AA研要覧 2011
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18共同利用・共同研究課題(共同研究プロジェクト)共同研究【中東都市社会における人間移動と多民族・多宗派の共存】2010〜2012年度 代表者:黒木 英充 所員5/共同研究員10レバノン、シリア、トルコ、イランの主要都市を対象として、近現代における都市空間の拡大を人間移動の結果ととらえ、そこでいかなる多民族・多宗派関係が形成されてきたかを明らかにするとともに、その共存関係が現代の政治・社会運動をどのように方向付けているかを解明する。各都市に関してムスリム・非ムスリム間の、また多民族間の共存関係を分析することは、広く地球社会全体のムスリム・非ムスリム関係、さらには多民族・多宗派関係一般の望ましいあり方を構想するための有効な知見を提供することになろう。歴史学、地理学、人類学、政治学、都市計画学といった多様な領域を専門とする研究者を国際的に組織し、ベイルートの「中東研究日本センター」を拠点として調査研究を実施する。研究成果も同海外拠点を利用して国際的に発信する。また、サブプロジェクトとして「中東都市多層ベースマップシステム」を推進し、現在と過去の地図情報をウェッブ上で重ね合わせて研究者が情報を書き込み、共有・公開する態勢を整える。【中国古代簡牘の横断領域的研究】2011〜2013年度 代表者:陶安あんど 所員1/共同研究員8簡牘とは、木や竹で作られた「ふだ」のことをいうが、それは、中国では3世紀頃まで広く用いられていた書写材料の一つであると同時に、その形態に様々な意味が込められたモノでもある。例えば現在カードにICチップが埋め込まれるのと同様に、「符・券」という簡牘には、信憑性を確保するため、記載内容に合致する特殊な刻みが施され、またパスワードのように、文書に「封検」という特殊な形状の簡牘を組み合わせ内容漏洩を防ぐ工夫などもなされていた。こうしたモノとしての簡牘は、複雑で長いライフサイクルを有する。作成・作成目的に沿った利用と再利用から目的外の再利用と廃棄に至るまで、簡牘は時に形状と機能を変化させ時空を移動しつつ、社会生活の様々な局面に立ち会った。そのため、簡牘には当時の豊富な情報が刻み込まれている。本研究課題は、簡牘の文字情報の正確な解読を基礎に据えつつ、中国古代の社会生活を語る証人としての簡牘に新たな生命を吹き込んで、新しい簡牘学の構築を目指すものである。【東アジア・東南アジア大陸における文化圏の形成と他文化圏との接触—タイ文化圏を中心として—】2011〜2013年度 代表者:クリスチャン・ダニエルス 所員2/共同研究員20これまでタイ文化圏の研究では、周辺のミャンマー・シャム・ベトナムの国家(前近代・近代国家を含む)からの影響が強調されてきた。中国については、雲南省・広西省との関係のみが考慮されてきた。民族・文化・言語の研究においては、東南アジア大陸部という地域枠組のなかで検証されてきた傾向がある。タイ文化圏は北において中華世界、チベット・モンゴル世界とつながっているが、また南においてベンガル湾の海洋世界と連続している。本研究課題では、この南北軸を中心とする広域的視点から、タイ文化圏の歴史・文化・言語を分析する。南と北に位置する民族と政権との交流・接触の中で、タイ文化圏の歴史・文化・言語がどのように形成され変容していったかを明らかにすることが主たる目的である。隣接するチベット・モンゴル及び中華の諸世界で起こった変化がタイ文化圏に対してどのような影響を与えたかを考察する。タイ文化圏を事例としながら、東アジア・東南アジア大陸における、文化圏形成のプロセスを検証する。【移民/難民のシティズンシップ—国家からの包摂と排除をめぐる制度と実践—】2011〜2013年度 代表者:錦田 愛子 所員3/共同研究員12国民国家を構成単位とする近代以降の世界において、移民、難民の存在は、滞在国における国籍の付与、一定限度における市民権の容認、人道的見地からの人権保障などの対象として、これまで主に論じられてきた。しかし超国家レベルの政体や交渉枠組みの拡大、また越境移動の活発化は、こうした人の動きを各国単位で対処されるべき個別の派生要素と捉えるだけでは不十分であることを示している。本課題では、国民という資格と、それに付随するものと考えられてきたシティズンシップを、切り離して考えることにより、現在実際に展開している複合的な市民、居住のあり方を解き明かしていく。国籍なきシティズンシップは可能か、実際の取得事例や当該国での位置づけ、シティズンシップとナショナル・アイデンティティとの関係、移民/難民の包摂と排除をめぐりシティズンシップが及ぼす影響などについて、制度と実践、理論と政策等のさまざまな側面から明らかにしていく。

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