グイ語・ガナ語における「動機のない」口蓋化                  中川 裕 (nihirosi@aa.tufs.ac.jp) 中部コイサン語族の下位語群をなすグイ語とガナ語は、コイサン 諸語全体のなかでユニークな非クリック閉鎖音体系を有する: 歯茎・硬口蓋・軟口蓋・口蓋垂の位置で、有声音・無声音・有気 音・放出音が網羅的に対立するのである.これはグイ語とガナ語 において一連の歯茎閉鎖音(d t th t')が硬口蓋閉鎖音 (gy c ch c')に変化する口蓋化の過程にあるためであることが、 グイ語、ガナ語および隣接の中部コイサン語であるナロ語の比 較研究によって明らかになった.また、この口蓋化の程度はガナ 語よりもグイ語のほうが進んでいることが分かった. この口蓋化は、従来の慣習的な口蓋化の見方からすると「音声的 な動機がない」ように見えること、またさらに、変化の目指す方 向が類型論的に奇妙であることを指摘し、これらに対する説明の ための指針を示唆した. (仮報・続便にて詳報掲載)