AFLANG復活記念大会@東京



開催日時:


2002年7月6日(土)13時〜18時
場所:

AA研3階 大会議室




発表:
1.中野暁雄(AA研共同研究員、AA研元所員、帝京平成大学)
    「アフロ・アジア(大)語族の子音構成 −panchronic に見た特質と問題点−」
2.神谷俊郎(東京外大院・博士後期)
    「両唇入破音は無声音か? −ングニ語群諸語の例−」
3.榮谷温子(AA研共同研究員、AA研非常勤)
    (ハーフタイム 「アラビア語の未完了要求法は何故《短形》か」
4.塩田勝彦(AA研共同研究員、大阪外大・非常勤講師)
    「ブラ語の母音音素(1)
5.若狭基道(東大院・博士後期)
    「"Female" nouns in Wolaytta」


出席者:


各報告の要旨:

1.「アフロ・アジア(大)語族の子音構成 −panchronic に見た特質と問題点−」

唇音: アフロ・アジア語族では *p と*f の共存も見られるが、 ベルベル語派・ベジャ語などでは f に融合。セム語では *p に融合。
歯音・
歯擦音:
šはセム語全体から見ても由来不明。 祖語における存在を認めない説も多いが、そうすると破擦音の解釈に問題が出てくる。
軟口蓋音・
硬口蓋音:
音対応は比較的単純。
喉音: セム祖語の6つの喉音に、チャド祖語の音対応から得た *q, *▲q・▲を加えた 8つが提唱されている。
Sonant: Diakonoff の sonant 解釈は印欧語に似すぎ。特に ▲H。▲ は全く不要。
いわゆる
「強調音」:
放出音・内破音・口蓋垂化音(咽頭化音とするのは不適当)のどれをアフロ・アジア祖語の特質として選ぶかは、放出音説が有力とは言え、真に解決したとは言えない。
 なお、セム語の「強調音」は口蓋垂化音のみでなく、放出音の特徴を示すグループもある。
音節末子音: アッカド語の CV- の字素では、C が無声音、無声強勢音、有声の3つの場合の区別があるが、-VC ではこの3種が融合し、この場合の C は無破裂閉鎖音と考えられる。

▲q・▲は、qの上に点ひとつ。 ▲H。▲は、Hの下に小さな丸印を書く。


2.「両唇入破音は無声音か? −ングニ語群諸語の例−」

 ングニ語群とは南部バンツー系諸言語で、ズールー語、コーサ語、スワティ語、ンデベレ語が含まれる。具体的にはバツァ方言を取り上げる。バツァ方言における両唇入破音の特性として:
有声阻害音は、両唇入破音を除いて、すべてデプレッサー子音(表層形における声調を低く抑える子音)である。
受動接辞を挿入した場合、語末で、有声両唇音→有声歯茎音、無声両唇音→無声歯茎音という変化が起きるが、両唇入破音だけは無声歯茎音となる。
無声無気クリック音に鼻音が先行した場合、息漏れ音(breathy voice)化するが、これと並行した現象が両唇入破音にも生じる。
 以上の点から、両唇入破音は、音声学的には有声だが、音韻論的には無声であると言える。さらには、ングニ諸語には有声/無声の対立ではなく、息漏れ/非息漏れの対立が最初にあり、これがデプレッサー子音の「有声性」となって現れるのではないか?とも考えられる。

3.「アラビア語の未完了要求法は何故《短形》か」

 ハーフタイム・ショー。日本語によるアラビア語入門書で、「短形」という用語がどのように用いられてきたか(あるいは用いられていないか)を紹介。

4.「ブラ語の母音音素(1)」

 中央チャド(ビユ・マンダラ)諸語に属するブラ語の、高舌母音 /i, u, ■, i:, u:/ について、その音韻的立場を考察する。ブラ語元来の高舌母音は /■/ だけであり、その他はすべて音声環境により作られた異音であると考えられるが、現在のブラ語ではすべてを異音と記述することはできない。
 例えば、語末位置における i, u と ■ とはかなり相補的に分布しているが、最小対も数は少ないとは言え存在する。統計的に見て、短母音 i, u は、本来 ■ の異音であったが、現在では音素としての地位を獲得したものと思われる。また、名詞の複数形や接尾辞による動詞拡張を見てみると、長母音 i:, u: を iy, uw と解釈することで、より単純な記述が可能となる。
 このようなことから、現代のブラ語の高舌母音は、i, u, ■ を音素として認め、長母音は iy, uw と解釈するのが妥当であると考えられる。

■はシュワ。


5.「"Female" nouns in Wolaytta」

 エチオピア南西部で話され、アフロ・アジア語族オモ諸語に属すウォライタ語には、名詞の形態的パタンに、男性3クラス(a, e, o)、女性1クラスがある。
 ウォライタ語では、純粋な「女性」名詞が極端に少ない。単複両形の格語尾が一貫して女性形をとるものは、母・姉妹・妻・少女・女の5語のみで、他の名詞は、単数形が女性形であっても、複数形の格語尾は男性形と同じになる。自然性が女性である語(出産直後の女性、出産直前の雌牛、女中、適齢期の少女、等々)でも、複数形の格語尾は男性形と同形をとるものが多い。
 その他、意味的・形態的分析から、ウォライタ語における純粋の女性名詞は新しく、男性 e クラスから派生したものではないかと考えられる。

(文責 榮谷温子)



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平成14年5月吉日
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