Grammatological Informatics based on Corpora of Asian Scripts/アジア書字コーパスに基づく文字情報学
 

第2言語(L2)習得において数の処理に母語依存性が表れる現象と,そこに及ぼす表記形態の効果についての実験(数字音読課題)

 
数の処理に特異的に母語依存性が表れる現象とは:
 
日本語が母語(L1)で英語がL2である被験者に,「絵」や「単語」と共にランダムに配置した「数字」を読み上げさせるという先行研究の実験では次のような結果が得られている。
 
 ・「数字」と「絵」の混合課題において,数字を読み上げる項目では,反応時間において「L1<L2」という関係が恒常的に現れる。⇒「母語依存性」
 ・上記実験の「絵」の代わりに,L1/L2の「単語」と「数字」を混ぜた単純な読み上げ課題では母語依存性は消失する。
 ・「読んだ後で意味判断を行なう」などの教示を追加すると母語依存性が再現する。
 
 これらの結果から,数字を見て意味を処理する際には,自動的にL1による処理がなされて,L2での意図的な(教示によって指示された)処理が干渉を受ける,と考えられる。この現象は「読み間違い」の仕方にも現れており,L2で反応すべき数字項目でのみ,L1で読むというエラーが現れる。また,英語/フランス語のバイリンガル研究でも同様の現象が報告されている。
 
レバノンにおける実験(L1:アラビア語,L2:フランス語)
 
実験には,次のものを配置した用紙を作成し,一人12枚を読み上げる。

数字:アラビア数字とインド数字(アラビア文字)
単語:アラビア語とフランス語
絵 :上の単語に対応する絵

 
用紙の例
 
被験者は一枚ごとに読み上げる言語を,アラビア語/フランス語のどちらかに指示される。従って,異なる言語間の訳という処理も含まれる。
 
実験の様子(AVI)
 
結果
 
アラビア語で読む時の数字エラーが起こるのは    数字表記がアラビア数字(1,2,3)で,     数字以外の単語がアラビア語
 
フランス語で読む時の数字エラーが起こるのは    数字表記がインド数字(アラビア文字)で,   数字以外の単語がフランス語もしくは絵
 
なお,単語を読上げるときのエラーにはこのような偏りはなかった。 つまり,数字の読み上げエラーは,反応言語と数字以外の単語が同じ言語であり,数字表記がその二つと異なる時に発生するという傾向が見られた。
 
これらの現象の解釈としては次のような仮説が可能である。 実験を行ったレバノンの二言語併用被験者は,事前調査によれば,数学教育をフランス語でアラビア数字を用いて受ける一方で,日常生活ではインド数字をアラビア語環境で用いている。従って,数字表記が二種類(アラビア数字とインド数字)あることにより,彼らは二系列の数字処理を行っており,それぞれの言語文脈の中で,数字表記に依存した「二言語依存性」が生じている可能性があるものと思われる。
 
 
発表資料ppt_Web版(IEのみ対応)
 
"L1-dependency for number processing in Arabic-French bilinguals" Psychonomic Society the 43rd annual meeting, 2002.11.22.(Kansas City)