3全所プロジェクト『アジア・アフリカの現代的諸問題の解決に向けた新たな連携研究体制の構築』のもと,言語学・人類学・歴史学各分野の軸となる基幹研究を展開しています。 アジア・アフリカの国々はそのほとんどが多民族国家であり,個々の民族が固有の言語・文化を保ちながら共生してきました。しかし近年の社会的変化により人々は共通語である国語・公用語をより多くの場面で使うようになり,そのことが言語・文化の様相に影響を及ぼしています。このプロジェクトではこのような変化の中で失われつつある少数派の言語・文化を記録する言語ドキュメンテーションに力を入れています。 言語ドキュメンテーションの目的は,言語に映し出される個々の民族コミュニティの文化の様相を包括的に記録することです。このような記録を民族語の話者や現地の研究者とともに行うため,私たちは世界各地でワークショップを開催してきました。 このプロジェクトでは,言語ドキュメンテーションの成果を活かす試みとして,記録の中から話者が喜んでくれそうな物語を選んで絵本や紙芝居などの作品を作成するという活動も行なっています。このようなコンテンツを話者と共有することにより,話者たちが自分たちの言語・文化に新しい価値を見出してくれることを私たちは期待しています。 多様な言語の記録はその言語の話者だけでなく人類全体の財産です。少数民族の文化を広く世界に知ってもらうため,辞書,物語や文学作品,映像作品などを日本語や英語などの対訳がついた形で出す試みも行なっています。 多様な言語の記録は言語学者にとっても宝物です。記録を分析することにより,系統的にも異なり地理的にも離れている言語の間によく似たコミュニケーションのパターンがあることがわかったり,特定の言語群にしかみられない言語構造上の特徴が見つかったりすることもあります。このような観察から生まれるのは,人は言語を使って何をしているのか,言語はそのためにどのような形を持ちうるのか,という普遍的な問いです。 言語の記録にはそれを話してきた人々の歴史も反映されています。ある地域の言語を網羅的に記録することにより,かつて人々がどのように移動し,接触したのかを推測することができるのです。言語の記録と観察を出発点とするこのような様々な問いを解明すべく,私たちは調査地の研究者や世界各国の研究者と共同で様々な研究プロジェクトを進めています。 フィールドワーク中の一コマ インドネシアでのワークショップ(Widya Mandira Catholic大学) モンゴル国立大学でのワークショップ ジンポー語(ミャンマー)の紙芝居のYouTubeページ 絵本『白鳥と狩人』(日本語・ブリヤート語のバイリンガル絵本) チベット語の発音が聞けるウェブ版『チベット牧畜文化辞典』https://nomadic.aa-ken.jp/search/ 南部バントゥ諸語のデータ収集ワークショップ(南アフリカ共和国ヴェンダ大学で開催。アフリカ5ヶ国との共同事業ReNeLDA https://lingdy.aa-ken.jp/news/7026 )の活動の一環。「多言語・多文化共生に向けた循環型の言語研究体制の構築」(LingDy3) 代表者:塩原朝子関連所員:安達真弓,倉部慶太,呉人徳司,児倉徳和,澤田英夫,品川大輔,中山俊秀,星泉,山越康裕,渡辺己http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/projects/ling-core
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