AA_年報2025
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多様性の捉え方の変化—「多文化共生」から「トランスカルチャー状況」へ アジア・アフリカの社会は,その言語的・文化的多様性によって特徴づけられています。その多様性は従来固有の言語・文化を基盤とし,アイデンティティを共有する比較的安定したコミュニティが複数共存する「多文化共生社会」として捉えられてきました。しかし実際にはそのような固定的なコミュニティは仮想的なものである場合も多く,いつの時代にもコミュニティの構成員である個人が状況に応じて複数のアイデンティティを使い分けるといった複雑な状況がありました。この状況は人・モノ・情報が高速で行きかう現代において,より顕在化し,個人の帰属やコミュニティの様相がより流動化しつつあります。このような「トランスカルチャー状況」の下では新たな文化の生成や多様な生き方の実現が可能となる一方,COVID-19流行に伴う社会的変化の影響もあり,人々の対立を生む様々な事態,例えば差別や不可視化されていた矛盾の表出が生じています。人間社会における「信頼」「寛容」の機序を探る このような状況の中,人間社会において人々が,他者への寛容さ,信頼を保ち共存していく方法は存在するのでしょうか。新たな時代の共生社会のあり方とはどのようなものでしょうか。本プロジェクトでは,この問いに対する答えをトランスカルチャー状況の中を生きるアジア・アフリカの人々との対話を通じて模索します。日本の社会におけるトランスカルチャー 日本の社会は従来言語の面でも文化の面でも比較的均質な社会であると捉えられてきました。しかし,近年外国籍居住者の増加などによりもたらされつつあるトランスカルチャー状況の中,国内においても差別や矛盾の表出が深刻化しつつあります。本プロジェクトでは一般公開イベントを通じて市民との対話も積極的に行い,互いを尊重するよりよい社会のあり方を模索します。人文学の枠を超えた「総合知」の集積とその発信 流動的で複雑化する現代社会を多元的に捉えるには,人文学の枠を超えて,自然科学の知見をも取り込んだ「総合知」を集積してゆく必要があります。このプロジェクトではアジア・アフリカで臨地研究を行うのみならず,本研究所が行ってきた地域研究・歴史学,言語学,人類学の分野内で閉じていたフィールドワークのデータをオープンデータとして整え,分野を超えた活用を可能とすることにより異分野協働型のフィールドワーク手法を開発することを目指します。さらに発信力を強化し,こうして得られた成果をアカデミアの外へと開く方法を模索します。これらの活動は2022年に発足した全学組織TUFSフィールドサイエンスコモンズ(TUFiSCo)を軸に,学内諸機関と連携し進めます。3http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/projects/institute-wide-program プロジェクト概念図   近隣のむさしの学園小学校とケニアの Waldorf Woodlands School をつなぐ試み「ケニアと日本のこどもたちをつなぐ」(2023 年 12 月1日 )   ベトナム風サンドの屋台:外国籍住民が多く居住する団地「いちょう団地」の祭りの一コマ   仮面を選ぶ子どもたち。子どもを対象としたイベント<地球たんけんたい>「バリ島の仮面で変身しよう」( 2022 年 10 月 9 日)(<写真提供>マナラボ  環境と平和の学びデザイン<開催場所>京都大学東南アジア地域研究研究所)   TUFS Cinema モンゴル映画特集『チャンドマニ~モンゴル・ホーミーの源流へ~』上演会 (2024 年 4 月27日),ホーミー(喉を使った倍音唱法)の実演   〈人類学カフェ〉「バリ島のケチャと声ガムランを体験しよう!」(2023 年 11 月25日), バリ島の芸能の一つケチャのワークショップ

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