日本で作ろう!マダガスカル料理 第12回
ヴァランガナ(varangana)の巻
『Serasera』第16号 pp.8-10 掲載
1.用意するもの(4人から6人分)
  1. 牛肉の赤身 ブロック 1kgから2kg
  2. 食用油      少々
  3. 塩    小さじ 一杯から二杯
  4. しゃもじ または へら
  5. フライパン
  6. (お好みによって)ニンニク片や生姜片
2.料理方法
  1. 鍋の底一面に広がって溜まるくらいまで、食用油をひきます。
  2. 鍋を加熱します。食用油が十分に熱したところで、牛肉の赤身ブロックを切り分けずにそのまま、鍋の中に入れます。この時、肉の生臭さを消すために、ニンニクや生姜のスライス片を少し入れても構いません。
  3. 牛肉の表面に火が通ったら、水かお湯を加えます。加える水の量は、肉の塊が半分から三分の一くらい水から出るくらいを目安にします。
  4. 塩を加えてから鍋に蓋をして、中火で加熱します。
  5. 肉の塊の大きさや鍋の形状にもよりますが、煮込みには、だいたい2時間くらいかかります。途中、水分が無くなってきたら、肉をこまめに裏返すなどして、焦げつかないように注意してください。まだ肉に十分に火が通らないうちに水分が減ってきた時は、水かお湯を足してください。火が肉の中まで十分に通っているかどうかは、鍋からのぼる匂いと肉からしみ出す脂で判断します。肉に十分火が通っていない時は、肉の生臭い匂いがしますし、火が十分に通ると香ばしい匂いがします。また肉に火が十分に通っていない時は、肉が固く、火が十分に中まで通ると、肉の中にあった脂が溶けて肉の表面からしみ出してくるようになります。
  6. 中まで肉の塊に火が通ったら、弱火にして加熱を続けます。赤身の肉が、最初に鍋にひいた油と肉自身からしみ出した脂と絡まり、次第にほぐれてゆきます。そのほぐれた肉にも火が通り油と脂によく絡まるように、しゃもじやへらなどで時々肉をよくかき混ぜます。
  7. 水分が無くなり、肉が糸状にほぐれてきたら、火を止めます。次ぎに、その肉を笊にあけ、屋外で日にあてて乾燥させます。十分にほぐれていない肉は、乾燥させる時に手でほぐしてください。笊にあけた肉は、時々かき混ぜ、どの面にも十分に日光が行き渡るようにします。肉を乾燥させている時に、蠅がたからないよう、笊をネットなどで覆ってください。その時の天候や湿度・温度にもよりますが、この天日干しを数日間から1週間続けていますと、ほぐれた肉がやがてパリパリの黒い糸状になります。これで貯蔵可能なヴァランガナの状態となります。虫などがたからないようにした風通しの良い籠などにヴァランガナを入れて日陰に置いておくと、数ヶ月から一年の貯蔵にも耐えると言います。
  8. 食べる時は、フライパンに十分に食用油をひいて加熱し、そこにパリパリの糸状の肉ヴァランガナを入れて、軽く塩をふってさっと炒めます。肉が油を吸って、少し赤みを帯びてちょっとしんなりしてきたら出来上がりです。
3.ここがポイント!
  1. 肉は、脂身のないアメリカ産やオーストラリア産牛肉の赤身のブロックを使ってください。赤身ブロックのほうが、早く身がほぐれます。
  2. 肉を煮込んでいる時に焦げ付かないよう、時々鍋の中をのぞき、肉を裏返すことに十分に注意してください。
  3. 加熱中の肉を、フォークやナイフで無理にほぐさないでください。十分に中まで火が通り、脂がしみ出るようになると、やがて赤身の肉は筋にそって自然にほぐれてゆきます。
 この肉もしくは料理法を、<ヴァランガナ>(varangana)ないし<ヴァランガン・ケーナ>(varangan-kena)と呼びます。その味はさながらマダガスカルのビーフ・ジャーキー、その見た目はさながら肉で作ったマダガスカルのでんぶと言ったところです。一度肉をよく煮込んで『Serasera』第5号でお伝えした<ヘナ・リチャ>(hena ritra)の状態にしてから、さらに身をほぐして天日干しにし、食べる時にまた油で炒めるなど、いささか手の込んだ料理法です。そのため、「安い、早い、手軽」をモットーとする現地食堂オテーリ(hotely)のメニューの中にヴァランガナが入っていることはありませんし、マダガスカル料理を出すレストランでも、ヴァランガナをメニューに載せている店は少数です。ヴァランガナは、<ヘナ・リチャ>と同じ様に肉だけが素材ですから肉をたくさん消費する上、おまけに二度手間がかかる、そのため家庭においても正月や祝祭日あるいは大事な来客のある時など限られた時にしか供されません。さらにヴァランガナは、昔は<新年祭>の機会などに作られる保存食であり、またその料理法も上記に紹介したものとは異なっていました。

 昔のヴァランガナの料理法は、次ぎのようなものでした。牛肉の塊を鍋に入れ、少量の水を加えて中まで火が通るようによく煮込み、水分を煮飛ばしてリチャの状態にします。ここまでは現代のヴァランガナの料理法と同じですが、肉が煮えたら次ぎに肉を土製の鍋か壺に入れ替え、その上から煮立ったゼブ牛のこぶなどの脂を注ぎ(マダガスカルの牛の背のこぶには、脂肪が蓄積されています)、脂で肉が覆われるようにします。こうしておくと、冷蔵庫の無い時代に長期間肉を保存することができました。食べる時は、脂の中から肉を取り出して塊を切り分けて揚げたり煮たりし、残った肉にはまた煮立った脂を注いでおきました。これが、昔のヴァランガナもしくはヴァランガン・ケーナで、牛肉が大量に入手できた際の保存方法として発達した料理方法でした。

 アンタナナリヴを中心とするイメリナ王国が存在した19世紀末まで、新年を祝う王国の大祭を、<ファンドゥルアナ>(fandroana)、すなわち<沐浴祭>と呼びました。このファンドゥルアナ祭に際しては、上は王族から下は庶民まで、一族毎に牛を屠り、その肉を< ザカ>(jaka) と呼んで互いに交換をしたり、あるいは臣下や家来に下賜したりしました。この祭りの際、食べずに残った牛の肉を各家ではヴァランガナに加工して蓄えておき、必要な時に取り出して食べていました。このためファンドゥルアナ祭と古式ヴァランガナとは、切り離すことのできない関係にありました。

 しかしながらファンドゥルアナ祭は、1895年9月30日のフランス軍のアンタナナリヴ占領、1895年11月22日のファンドゥルアナ祭前後から活発化したフランス占領軍などに対するメナランバ(Menalamba)の反乱、1896年のマダガスカル暦新年のグレゴリオ暦への変更、1897年2月28日の総督ガリエニによる女王ラナヴァルナIII世の島外追放とイメリナ王国廃止宣言、1897年7月14日フランス共和国革命記念日の施行によって、消滅させられてしまいました。そのため、古式ヴァランガナとファンドゥルアナ祭は共に、現在では見られなくなった調理方法と習慣です。きっとファンドゥルアナ祭が廃止された後、人びとがグレゴリオ暦の新年を祝いながらも祭の想い出と共にヴァランガナ料理を作り続けているうちに、いつしか今日見るような料理法へと変化していったのでしょう。

 この機会に、マダガスカルの昔の正月の味に挑戦してみてください!
 参考文献
Pierre BOISSARD, Cuisine malgache, Cusine créole, 1983, Antananarivo:La Libradie de Madagascar.
Louis MOLET, La Conception Malgache du Monde du Surnaturel et de L'Homme en Imerina tome 1, 1979, Paris:L'Harmattan.
前のページへ MENU 次のページへ
このウィンドウを閉じる