ヨルバ語の動詞連続                小森 淳子                    komori@idc.minpaku.ac.jp   1.はじめに  今回の発表は、96年第1回Aflangでの発表をさらに発展させて、 まとめ直したものである。  前回の発表では、ヨルバ語の動詞連続に現われる動詞の分布を、 自動詞の意味による分類を中心に分析した。  今回はまず、統語的な特徴に基づいて動詞連続文を分類し、さらに 動詞の意味による分類に基づいて、動作動詞の連続と変化動詞を含む 連続について考察した。  なおここでは、ヨルバ語の低音調を[3]、高音調を[2]と記す。中音調 はノーマークとしている。また、開いた[o]と開いた[e](ヨルバ語慣用 表記では、下点付きoとe)はそれぞれ[o:]と[e:]で表す。 2.ヨルバ語の動詞連続の統語的な分類  ヨルバ語の動詞連続は、動詞連続に現われる動詞のすべてが、全 体の主語にあたる名詞句と項関係をもつか、あるいはもたない動詞 が含まれているかによって、まず2つに分けられる。さらに、それ ぞれの分類は、統語的な基準により下位分類される。概略を示すと 以下のようになる。  1. すべての動詞が全体の主語にあたる名詞句と項関係をもつ連続 1.1 「連続タイプ」 1.2 「修飾タイプ」 i)動作者の動作を表す連続       ii)状態の変化を表す連続 2. 主語の名詞句と項関係をもたない動詞が含まれる連続 2.1 主語以外の名詞句とだけ項関係をもつ動詞を含む連続 2.2 どの名詞句とも項関係をもたない動詞を含む連続 2.3 文法要素化している動詞を含む連続 それぞれの分類の基準と例は以下の通りである。 1.1 「連続タイプ」  1.2の「修飾タイプ」と異なる点は、連続する動詞句の間に 前置詞句などの要素が挿入できるかどうかである。(1)の例では "wo: o:ko:3"(車に乗る)という動詞句と"lo:"(行く)の間に 前置詞句"ni2 ibe:3"(そこで)を挿入できるが、(2)では "mu o:sa3n"(ミカンを食べる)と"ri3n"(歩く)の間に前置詞句 "ni2 o:3na3"(道で)を挿入することはできない。 (1) Olu2 wo: o:ko:3 ni2 ibe:3 lo:  si2   ile2-i3we2.    オル 乗る 車  〜で そこ  行く 〜へ  学校             オルはそこで車に乗って学校へ行った。 (2)* O2 n2 mu   o:sa3n ni2 o:3na3 ri3n. (「修飾タイプ」)    彼 pr. 飲む ミカン 〜で 道 歩く 1.2 「修飾タイプ」  i) 動作者の動作を表す連続 (3)目的語を共有する2つの他動詞   a. A   pi2n  owo2 ounje: san.   私達 分ける お金 食べ物 払う     私達は食事代を割り勘にした。 b. O2 fa  wa2ya3 ja2.     彼 引く ワイヤー ちぎる 彼はワイヤーを引きちぎった。 (4)同時に行われる動作の連続 a. O2 su2fe3e2  lo:.     彼  口笛を吹く 行く  彼は口笛を吹きながら行った。   b. O2 jo2  wo: a3a3rin agbo.     彼 踊る 入る 真ん中  輪 彼は踊りながら輪の中に入った。 (5)連続的に行われる動作の連続 a. Baba nawo:2   re2   koboko.     父  手を伸ばす 落とす 鞭         お父さんは手を伸ばして鞭をとった。 b. Ti2ti2  ku2nle:3 ki2   baba. ティティ ひざまづく 挨拶する お父さん     ティティは跪いてお父さんに挨拶した。  ii) 状態の変化を表す連続 (6)a. Olu2 mu o:ti2 yo2.     オル 飲む 酒 酔う    オルは酒を飲んで酔った。 b. O:mo: na2a3 yo:3 shubu2.    子供 その  滑る 転ぶ  その子は滑って転んだ。   c. Ko2ro2 yi3i2 yo2o2  hu3   di  igi ele2so.    種   この  fut  発芽する なる  木  果物            この種は発芽して果樹になるだろう。 2.1 主語以外の名詞句とだけ項関係をもつ動詞を含む連続  この例は、前にくる動詞の目的語にあたる名詞句と、後ろにくる 動詞が項関係をもつ場合である。 (7)a. Bo:la ti  Ayo: shubu2.    ボラ  押す アヨ 転ぶ    ボラはアヨを押して転ばせた。 b. O2 je:   ounje: ale:2 ku3.    彼 食べる 食べ物 夜   残る 彼は夕御飯を食べ残した。 c. Mo lo  asho: yii  gbo2.    私 使う 服   この 古くなる 私はこの服を着古した。   d. O2  so:   o:mo: re:3 di  lo:2ya3.    彼 良くする 子供 彼の なる 法律家 彼は自分の子を法律家にした。 2.2 どの名詞句とも項関係をもたない動詞を含む連続  次?合がある。 (8)a. Apeke: fo: asho: re:3   ta2n. アペケは服を洗い終えた。 アペケ 洗う 服  彼女の 終わる   b. * Apeke: ta2n. / * Asho: re:3   ta2n.    アペケ 終わる   服   彼女の 終わる (9)a. O2 je:un  to2.  彼は十分に食べた。     彼 食べる 十分だ b.* O2 to2.    彼 十分だ 2.3 文法要素化している動詞を含む連続  次のfi(使う)、ba2(一緒だ)、da2(一人でする)のような動詞は、 単独で述部をなすことがなく、必ず他の動詞と共起しなければならな い。これらの動詞を前置詞や副詞などの範疇に再解釈することも可能 だが、動詞連続の中に位置づけることによって、動詞連続に現われる 動詞の語順や、動詞から他の範疇への変化を捉えることができるであ ろう。 (10)a. Baba fi  o:ko:2 ro  ile:3.     父  使う くわ  耕す 地面   お父さんはくわで畑を耕した。 b. Jeje  ba2   Aina jo.     ジェジェ 一緒だ アイナ  踊る    ジェジェはアイナと踊った。   c. Mo n2 da2     gbe2   ni2nu2 ile2 yi3i2. 私 pr. 一人でする 住む 〜の中  家  この                  私は一人でこの家に住んでいる。 単独で述部をなさない動詞には他の動詞の後にくるものもあるが、それ は3.2節の(25)の例で見る。 3.動詞連続の意味的分類  2節では、項関係や前置詞句挿入などの統語的な基準による分類を 挙げた。ここでは、動詞の意味を基準に動詞連続に現われ得る動詞に ついて見てみる。ヨルバ語の動詞は動作動詞と状態・変化動詞に分け ることができるが(基準については96年第1回Aflangでの報告参照)、 動詞連続では動作動詞の連続と、状態・変化動詞を含む連続に分ける ことができる。以下にそれぞれの場合について詳しく見よう。 3.1 動作動詞の連続  連続する動詞がどちらも動作動詞であるのは、2節の分類の中で、 1.1の「連続タイプ」、1.2の「修飾タイプ」の中の i)動作者の動作を 表す連続、2.3の「文法要素化している動詞を含む連続」の中でも、 当該の動詞が他の動詞の前に現われる場合である。  連続する動詞がどちらも動作動詞である場合、2つの動詞の意味関 係は「連続的な動作」を表すか「同時的な動作」を表す。しかし、この 区別は明確に2分できるものではない。例えば(5b)で「ひざまづいて 挨拶する」という例は連続的とも同時的ともいえよう。  このように、動作を表す動詞の連続は、文脈や動詞によって連続的あ るいは同時に行われる動作を表すが、どのような動詞の連続も可能な のではない。特に1.1の「連続タイプ」に現われる動詞には次のような動 詞が含まれていなければならない。 (11)移動を表す動詞: a. lo:(行く) wa2/bo:3(くる) de2(着く)      b. wo:3(入る) ja2de(出る)    瞬間的に終結する身体の動作を表す動詞:           jo2ko3o2(座る) du2ro2(立ち止まる)             di3de(立ち上がる) ji2(起きる) 移動を表す動詞のa.は必ず後ろの動詞として現われる。 (12)a. O2 gun ke:ke: lo:  si2 ile2.     彼 乗る 自転車 行く 〜へ  家     彼は自転車に乗って家へ帰った。 b. Wo:2n n2  ti  ke:ke: bo:3. 彼ら  pr. 押す 自転車 来る                 彼らが自転車を押してやって来る。   c. Wo:2n gbe2 Ke:yinde wa2.       彼ら  持つ ケインデ 来る                  彼らはケインデを運んで来た。   d. O2 ti o:ko:3 na2a3 de2 be3be3.     彼 押す 舟  その  着く 岸                  彼はその舟を押して岸に着いた。 移動を表す動詞のb.は前にも後ろにも現われ得る。 (13)a. I3ya2 wo: inu2 ya3ra2 shi2 wi2n2do3.     母  入る 中  部屋  開ける 窓               お母さんは部屋に入って窓を開けた。   b. O2 shi2le:3ku3n wo: inu2 ya3ra2. 彼 戸を開ける  入る 中  部屋               彼は戸を開けて部屋の中へ入った。 (14)a. Wo:2n ja2de wa2 ba3ba2 wo:n. 彼ら  出る  探す 父   彼らの               彼らは出て行ってお父さんを探した。   b. Shi2tu3 gbe2 agbo:3n ishu la2ti  inu2 ya3ra2 ja2de.     シトゥ 持つ かご   ヤムイモ 〜から 中  部屋  出る            シトゥはヤムイモのかごを持って部屋から出た。  瞬?(15)a. A jo2ko3o2 lo2ri2 e:ni2 mu  o:ti2. 私達 座る    〜の上 ござ 飲む 酒              私達はござに座って酒を飲んだ。   b. O2 du2ro2   ni2wa2ju2 i3le:3ku3n gbe2 po:simo:2to3.     彼 立ち止まる 〜の前に ドア   持つ カバン               彼はドアの前に立ち止まってカバンを持った。   c. O2  di3de   pe:3lu2 i3ya2ra-ka2nka2n te:3le2   wo:n. 彼  立ち上がる 共に   急ぎ       ついて行く 彼ら               彼は急いで立ち上がって彼らについて行った。 d. I3ya2 ji2  ni2   aago me:2fa3 se   ounje:     母   起きる 〜に 時間 6   料理する 食べ物 朝               お母さんは6時に起きて朝ご飯を作った。  1.2の「修飾タイプ」では同時に行われると解釈される動作が多いが、 それは前の動詞が後ろの動詞を修飾する、つまり後ろの動作の様態を 前の動詞が表す関係にあることを示している。しかし、この場合も、どの ような動詞でも現われ得るのではない。(3)の例ではまず、2つの他動詞 が目的語を共有するという統語的な基準が満たされなければならないが、 (4)や(5)ではそのような統語的な基準による制約ではなく、動詞間の意味 関係と、動詞の意味が関与する。  動作を表す動詞の連続は、前の動詞が後ろの動詞の動作の様態を表す 関係にあるが、「〜しながら〜する」といった付帯状況を表すような表現は できない。ただし、後ろの動詞が移動を表す動詞の場合には「〜しながら 行く/来る」といった付帯状況的な表現が可能である。この場合、移動を表 す動詞には(11)に挙げた他に次のような動詞が可能である。 (16)  te:3le2(ついていく)、ri3n(歩く)、fo3(飛ぶ)、ko:ja2(通り過ぎる)、      kiri(歩き回る)、pada2(戻る) そこで、(17)のように「踊りながら入る」という連続は可能だが、「踊りな がら歌う」という連続は不可である。 (17)a. O2 jo2  wo: a3a3rin agbo.     彼 踊る 入る 真ん中  輪 彼は踊りながら輪の中に入った。 b.* A   jo2  ko:rin.      私達 踊る 歌う        (私達は踊りながら歌った。) 移動を表す動詞は常に後ろにこなければならない。 (18)a. O2 n2 mu   o:sa3n ri3n.     彼 pr. 飲む ミカン 歩く        彼はミカンを食べながら歩いている。 b.* O2 n2 ri3n  mu   o:sa3n. 彼  pr. 歩く  飲む ミカン 動作動詞の連続は同時に行われる動作の連続ではなく、前の動詞が 後ろの動詞の様態を表すので、前の動詞として次のような身体の動作 を表す動詞が現われることが多い。 (19) ku2nle:3(ひざまづく)、gbe:3re:3(屈む)、do:3ba2le:3(平伏する)、    laju2(目を開ける)、si2ju2(睨みつける)、be:2ju2(こっそり見る)、 nawo:2(手を伸ばす)、nahu3n(声を上げる)、garun(首を伸ばす) (20)a. Baba nawo:2   re2   koboko.     父  手を伸ばす 落とす 鞭                 お父さんは手を伸ばして鞭をとった。 b. Mo laju2    wo3 o2. 私 目を開ける  見る 彼    私は目を開けて彼を見た。  このように「修飾タイプ」の連続は前の動詞が後ろの動詞を修飾する 関係にあるので、統語的には前の動詞が主動詞としての機能を失うこと が観察できる。それが、2.3の「文法要素化している動詞を含む連続」 の例である。文法要素化しているとは、単独で述部をなすことがなく、 他の動詞と共起しなければならない動詞である。文法要素化している動 詞の中でも他の動詞の前に現われる動詞が他の動詞を修飾する機能を 発展させた結果、文法要素化していると見ることができる。(10)の例の他 に、jo:(一緒にする)、yo:3(こっそりする)などがある。これらの動詞は動詞 の判定基準を部分的に満たすが(96年第1回Aflang報告参照)、主動詞 として単独で現われることができない。他の動詞の動作の様態を表す修 飾的な役割を果たすことから、主動詞としての機能が失われるつつあると いえる。  また、前にくる修飾的な役割を果たす動詞がアスペクトを担わない例が 見られる。次の例では文全体を進行相にする時、後ろの動詞に進行相の アスペクトマーカーがつく。 (21)a. Ti2ti2  ku2nle:3 n2 ki2    baba. ティティ ひざまづく  pr. 挨拶する お父さん     ティティは跪いてお父さんに挨拶している。   b. O2 jo2ko3o2 n2 je:   ou2nje: a3a2ro:3.     彼 座る    pr. 食べる 食べ物  朝          彼は座って朝食を食べている。  以上のことから、動作動詞の連続では、前にくる動詞が修飾的な役割 を果たし後ろの動詞の様態を表すが、意味的にも統語的にも文全体とし ての主動詞は後ろの動詞であるといえよう。 3.2 変化動詞を含む連続  ヨルバ語では無標で現在時に解釈される動詞は状態を表す動詞と考えら れるが、状態を表す動詞はその状態に至るまでの変化を表すこともできる。 そこで、状態を表す動詞と変化を表す動詞をここではまとめて変化動詞と 呼ぶ。ここでは連続する動詞のうち、どちらか一方あるいは両方の動詞が 変化動詞である場合をみる。  動詞連続で変化動詞が含まれている場合、後ろの動詞が必ず変化動詞で ある。前の動詞は動作動詞である場合と変化動詞の場合とがある。どちら の場合にしても、動詞連続文全体では、前の動詞と後ろの動詞が連続的に 起こる事象を表す。 2節では後ろの動詞が主語の名詞句と項関係を持つか持たないかという 違いによって(6)と(7)の2つに分けた。1つずつ例を挙げる。 (6)b. O:mo: na2a3 yo:3 shubu2.    子供 その  滑る 転ぶ    その子は滑って転んだ。 (7)a. Bo:la ti  Ayo: shubu2.    ボラ  押す アヨ 転ぶ    ボラはアヨを押して転ばせた。 (7)では後ろの動詞は主語の名詞句ではなく、前の動詞の目的語にあたる 名詞句とのみ項関係を持つ。しかし、それは統語的に決定されるというよ りは、動詞のとる名詞の意味素性や語用論的な要因によると考えられる。 (7a)のshubu2(転ぶ)は主語のボラの変化という解釈もあり得るが、実際、 ボラがアヨを押せばボラではなくアヨが転ぶという解釈の方が自然である。 (7a)と同じように前の動詞が目的語をとる次の例では後ろの動詞は目的語 の変化とは解釈されない。 (6)a. Olu2 mu o:ti2 yo2.     オル 飲む 酒 酔う    オルは酒を飲んで酔った。 これは、yo2(酔う)が「人」を項にとるので、「酒」の変化とは解釈されない のだといえる。  次の例に現われる変化動詞は目的語にあたる名詞句の変化に解釈される。 目的語の後にくる変化動詞は目的語の変化を表すのが普通である。 (7)b. O2 je:   ounje: ale:2 ku3.    彼 食べる 食べ物 夜   残る 彼は夕御飯を食べ残した。 c. Mo lo  asho: yii  gbo2.    私 使う 服   この 古くなる 私はこの服を着古した。   d. O2  so:   o:mo: re:3 di  lo:2ya3.    彼 良くする 子供 彼の なる 法律家                      彼は自分の子を法律家にした。  変化動詞を含む連続では後ろの動詞は前の動詞に引き続いて起こる変化を 表しており、動詞連続全体も変化を表す。それはこれらの動詞連続を進行形 にすることができないことからもわかる。 (6)a'.* Olu2 n2 mu o:ti2 yo2.     オル pr 飲む 酒  酔う   (オルは酒を飲んで酔いつつある) (7)b'.* O2 n2 je:   ounje: ale:2 ku3.     彼 pr 食べる 食べ物 夜   残る                     (彼は夕御飯を食べ残しつつある) 上の例はいずれも、前の動詞が進行形の可能な動作動詞であるが、動詞連続 全体では進行相が可能ではない。つまり、これらの動詞連続では後ろの動詞 の変化動詞が全体のアスペクトを決定しているといえる。  後ろの動詞が変化動詞であるが、進行相の可能な動詞連続の例がある。 (22)a. O2 n2 bu   omi ku2n i3ko3ko3. 彼 pr 汲む 水  一杯だ つぼ               彼はつぼに水を入れて一杯にしつつある。   b. I3ya2 mi n2 ko2 igi ida2na2 jo:. 母   私の pr 集める  薪  集まる                 私のお母さんは薪を集めている。 c. O2 n2 di2n  owo2 mi   ku3. 彼 pr 減らす お金 私の 残る                 彼は私のお金を減らしている。 (22)に現われる変化動詞は進行形にすることはできない。(22)の進行 相は、前に現われている動作動詞のアスペクトを表している。つまり (6)や(7)では、後ろの変化動詞が全体のアスペクトを決定していたのに 対して、(22)では前の動詞が全体のアスペクトを決定しているといえる。  (22)のように進行相が可能なのは、変化動詞が主動詞としての機能を 減じているためだと考えられる。(22b)のjo:(集まる)はすでに単独では現 われない動詞になっている。つまり必ず他の動詞と共起しなければなら ない。また(22c)は、di2n ku3で「減らす」という意味になり、di2n(減らす) は必ずku3を伴いイディオムのようになっている。  (22a)のku2n(一杯だ)は単独で現われることのできる動詞である。 (23)a. Omi ku2n i3ko3ko3.   水がつぼに満ちている。     水  一杯だ つぼ b. I3ko3ko3 ku2n  fu2n omi.  つぼは水で一杯だ。 つぼ   一杯だ 〜で 水 (23)の各文を進行形にすることはできない。ku2n と同じような例に rin(潤う)がある。 (24)a. A3wo:n a3gbe:3  n2 bu omi rin oko wo:n. 〜達  農夫   pr 汲む 水  潤う 畑  彼らの           農夫達が彼らの畑を灌漑している。   b. ? Omi rin oko wo:n. 水  潤う 畑  彼らの   (水が彼らの畑を潤している。)   c. ? Oko wo:n  rin fu2n omi. 畑  彼らの 潤う 〜で 水  (彼らの畑は水で潤っている。) rin(潤う)は普通、単独では用いられない。むしろ「灌漑する」という 動作を表すときに用いられる。このように(22a)や(24a)の連続は、全体と して変化を表すというより動作を表す連続と見ることができるのではない だろうか。  このようにしてみると、2.3でみた文法要素化している動詞のうち、後ろ に現われる動詞のいくつかは、もともと主動詞として使われた変化動詞から、 主動詞としての機能が減じたものであると考えることができる。次の例の後 ろの動詞がそれぞれ文法要素化している動詞である。 (25)a. Ojo  jo2ko3o2 le2  garawa.     オジョ 座る  上に バケツ  オジョはバケツの上に座っている。   b. O2 fa a3po3ti2 re:3 mo:2   ara. 彼 引く カバン 彼の 〜の方へ 体                彼はカバンを自分の方へ引いた。   c. A3la3ba2 tu2 e3so na2a3 nu3. アラバ  吐く 果物 その  なくなる                アラバはその果物を吐き出した。 (25a)の le2は「優っている」という意味の動詞から、(25b)のmo:2は 「ひっつく」という意味の動詞から主動詞としての機能が減じ、他の動詞 と共起して前置詞のような機能を担っている(これらの意味で主動詞とし て使われることもある)。(25c)のnu3(なくなる)も単独で用いることが できない。「お金がなくなった。」という場合には、so:(投げる/投げられ る)と共起して次のように表す。 (26)a. Owo2 re:3 so: nu3. お金 彼の なくなる    彼のお金がなくなった。   b. O2  so:   owo2 nu3. 彼 (投げる) お金 なくなる  彼はお金をなくした。  このように変化動詞を含む連続では後ろの動詞の文法要素化をみること ができる。  移動を表す動詞が後ろにくる場合、変化動詞と同じように前の動詞の 目的語の動作として解釈されることがある。次の例は、後ろの動詞が目 的語の動作に解釈される例である。 (27)a. Aja  le2  ole3 lo:.    犬が泥棒を追い払った。    犬  追う 泥棒 行く b. Afe:2fe:2 gbe2 i3we2 naa fo3. 風がその紙を飛ばした。  風     持つ 紙   その 飛ぶ (27)のlo:(行く)やfo3(飛ぶ)は文脈によっては主語の動作を表すこと もできる。 (28)a. Mo gbe2 o:mo: naa lo:.     私 持つ 子供  その 行く              私はその子供を連れて行った。   b. E:ye: gbe2 i3we2 naa fo3.     鳥   持つ 紙  その 飛ぶ              鳥がその紙をくわえて飛んだ。  次の(29a,b)のja2de(出る)やpada2(戻る)は目的語の動作に解釈される のが普通であり、(29c) のdi3de(立ち上がる)は目的語の動作にしか解釈 されない。 (29)a. Taye gbe2 epo   ja2de. タイエ  持つ  ヤシ油  出る タイエはヤシ油を取り出した。 b. Da3da2 mu2 a3do2 re:3 pada3.  ダダ つかむ 小瓢箪 彼の  戻る  ダダは小瓢箪を取り戻した。   c. O2 gbe2  Ke:yinde di3de. 彼 持つ  ケインデ 立ち上がる 彼はケインデを起こした。 (29c)は「彼がケインデを抱いて立ち上がった。」という事象を表すことは できない。その場合は O2 di3de gbe2 Ke:yinde. のように表すか、複文 にしなければならない。  このように見ると、移動を表す動詞やdi3deのような身体の動きを表す 動詞は変化動詞と同じような生起の仕方をしているように見える。ただし、 変化動詞の場合と異なり、移動を表す動詞は進行相が可能であり、動詞連 続全体を進行形にすることができる。 4.まとめ  動詞連続では連続する動詞が同じように主動詞としての機能を果たすので はなく、そこに不均衡が見られる。それが動詞から文法化への過程をたどる ことになる。Lord(1993)ではどのような動詞がどのような文法要素へと変化 しているかを通言語的に調べている。ヨルバ語の動詞連続を詳細に検討する ことによって、その変化がなぜ起こるのか、どのようaノ起こる? ここでは、 その一端として、動詞連続を統語的に分類し、さらに動詞の意 味分類に基づいて、可能な連続を明らかにした。動詞の意味分類に基づくと、 動作動詞の連続と変化動詞を含む連続に分けることができる。動作動詞の 連続では、前にくる動詞が後ろの動詞を修飾するという意味関係になる。そ のことが文法要素化の起因ともいえる。  変化動詞を含む連続は、おそらく動作動詞の連続より多様で、ここではす べてを検証し尽くせていない。両方の動詞が主語と項関係をもっている場合 は、二つの事象が連続して起こる関係になり、後ろの変化動詞のアスペクト が動詞連続文全体のアスペクトを決定している。後ろの変化動詞が主語と項 関係にない場合、変化動詞が文法要素化する例が見られる。どのような場合 に文法要素化していくのかをさらに調べる必要がある。  それは、動詞連続での主動詞がどちらであるのかを決定する要素を調べる ことでもある。今回はアスペクトの点に注目したが、一つの要素で決定され るものではないだろう。また、決定要素を一つの動詞がすべて満たすもので はなく、例えば「項関係はこちらの動詞、アスペクトはこちらの動詞」とい うような分担がなされていると考えれらる。次回ではこれらの点について、 さらに検討していきたい。 * インフォーマントは大阪外大助教授のアフォラビ・オラボデ氏。   ナイジェリア、イバダン出身で、標準ヨルバ語のもとになっている   オヨ方言話者。 <参考文献> Bamgboshe, A. (1972) "What is a verb in Yoruba?", in Bamgboshe(ed.)        The Yoruba Verb Phrase, pp.27-60. Ibadan Univ. Press. --------  (1985) "Negation and Serial Verbal Construction Types         in Yoruba", in Dimmendall,G.(ed.) Current approaches to         African Linguistics vol.3, Foris Publications, pp.31-40. Lord, c. (1993) Historical Change in Serial Verb Constuctions, John Benjamins Publishing Company. Sebba, M. (1987) The Syntax of Serial Verbs, John Benjamins Publishing Company.