ヨルバ語の動詞連続                小森 淳子                komori@idc.minpaku.ac.jp 1.はじめに  動詞連続とは、1つの文や節の中で複数の動詞が形態変化や接続詞な どを伴わずに並ぶ現象を指す。動詞連続はクワ諸語をはじめとする西ア フリカの諸言語や中国語、タイ語などの東南アジアの諸言語、クレオー ルの諸語など言語の系統を越えて広く見られる現象である。動詞連続が 見られるのは孤立語タイプの言語が多く、動詞連続はその言語の文法構 造にとって中心的な役割を果たす。ここではヨルバ語の動詞連続の特徴 を明らかにするために、特に動詞の意味的特徴に基づく分析を試みる。  なおここでは、ヨルバ語の低音調を[3]、高音調を[2]と記す。中音調 はノーマークとしている。また、開いた[o]と開いた[e](ヨルバ語慣用 表記では、下点付きoとe)はそれぞれ[o:]と[e:]で表す。 2.ヨルバ語動詞連続の統語構造  ヨルバ語にはさまざまな動詞の連続が見られるが、次の(1)と(2)は基 本的な構造が異なると考えられる。 (1)a. Mo fe:2   lo:  si2  Naijiria.私はナイジェリアへ行きたい。    私 欲する 行く to b. O:ti2 yii  to2   mu.  この酒は飲むのに十分だ。    酒   この 十分だ 飲む c. Ile:3 yii  ya2   ro. この土地は耕しやすい。 土地  この 簡単だ 耕す (2)a. Mo gbe2 a3ga lo: si2 iyara.    私 持つ いす 行く to  部屋       私は部屋へいすを持っていった。 b. Wo:2n pada3 wa2 gbe2 baba lo: si2be:3.    彼ら  戻る  来る 持つ 父  行く そこへ       彼らは戻ってきてお父さんをそこへ運んで行った。 c. Awodi pa   o:mo: adie: je:. トビ  殺す 子供  ニワトリ  食べる       トビはニワトリの子供を殺して食べた。 ここで動詞連続として問題にするのは(2)のような例についてである。 (1)においては補文構造が仮定できるが、(2)においては、基底に複数の 文を仮定する構造(Stahlke 1970 他)と、複数の動詞句からなる構造 (Schachter 1974 他)が仮定されてきた。  複数の文を基底で仮定する考え方は、動詞連続文から意味を同じくす る複数の文への言い換えが可能なことが根拠となる。例えば(2a)は次の ような複数の文が基底にあると考えるのである。 (3) Mo gbe2 a3ga.   私はいすを持った。 Mo lo: si2 iyara. 私は部屋へ行った。 しかし、このような複数の文を仮定する考えは、 (a)複数の文と動詞連続文の意味が必ずしも同じではない、 (b)どの文の時制・相も同じでなければない、 (c)どのような文の組み合わせも可能なのではない、 といった理由により退けられている。  そこで、動詞連続の統語構造として複数の動詞句、あるいは複数の動 詞からなる動詞句を仮定する考え方が一般的になりつつある。これまで に他の言語もあわせて、動詞連続の構造について様々なトゥリーが提案 されているが、いずれにしても、どのような動詞の連続が可能なのかと いう問題は、構造ではなく、動詞のとる項と動詞自体の意味が関与する と考えられる。 3.動詞連続にあらわれる動詞  ここでは動詞連続に現れる動詞がどのような特徴をもつのか、主に統 語的観点から見る(ここでは2つの動詞からなる動詞連続を見る。便宜 上、前に現れる方の動詞をV1、後ろの動詞をV2と呼ぶ)。 3.1. 他動詞と自動詞  ここでは厳密な定義をせず、「対象(theme)」を目的語にとる動詞を他 動詞とすると、複数の他動詞が動詞連続にあらわれる時には次のような 特徴がみられる。 (4) 複数の他動詞が連続する場合、一つの目的語を共有する。 共有されている目的語は二つの他動詞の間にくる。以下のような例である。 (5)a. Ade2  se    e:ran je:.    アデは肉を料理して食べた。    アデ 料理する 肉   食べる   b. Erin  te:  o:3ta2  pa.  象は敵を踏み殺した。    象   踏む 敵    殺す  c. A   pi2n  owo2 ounje: san. 私達は食事代を割り勘にした。   私達 分ける お金 食べ物 払う d. A3la3ba2 shi2  igba2 naa wo3. アラバはその瓢箪を開けて見た。    アラバ  開ける 瓢箪  その 見る e. Mo  wa  gaari  mu.      私はガーリをすくって飲んだ。 私 すくう ガーリ 飲む f. O2 fa  waya ja2. 彼はワイヤーを引きちぎった。    彼 引く ワイヤー ちぎる 次の例のようにそれぞれに異なる目的語をとる他動詞の連続は許されない。 (6)a.* O2 je:    ounje: ale:2 mu   o:ti2. 彼 食べる  食べ物 夜   飲む 酒        (彼は夕食を食べて酒を飲んだ。) b.* Baba ra  o:ko:2 ro   ile:3.    父  買う くわ  耕す 土地        (お父さんはくわを買って畑を耕した。) c.* O2 gun  igi ri2 e:ye: kan.     彼 登る 木  見る 鳥   ある       (彼は木に登って一匹の鳥を見た。)  一方、他動詞と自動詞の連続、あるいは複数の自動詞の連続は、複数 の他動詞の連続とは異なり、自由にあらわれるように見える。これらの 動詞連続にはさまざま例がみられるが、まず、全ての動詞がその動詞連 続文の主語と項関係をもつ場合と、もたない動詞がある場合に分けるこ とができる。次の(7)はすべての動詞が文頭にある主語と項関係をもって いる例である。 (7)a. Ke:yinde di3de    jo2ko3o2. ケインデは起き上がって座った。    ケインデ 起き上がる 座る b. Alade pada3 wa2.        アラデは戻ってきた。 アラデ 戻る 来る   c. O2  gbe2 o:mo: adie: fo3. それは鶏の雛をくわえて飛んだ。    それ 持つ 子  鶏 飛ぶ d. O2 lo:  ku2ro3 nibe: wo:nu2 iyara kan lo:.    彼 行く 離れる そこ  入る  部屋  ある 行く            彼はそこを離れて行ってある部屋へ入って行った。 e. O2 gu2n ke:ke: lo:  si2  ile2.    彼 乗る 自転車 行く 〜へ 家                   彼は自転車に乗って家に帰った。 f. E:    sa2re2 lo:  bu  omi. 急いで水を汲みに行って。    あなた達 走る  行く 汲む 水 これらの例は、(3)のように主語とそれぞれの動詞(句)からなる複数の 文を単純に作ることができるので、基底の複数の文から派生されるとい う仮定が成り立ちやすい。  次の(8)の例は主語と項関係をもっていない動詞が含まれる例である。 (8)a. Bo:la ti  Ayo: shubu2.   ボラはアヨを押して転ばせた。    ボラ  押す アヨ 転ぶ b. O2 je:   ounje: ale:2 ku3. 彼は夕御飯を食べ残した。    彼 食べる 食べ物 夜   残る c. Mo lo  asho: yii  gbo2. 私はこの服を着古した。    私 使う 服   この 古くなる d. Aja  le2  ole3 lo:.      犬が泥棒を追い払った。    犬  追う 泥棒 行く   e. Wo:n fa  Ke:yinde di3de. 彼らはケインデを引き起こした。 彼ら 引く ケインデ 起き上がる f. Baale: pe   awo:n o:kunrin abule jo:.    村長  呼ぶ 達   男    村  集まる                     村長は村の男達を呼び集めた。  g. Iya yan   e:ja naa  gbe:.    母  あぶる 魚  その 乾く                 お母さんはその魚をあぶって乾燥させた。 これらの例はV2が主語と項関係をもっていない。V2はそれぞれ直前 の名詞句とのみ項関係をもっている。複数の文に分けるとすると、次の ようになるだろう。 (8a)' Bo:la ti  Ayo:.  ボラがアヨを押した。    ボラ  押す アヨ    Ayo: shubu2.     アヨが転んだ。    アヨ 転ぶ これらの例も(7)と同じく基底の複数の文からの派生と仮定することも可 能である。しかし次のように複数の文に分けることのできない例がある。 (9)a. Apeke: fo: asho: re:3   ta2n. アペケは服を洗い終えた。 アペケ 洗う 服  彼女の 終わる b. Apeke: fo: asho: re:3.  アペケは服を洗った。    アペケ 洗う 服  彼女の   * Apeke: ta2n. / * Asho: re:3   ta2n.    アペケ 終わる  服   彼女の 終わる (10)a. O2 je:un  to2.  彼は十分に食べた。     彼 食べる 十分だ b. O2 je:un. 彼は食べた。 / * O2 to2.     彼 食べる   彼 十分だ (11)a. Ere2 re:3 maa n2 pariwo ju3. 彼の演奏はいつもうるさすぎる。     演奏 彼の (習慣) 騒ぐ  過ぎる b. Ere2 re:3 maa n2 pariwo.  彼の演奏はいつもうるさい。     演奏 彼の (習慣) 騒ぐ    * Ere2 re:3 maa n2 ju3.     演奏 彼の (習慣) 過ぎる (9)〜(11)の動詞連続の文は、それぞれ b.のような複数の文を仮定する ことができないので、複数の文からの派生と考えることはできない。  以上、他動詞・自動詞という基準から見ると、  (a) 複数の他動詞は一つの目的語を間に挟んで連続する。  (b) 他動詞と自動詞、自動詞と自動詞は自由に連続するように見える。  (c) 主語と項関係をもたない動詞は、V2で自動詞である。またこの    自動詞は主語以外の名詞句と項関係をもっている場合ともってい    ない場合がある。 といった大まかな特徴が見える。 3.2 自動詞 3.2.1 自動詞の再分類  3.1では他動詞、自動詞の基準で大雑把な分類を見たが、ここでは自動詞 についての分類をもう一度見直す。  次のような自動詞が含まれる動詞連続は不可である。 (12)a.* A   mu  o:ti2 jo2.     私達 飲む 酒   踊る (私達は酒を飲んで踊った。)   b.* Wo:2n  je:un roko.   彼ら  食べる 耕す  (彼らは食事をして畑を耕した。)   c.* A   jo2  ko:rin.     私達 踊る 歌う    (私達は踊って歌った。) (12)は複数の文を用いることによってのみ表現することができる。 (12a)' A  mu  o:ti2, a  si3   jo2 私達 飲む 酒   私達 そして 踊る                 私達は酒を飲んで踊った。 (12)のような動詞連続が許されないのは、それぞれの自動詞が行為者の動 作を表す動詞だからと考えられる。別々の目的語をとる複数の他動詞の連 続が許されない例(6)も、別個の動作を表す動詞の連続が許されないためだ といえる。  動詞連続が許される自動詞は、行為者の動作を表す動詞の中でも、動作の 結果生じた状態を含む動詞、移動を表す動詞、という特徴がみられる。また、 変化を表す動詞、状態を表す動詞も動詞連続にあらわれる。以上をまとめて 自動詞を分類すると、次のようになる。 (13)a. 行為者の動作を表す動詞     i) 行為を表す動詞        jo2 踊る  ko:rin 歌う  roko 耕す  je:un 食べる     ii) 動作の結果生じた状態を含む動詞        jo2ko3o2 座る  di3de 立ち上がる  ji2 目覚める    iii) 移動を表す動詞        lo: 行く  bo:3 来る  ri3n 歩く  te:3le2 ついて行く        fo2 飛ぶ  ja2de 出る  pada3 戻る   b. 状態を表す動詞        gbe: 乾いている  gbo2 古い  ro:3 柔らかい        ho2 沸騰している  gbo2na2 温かい   c. 変化を表す動詞        shubu2 転ぶ  ku3 残る  jo: 集まる  ta2n 終わる        de2 到着する  ku2 死ぬ (13)の3つの分類は[状態性]と[動作性]の2つの素性の組み合わせによっ て特徴づけることができる。状態性は、動詞が基本形で現れた時に「現在」 に解釈されるか「過去」に解釈されるかの違いによって分けられ、動作性 は動詞を進行形にした時に現在の持続的な動作と解釈されるかどうかによ って分けられる。この素性を用いて分類すると以下のようになる。 (14)         状態性     動作性   a.動作動詞     −       + b.状態動詞     +       − c.変化動詞     −       −  動詞連続の現われ方を分析するには、a.の動作動詞をさらに分類しなけ ればならない。次に動作動詞について詳しく見てみよう。 3.2.2 動作動詞  ヨルバ語では過去時制のマーカーがないので、文脈がなければ普通、動作 を表す動詞は過去に、状態を表す動詞は現在に解釈される。 (15)a. Obinrin kan  jo2.   ある女が踊った。(過去)     女   ある 踊る b. O:mo: naa lo: si2  ile-e:ko:. その子供は学校へ行った。     子供 その 行く 〜へ 学校             (過去) c. E:ja naa gbe:.  その魚は乾燥している。(現在)     魚  その 乾いている   d. Asho: yii gbo2.  この服は古い。(現在)     服  この 古い ところが、ii)の動作の結果生じた状態を含む動詞は他の動作動詞と異なり、 過去の動作にも現在の状態にも解釈可能である。 (16)a. O:mo: naa jo2ko3o2.     その子供は座った。     子供  その 座る       その子供は座っている。   b. O:mo: naa di3de.       その子供は立ち上がった。     子供 その 立ち上がる    その子供は立っている。 つまりこれらの動詞は、[+状態]という素性を持つといえる。  動作動詞は進行形にして現在の持続的な動作を表すことができるが、 変化動詞や状態動詞ではできない。 (17)a. Obinrin kan   n2   jo2.  ある女が踊っている。     女   ある (進行) 踊る   b. O:mo: naa n2 lo: si2  ile-e:ko:.     子供 その (進行) 行く 〜へ 学校                  その子は学校へ行っているところだ。   c. * O:mo: naa n2   shubu2.      子供  その (進行)  転ぶ   d. * Asho: yii n2   gbo2.      服  この  (進行)  古い ii)の動詞ではその動作の完了に向かうまでの動作を捉えて進行形で表 すことは可能である。 (18)a. O2  n2  jo2ko3o2.   彼は座りつつある。     彼  (進行)  座る   b. O2 n2 di3de.    彼は立ち上がりつつある。     彼 (進行)  立ち上がる  動作動詞の中で、動詞連続に現れるのに制約があるのは、i)の行為を表 す動詞である。これらの動詞は、それ同士あるいは他動詞と自由に共起す ることができない。ii)とiii)の動詞にはそのような制約が見られず、自由 に共起するように見える。ii)は[+状態]という素性によって、i)から区別 できる。iii)の移動を表す動詞は2つの素性の点ではi)と区別されない。 「移動」という動詞の意味が動詞連続への現われ方を異なるものにしていると 考えられる。 3.2.3 動作動詞の動詞連続  i)の行為を表す動詞以外の動作動詞はそれ同士、あるいは他の動詞と連 続することができる。動詞の連続する順番は基本的には実際の動作が起こ った順に相当するが、同時に起こっている付随的な動作の連続には動詞の 分類に基づいた順序がある。移動動詞を含む連続を見てみよう。  移動に伴って行われる動作、あるいは移動の様態を表す動詞はV1とし て移動動詞の前に現れる。 (19)a. O2 gun ke:ke: lo:  si2 ile2.     彼 乗る 自転車 行く 〜へ  家                     彼は自転車に乗って家へ帰った。   b. Oyin fo3 lo: ni2wa2ju2.       ハチ 飛ぶ 行く 先に ハチは先に飛んでいった。   c. Wo:2n gbe2 Ke:yinde lo:.       彼ら  持つ ケインデ 行く 彼らはケインデを運んで行った。 d. Wo:2n n2   ti  ke:ke:  bo:3. 彼ら (進行) 押す 自転車  来る                   彼らが自転車を押してやって来る。  ri3n「歩く」を移動動詞として分類したのは、他の動作動詞と共起できる からである。その場合、他の動作動詞は歩く動作と共に行われる付随的な 様態を表すので必ずV1として現れる。逆にri3nがV1にくると、付随 的な動作でも不可である。 (20)a. O2  n2   mu   o:sa3n ri3n.     彼 (進行) 飲む ミカン 歩く                彼はミカンを食べながら歩いている。   b. * O2   n2    ri3n mu  o:sa3n. 彼 (進行) 歩く 飲む ミカン (21)a. O:mo: naa   n2   sunku2n ri3n.     子供 その (進行) 泣く   歩く その子供は泣きながら歩いている。   b. * O:mo: naa  n2    ri3n sunku2n.     子供  その (進行) 歩く 泣く ri3n「歩く」は他の移動動詞と共起してその移動の様態を表すこともでき る。その場合、ri3nはV1として現れる。 (22)a. O:mo: ala2ka3n ri3n ja2de la2ti  ibe:3. 子供  カニ   歩く 出る 〜から そこ              カニの子供がそこから歩いて出てきた。   b. Wo:2n ri3n te:3le2 e.     彼ら 歩く 従う  彼女  彼らは歩いて彼女についていった。  lo:「行く」、wa2「来る」がV1にくる場合のみ、V2がV1の動作の 目的に解釈されることも可能である。 (23)a. Mo lo: ki2    i. 私 行く 挨拶する 彼    私は彼に挨拶をしに行った。   b. O2 wa2 ra  ishu.     彼 来る 買う ヤム     彼はヤムイモを買いに来た。 V2が目的に解釈されるのは次のような表現が可能なことからも分かる。 (23a)' Mo lo: ki2  i, shugbo:n ko3 wa3.     私 行く 挨拶する 彼 しかし  (否定) いる             私は彼に挨拶に行ったが、彼はいなかった。 V1が「行く、来る」を表す動詞である場合に限りV2が目的に解釈され るという現象は、系統の異なる言語の動詞連続にも見られる(Sebba 1987: スラナン語、加藤 1993:スゴー・カレン語)。   次に他動詞+目的語+動作動詞の連続における意味解釈について見てみ よう。他動詞+目的語の後にV2としてii)の動詞がくる場合、V2は主 語の名詞句ではなく目的語の名詞句の動作として解釈される。 (24)  Wo:n fa  Ke:yinde di3de. (8e) 彼らはケインデを引き起こした。 彼ら 引く ケインデ 立ち上がる (24)で立ち上がったのはケインデでしかない。また、「彼は鍵をつかんで立 ち上がった。」という状況を動詞連続で表現すると次の(25a)のようになり、 (25b)のようにはならない。 (25)a. O2 di3de    mu2   ko:2ko:2ro:2. 彼 立ち上がる  つかむ  鍵 b. * O2 mu2  ko:2ko:2ro:2 di3de.      彼 つかむ  鍵     立ち上がる 実際には鍵をつかむ動作が立ち上がる動作に先行していたとしても、(25b) の表現が可能ではないのは、(25b)のV2が目的語の名詞句の動作と解釈さ れるからである。つまり、(25b)をあえて解釈すると「彼は鍵をつかんで、 それを立てた。」という意味になるのである。  移動動詞が他動詞+目的語の後にV2として続く場合、V2は主語の名詞 句にも目的語の名詞句にも解釈可能である。 (26)a. Mo gbe2 o:mo: naa lo:.  私はその子供を連れて行った。     私 持つ 子供  その 行く b. Aja  le2  ole3 lo:. (8d)  犬が泥棒を追い払った。     犬  追う 泥棒 行く (26a)のV2は主語の名詞句である「私」の動作であり、(26b)のV2は目的語 の「泥棒」の動作である。次の例もV2は主語にも目的語にも解釈されるこ とを示している。 (27)a. Afe:2fe:2 gbe2 i3we2 naa fo3. 風がその紙を飛ばした。  風    持つ 紙   その 飛ぶ b. E:ye: gbe2 i3we2 naa fo3.  鳥がその紙をくわえて飛んだ。     鳥  持つ  紙  その 飛ぶ (27a)のfo3「飛ぶ」は目的語の方に、(27b)は主語の方に解釈される。 3.2.4 状態動詞  状態動詞を他から分ける基準は、基本形で現れたときに現在時に解釈され 得るというものである。その他に、動名詞形にした時に必須項である名詞がそ れと共起できるかどうかというテストがある。動名詞形は動詞接頭辞(語頭の 子音+高トーンの母音i)を付加して作る。例えば目的語をとる他動詞を動名 詞形にした場合、目的語の名詞を伴って次のような形になる。それぞれ下の段 が目的語の名詞を伴った動名詞形である。 (28)a. O2 je:   ou2nje:.    彼は食べ物を食べた。     彼 食べる  食べ物    ou2nje: ji2je:     食べ物を食べること   b. O2 mu  bi2a3.     彼はビールを飲んだ。     彼 飲む ビール     bi2a3 mi2mu    ビールを飲むこと   c. O2 fo: asho:.   彼は服を洗った。     彼 洗う 服     asho: fi2fo:3    服を洗うこと 状態動詞も必須項を伴って同じような動名詞形を作ることができる。 (29)a. E:ja naa gbe:.  その魚は乾燥している。     魚  その 乾いている     e:ja gbi2gbe:  乾燥したさかな   b. Asho: yii gbo2.  この服は古い。     服  この 古い     asho gbi2gbo2  古い服(ぼろ服)   c. Raisi yii   ro:3.  このご飯は柔らかい。     ご飯 この  柔らかい raisi ri2ro:3  柔らかいご飯 動作動詞ではこのような動名詞形を作ることができない。 (30)a. Obinrin kan  jo2.   ある女が踊った。     女   ある 踊る    * obinrin ji2jo2  (踊っている女)   b. O:mo: naa shubu2.  その子供は転んだ。     子供  その 転ぶ * o:mo: shi2shubu2 (転んだ子供)   c. O:mo: naa jo2ko3o2.  その子供は座っている。    子供  その 座る    * o:mo: ji2jo2ko3o2  (座っている子供)   d. O:mo: naa lo: si2  ile-e:ko:. その子供は学校へ行った。     子供 その 行く 〜へ 学校    * o:mo: li2lo: si2 ile-e:ko: (学校へ行く子供) 必須項の名詞を伴う動名詞形が、(28)の他動詞と(29)の状態動詞にのみ可 能なのは、動名詞形に伴う名詞の意味役割に関係していると考えられる。 つまり、他動詞の目的語である名詞句も、状態動詞の主語にあたる唯一の 必須項も同じ「対象(theme)」という意味役割を担っていると考えると、 それぞれその名詞を伴って動名詞形が作られるということに説明がつく。 状態動詞がthemeを必須項にとると考えると、次のような動詞連続の意味 解釈の説明も可能になる。つまり、他動詞+目的語+状態動詞という動詞 連続において、状態動詞は常に目的語の名詞句の状態をあらわすように解 釈されることの説明である。 (31)a. Mo lo  asho: yii  gbo2. (8c) 私はこの服を着古した。     私 使う 服   この 古い b. Iya yan   e:ja naa  gbe:. (8g)     母  あぶる 魚  その 乾いている  母はその魚をあぶって乾燥させた。 c. Iya se   raisi ro:3.     母  料理する ご飯  柔らかい  母はご飯を柔らかく炊いた。   d. O2  se     omi ho2.     彼女 料理する 水  沸騰している    彼女は水を沸かした。   e. O2 gbe2 o:be:3 gbo2na2.     彼女 取る  シチュー 温かい   彼女はシチューを温めた。 (31)の例ではV2の状態動詞は他動詞の目的語である名詞句の状態を示し ている。状態動詞の必須項がthemeの意味役割を担うものだとすると、こ の解釈の説明がつくであろう。 3.3 修飾的な動詞  動詞連続にどのような動詞が現れるかは、上に見たように動詞自身の 意味によって決まるが、それ以外に他の動詞を修飾するような動詞も現 れる。修飾的な動詞というのはそれ自身の意味ではなく、他の動詞との 関係において、それが修飾的な意味を担っていると考えられる例である。 このような修飾的な動詞は、統語的にも次に挙げるような特徴が見られ る。順に見ていこう。 3.3.1 単独で述部をなさない動詞  単独で述部をなさない動詞とは、文なり節なりの唯一の動詞として機能 することのできない動詞をさす。下の例の fi, ba2, ti は動詞連続文に のみあらわれ、単独で文の主動詞になることはない。 (32)a.Baba fi  o:ko:2 ro  ile:3. お父さんはくわで畑を耕した。    父  使う くわ  耕す 地面   b.* Baba fi   o:ko:2.     父  使う くわ (33)a.Jeje  ba2  Aina jo. ジェジェはアイナと踊った。    ジェジェ 共に アイナ  踊る b.* Jeje  ba2  Aina.     ジェジェ 共に アイナ (34)a.O2 ti   o:ja3 Dugbe: de2. 彼がドゥベ市場からやってきた。    彼 〜から 市場  ドゥベ 来る b.* O2 ti   o:ja3 Dugbe:.     彼 〜から 市場  ドゥベ そもそも、これらの語が動詞といえるのかという点が問題であるが、   (a)子音+母音の1音節というヨルバ語動詞の基本的な形態である、   (b)進行や完了などを表すアスペクトマーカーがつく、 などの特徴から動詞として分類することは可能である。さらに(32)(33) の fi, ba2 は、   (c)強調構文で、動名詞形にして前置することができる、 という特徴も示す。これらは動詞がもつ特徴であり、(32)(33)の fi, ba2 の方が(34)の ti より動詞としての特徴をより多くもつと言えるだろう。  Bamgboshe(1972)は、ヨルバ語動詞の認定基準として、# NP__(NP) #では なく、# NP__(NP)(__(NP)) # という環境に生起するものを動詞とすると 結論づけている。つまり、単独で述部をなすものだけでなく、他の動詞と 共起しなければならないような語も含めるのである。もちろん後者の広い 基準では副詞や助動詞なども含まれてしまうが、それらはさらに上に見た ようなテストで、動詞としての特徴がどのくらいみられるかをはかること ができる。  単独で述部をなさない動詞は、V1としてもV2としても現れ得る。 (32)〜(34)はV1の位置に現れている。以下はV2の例である。 (35)a.Ojo  jo2ko3o2 le2  garawa. オジョはバケツの上に座った。    オジョ 座る  上に バケツ   b.Ojo jo2ko3o2. / * Ojo le2 garawa. (36)a.Je2su3 ku2  fu2n  wa. イエスは私達のために死んだ。    イエス 死ぬ ために 私達   b.Je2su3 ku2. / * Je2su3 fu2n wa. (37)a.I3wa3 Pese: du3n  mo:2 Jo:se:.    態度  ペセ  甘い 〜に ジョセ   ペセの態度はジョセにとって喜ばしい。 b.I3wa3 Pese: du3n. / * I3wa3 Pese: mo:2 Jo:se:. (35)の le2「上に」は「勝る、越える」という意味では主動詞として単独 で用いられる。(36)の fu2n「ために」も「与える」という意味の主動詞 が起源であることは疑いない。(37)の mo:2 も「ひっつく」という意味の 主動詞がある。これらの動詞はその起源が明らかであり、またその起源と なる動詞は単独で述部をなす主動詞として用いられている。しかし動詞連 続に現れる場合、もとの具体的な意味からの変化が見られ、この変化した 意味では単独で用いられることがない。このように主動詞との関係が明ら かではあるが、意味が変化し動詞連続にのみ現れるようになった動詞も単 独で述部をなさなくなりつつある動詞と考える。  単独で述部をなさなくなった動詞を、動詞から「前置詞的」なものに移 行する過程と見ることもできる。Lord(1993)はこのような過程を動詞の "bleaching"あるいは"desemanticization"と考え、前置詞や副詞などの "minor category" へと動詞が変化していく過程と見ている。 3.3.2 名詞と結合して一語で表される動詞  3.3.1節でみた単独で述部をなさない、あるいはなさなくなりつつある 動詞は、主動詞としてではなく、他の動詞を修飾する働きに転じつつある と見ることができる。このような修飾的な働きをする動詞は他の動詞に対 して、様態(Manner)、起点(Source)、着点(Goal)、場所(Location)などの 意味を表している(着点、場所などは「人」である場合も含む)。そして 他の動詞に対して、様態・起点を表す動詞句が前に、着点・場所を表す動 詞句が後ろにくる語順になっている。  様態を表す動詞は、単独で述部をなさないという形で現れる他に、動 詞と名詞が結合して一語になった形であらわれる場合がある。次の(37) の例はV1が動詞と名詞が結合して一語になった形である。 (38)a. Baba nawo:2   re2   koboko.     父  手を伸ばす 落とす 鞭                 お父さんは手を伸ばして鞭をとった。 b. Mo laju2    wo3 o2. 私 目を開ける 見る 彼  私は目を開けて彼を見た。 (38a)の nawo:2 は動詞 na「伸ばす」と名詞 o:wo:2「手」が、(38b)の laju2 は動詞 la「開ける」と名詞 oju2「目」がそれぞれ結合している。 「彼は手を伸ばした」というように単独で現れるときは動詞と名詞(目 的語)が結合しない形であらわれることができるが、動詞連続文では結 合した形が普通であり結合しない形は不自然である。 (38a)' ? Baba na   o:wo:2 re2  koboko. 父  伸ばす 手 落とす 鞭 (38b)' ? Mo la   oju2 wo3 o2.  私 開ける 目 見る 彼 このような例は名詞が身体の部位を表すような身体動作の表現にみられ、 必ずV1としてあらわれる。 3.3.3 意味に変化が見られる動詞  動詞連続文にあらわれる場合に修飾的な意味に変化する例がみられる。 次のような例である。 (39)a. Alabi sa2re2.  アラビは走った。     アラビ 走る    b. Alabi sa2re2 shi2  fe3re3se2. アラビは急いで窓を開けた。     アラビ 急ぐ  開ける 窓 (40)a. O2 ji2 ke:ke: Taye.     彼はタイエの自転車を盗んだ。     彼 盗む 自転車 タイエ    b. O2 ji2 ke:ke: Taye  wo3. 彼はタイエの自転車を盗み見した。  彼 盗む 自転車 タイエ 見る  (39)の sa2re2 は単独で用いられるときは「走る」という意味であるが、 動詞連続文では「急ぐ」という意味に用いられる(「走る」という意味で 用いられることも可能である)。また、(40)の ji2 は「盗む」という意味 の動詞だが、動詞連続文で他の動詞と共起する場合「こっそりと」という 副詞的な意味が可能になる。(40b)は「自転車をこっそり見る(盗み見す る)」という解釈のみが可能で、「自転車を盗んで(その自転車を)見る」 という解釈は不可能である。しかし、ji2 は統語的には目的語をとる他動 詞なので、例えば「彼はこっそり行った。」という意味で、"O2 ji2 lo:." ということはできない。  以上をまとめると、 (41)a. 主動詞として単独で述部をなさない、   b. 動詞連続では名詞と結合して一語になった形であらわれる、  c. 動詞連続にあらわれる場合、意味に変化がみられる、 などの特徴を示す動詞は他の動詞に対して修飾的な意味関係にあるとみ ることができる。  ヨルバ語に限らず他の言語の動詞連続においてもよく見られる分析の 一つに、いずれかの動詞を副詞的なものとする分析がある。変形文法で は付加詞として分析されるものである。これらの分析の根拠には次の2 つのテストが挙げられている。  a) 当該の動詞句を「どのように」という疑問詞にして疑問文を作る。   疑問詞にした動詞句、すなわちその疑問文に対する答えに当たる動  詞句は副詞句だと解釈できる(Mikami 1981)。  b) 動詞連続文を否定文にする。否定される方の動詞を副詞と見るこ    とができる(Stahlke 1974, Bamgboshe 1985)。  しかしこれらのテストで明らかになるのは、当該の動詞句が他の動詞 を修飾するような意味をもつということであって、副詞という異なった 範疇、あるいは付加詞としての構造を示すものではない(Bamgboshe(1985) はこれらの動詞を単に "Modifying verb" と呼んでいる)。また、上の a)b)のそれぞれのテストで副詞的と見なされる動詞は当然異なってくる。 b)のテストの方が広い範囲の動詞を含むことになる。 4.まとめ  ヨルバ語の動詞連続を分析するためには、統語論的な分析はあまり有 効でない。むしろ動詞の意味に注目した分析が有効である。「動作」「状 態」「変化」といった分類やそれらの下位分類をもとに、どのような動詞 の連続が可能なのかをつかむことができる。動詞の意味的な分類には統 語的な分類基準を設けることが可能である。ここでは自動詞にのみその 分析をおこなったが、他動詞を一緒にすることができるはずである。こ こではその方針を記すにとどまっている。  また、ヨルバ語の動詞連続は個々の動詞の意味だけではなく、動詞間の 意味関係も問題になる。他の動詞を修飾する役割を果たす動詞もその一例 である。これらの動詞はある程度その形を捉えることができるが、すべて の動詞連続の例を説明できてはいない。 <参考文献> Bamgboshe, A. (1972) "What is a verb in Yoruba?", in Bamgboshe(ed.)        The Yoruba Verb Phrase, pp.27-60. Ibadan Univ. Press. --------  (1985) "Negation and Serial Verbal Construction Types       in Yoruba", in Dimmendall,G.(ed.) Current approaches to        African Linguistics vol.3, Foris Publications, pp.31-40. 加藤 昌彦 (1993)「スゴー・カレン語の動詞連続」『アジア・アフリカ言語       文化研究』45, pp.177-204. Lawal, N. (1993) "Serial verbs in Yoruba as adjunct phrases", Lingua 91,        pp.185-200. Li, C. & S. Thompson (1973) "Serial verb constructions in Mandarin Chinese: Subordination or Co-ordination?", in C. Corum et al. (eds.) You Take The High Node And I'll Take The Low Node (Papers form the Comparative Syntax Festival), Chicago Linguistic Society, pp.96-103. Lord, c. (1993) Historical Change in Serial Verb Constuctions, John Benjamins Publishing Company. Mikami, N. (1981) "Serial verb construction in Vietnamese and Cambodian",    『言語研究』79, pp.95-117. Schachter, P.(1974) "A non-transformational account of serial verbs",        Studies in African Linguistics, supplement 5, pp.253-270. Sebba, M. (1987) The Syntax of Serial Verbs, John Benjamins Publishing Company. Stahlke, H. (1970) "Serial verbs", Studies in African Linguistics, 1:1        pp.60-99. -------  (1974) "Serial verbs as adverbs: A reply to Paul Schachter",        Studies in African Linguistics, supplement 5, pp.271-277.