博士の殺害
 パルワーンダラの戦いの日、ドースト・ムハンマドの旗下にいたコーヒスターンの強力な族長であるジャーン・ハーンが、両軍が交戦する前にやって来た。その日、ロード博士が前線にいると知り、彼と交渉をすると偽ってのことであった。彼は敬意を持って迎えられ、ヒルアト や見事な武器を与えられると、彼は、元アミールを説得して流血なしに我々の許に来るように説得するよう努めると約束して去っていった。陣営に到着すると(証言によって後に確かめられたところによれば)、この悪に染まった裏切り者は、邪悪に得た名誉の品々を誇った。また、その偉大なる者(ロード)を見知っており、戦いが始まったら彼はきっと丘の斜面のあるブルジュ(稜堡)のそばを通ると推測し、もしアミールが王座を回復した後に、何らかの重要な地位を与えるならば、ロードを殺害してその首を持ち帰ることを申し出た。交渉が成立し、その暗殺者はぽつんと立つ望楼のそばに身をかがめ、標的とする犠牲者の到着を待った。彼がそれとなく予言したとおり、騎兵の一団が近くに疾駆してきた。死を招く正確さで標的を捉えると、彼はロードへ銃を発射した。そして横たわった騎手に飛び掛り、短刀でその身を探ったのち、一撃を加え、懐中時計やピストルをベルトから引き抜いたようだった。遺体は後に、裸にされて傷つけられた状態で発見され、ブロードフットの遺体とともにラグマーニーにある私の兄の要塞の近くに葬られた。我々はしばしばその場所をよく訪れたが、戦士の墓地ではうっとりするほど美しいイングランドの花々が、「あらゆる色のアイリス、バラ、ヒヤシンスがその咲き誇った頭を間を隔てて高く起こし、モザイクを形作っており」[Milton, メParadise Lost,モ book IV]、一方で「チューリップ、クロッカス、アネモネが、豊かな象嵌模様で地面に刺繍を施していた。」[Milton, メParadise Lost,モ book IV]かくして、私の兄は最良の友人を失い、政府は最も熟達し、はかり知れない価値を持った奉仕者を失ったのである。それも、考えられたように軍刀による斬り合いや相争う軍勢の騒音の只中でなく、少し前に犠牲者が友情と栄誉を持って迎えた、卑劣な暗殺者の手によってである。

■犯人の捕縛
 A・バーンズ士爵は、その生まれつきの温かい心で、あれほど親愛であった友人を失った私の兄に哀悼の意を表し、バーンズが私の兄の地位を代わることを申し出て、同時に私の兄にロードの任務を任せて、公使の意向を聞くことになった。そして、公使は即座に兄にその重要な地位を与えることを承認した。コーヒスターンの政務を掌握した後、彼の最初の一歩は殺人者を裁きの場に引き出すことであった。アフガンの騎兵に護衛され、彼はあの卑劣漢を夜襲や急襲によって要塞から要塞へと追いたて、ついに、疲れを知らぬその活力によってジャーン・ハーンを捕縛することに成功した。

■助命の嘆願
 彼が手枷足枷をされ、厳重な警戒の下ガルヒーエ・ラグマーニーの門のそばにある部屋に座っているのを私はしばしば見た。数え切れない者たちが彼の助命を嘆願しにやって来た。危険な容貌をした彼の息子たちや、彼の家族の女性たちが、彼のために嘆願を行なったが、成功を収めることは出来なかった。この女性たちは、パルダ 、すなわちハレムの隠遁をうち捨てて、コーランをむき出しの頭に乗せたまま徒歩でやってきた(これは、可能な限り最も強く感情へ訴えるものである)のであるが。慈悲を示すことのなかったものは、何も期待することは出来なかったのである。何ヵ月かの獄中生活の後、公使は罪人をマホメット[イスラーム]教徒の法に則って裁くと決定した。これは思慮に欠ける決定であった。なぜならば、コーランは最良のときでも取るに足らない法典であり、今回これに訴えようというのは、「殺せ」と教えるその本によって殺人者に有罪を宣告しようという無駄な試みだからである。

■法廷の様子
 このまがいもの法廷のために定められた日、ハーキム (長官)たち、サイイド (聖者)たち、カーズィー (法官)たち、族長たち、ムッラーたち、そして博識の学者たちが渓谷の各所からやって来て、粗布の幕で仕切られた区画に詰め掛けた。歓待のために絨毯が敷かれており、ここで法廷が開かれることになっていた。どちらもアフガン人の服を着た原告のラットレー大尉と私だけが出席したヨーロッパ人であった。それは加わるのに不安になるような光景であった。1人の不信仰者が偏屈なおびただしい数のマホメット教の判事たちの前に立ち、不信仰者を殺害した罪で、その預言者の信心深い信奉者を訴えようとしているのである。我々が広々とした天幕に入ると、そこは顎鬚の並ぶ壮観ともいうべき光景であり、天幕の内部には、数珠やコーランを手に持ち、あるいは静かに三日月刀をもてあそぶ学者たちが、容易に動じない重々しさで、長い列をなして座っていた。全員がゆったりした長服と数え切れない色と形のターバン――ムッラーの丸くて白いもの、サイイドの硬く締められて緑のもの、族長たちの無造作に巻かれたカシミヤ製のものから、わざとらしくしかし気楽に巻かれた洒落者のものまで――を身につけていた。重武装の従者は、彼らの後ろに一団となって、また、入口に密集して、立っていた。正義に関するキリスト教徒の見方が、イスラームの誤った信仰の凝り固まった偏見と対決するのを見るのは、非常に興味深いものであった。

■裁判の進行
 罪人が到着すると、すべてのアフガン人が彼と互いに挨拶を交わした。原告と、彼らの呼ぶところによれば、殺害された者のバラーダル 、すなわち兄弟(被告が有罪となったとき、短刀で最初の一突きをするという、羨ましい特権をその者に与える称号である)が、被告と同じ敷物に座るよう指示された。これは、双方の相対的な位置がどちらかに有利なものとならないためである。証言が聞かれ、有罪が明確に証明された。すると、カーズィーはその頭と顎鬚を揺り動かしながら、コーランの章句を低い調子で引用し、互いにうなずき、瞬きすると、私の兄に対し、ジャーン・ハーンに対する告訴はいかなるものであるのか問うた。「殺人である」と彼は言い、「それはあなた方の聖典では血によって洗い流されねばならない。『血には血を』」。恐るべき沈黙が後に続いたが、それは、非常に長い顎鬚を持った人物である首席カーズィーによって破られた。彼は立ち上がると、その大きくて重いコーランを指し示し、誇らしげな声音で言った。「不信心者には、この聖典の禁令に字義通りに従っている信仰者を訴える力はない」(同時にそれを激しく叩いた)「異教徒を殺害したことで、この世における栄誉、来世における天国とその天女が彼を待っているのである」。「ラースト・メーゴーヤド 」(彼は真実を言っている)、「バーラカッラー 」(でかした)という宣告を支持する声が、この威厳に満ちた集会中に響いた。これに対して私の兄は被告の隣のその席から立ち上がると言った。「あなた方が拒否するのであれば、私はパードシャー[王]の手に正義を求めます。ベールーン・ベバル (彼を連れ出せ)」青ざめ、気落ちして不安そうに見える暗殺者は、血に飢えて近寄りがたいというよりは穏やかな顔つきをしていたが、彼は審理の間中、絶え間なく祈りをつぶやいたり、数珠を数えたりして時間を費やしていた。彼は牢獄に送り返され、その後カーブルへと送られた。

■宴会
 そしてその後、アフガン人の胸に隠されたイギリス人に対するすさまじい反感をはっきりと示す事件が起こった。法廷が散会になる中、チャーリーカールのハーキムが、年長で、この場では最も重要な人物であったのだが、その席を立って大またで部屋を歩いて行き、ある族長を硬く握り締めた拳で殴りつけたのである。これは、彼が真の信仰者に不利な証言をしたと考えたからである。この突然の出来事に、私の兄はこの人物との会見を数日間拒否した。一方で、参加者たちは盛大な宴会を準備していた。字句や屁理屈、論争と不和は祝宴に道を譲った。コーランは懐や帯の中に深くしまわれ、しばらくの間、信仰の違いや良心の咎めは忘れ去られ、異教徒と信仰者が同じ皿に手をいれて食事を取ったのである。

■犯人の処刑
 こうして奇妙な興趣に満ちた1日は終わった。私の記憶の中に非常に生き生きと心に描かれたので、命の砂が流れ去ってしまうまで、それは消え去ることはないであろう。しかし、その悲劇の締めくくりに、シャー・シュジャーが「[ロードの]殺害は殺人でない」というカーズィーの判決を聞くと、彼はみすから法を執行し、ジャーン・ハーンを刑罰執行官の手に委ねるよう命令を下した。執行官たちは彼に体刑を科し、徐々に死に至らしめた。彼らはジャーン・ハーンのあばら肉をぎざぎざの短刀で引き裂き、そのはらわたを晒した。3日間の長く引き延ばされた断末魔の苦しみの末、死が彼に訪れた。

 
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