共同研究17概 要研究共同利用・共同研究課題(共同研究プロジェクト)18世紀から20世紀初頭の東アジア世界各地域における社会の変容が、外部世界とどのように有機的に連関していたかという問題を中心にすえ、文書史料によりそれがどこまであきらかにできるか検討する。東アジアに関する史料と研究情報の開かれたフォーラムをめざしている。【タイ文化圏における山地民の歴史的研究】2006〜2010年度 代表者:クリスチャン・ダニエルス 所員2/共同研究員17中国西南部から大陸東南アジア北部に跨がるタイ文化圏の歴史においては、タイ系民族の盆地政権がその周辺の山岳地帯に居住する山地民を緩やかに「統治」した。19世紀以降、タイ文化圏は中国、ミャンマー(ビルマ)、タイ、ラオス、ヴェトナム及びインドの6ヶ国に組み込まれて、盆地政権は消滅した。盆地政権の領民はこの6つの近代領域国家に同化を強要されはしたものの、タイ文化圏はなお存続している。これまで研究者は、盆地政権中心にこの地域全体の歴史を再構築してきたが、山地民が盆地政権の存続を揺るがす存在であるにもかかわらず、山地民の歴史的役割を重要視してこなかった。本プロジェクトの目的は山地民の歴史的役割を明らかにして、その役割を総合的に概念化することによってタイ文化圏の歴史的形成を再解釈することである。このような再解釈によって、これまでタイ系民族側から叙述されたタイ文化圏の歴史がもっと公平に見られるようになると期待できる。夥しい数の民族集団が居住する地方はそれぞれ異なるが、その歴史体験の共通性を明らかにする視点を採用する手法によって、タイ文化圏の歴史に対する統一的な理解を深化させることを、本プロジェクトは目指している。【インドネシア在地文書研究プロジェクト】2009〜2011年度 代表者:宮崎 恒二 所員2/共同研究員6本プロジェクトは、これまで日本でまったく用いられてこなかったインドネシア諸語による在地文書に焦点を当て、その全体像を把握とするとともに個々の写本ないし写本群のコーパスを構築し、それらを用いたインドネシア諸地域の歴史、文化、社会、言語の諸側面の解明を目指す。また、これらの在地固有言語による文書を資料として用い、かつその利用方法を確立することによって、植民地行政文書や口頭伝承に依拠した研究とは異なり、現地語による文字表象を通じた、新たな視点の開拓を目指す。さらに、個別文化の研究にとどまらず、広く文字文化一般、そして口承伝統と文字文化の関係についての考察も進める。3年間のプロジェクト期間を設け、第1段階として、インドネシア諸語による写本の全体像を解明すると共に、ジャワ語・ジャワ文字による写本を研究対象として取り上げる。【歴史的観点から見たサハラ以南アフリカの農業と文化】2010〜2012年度 代表者:石川 博樹 所員2/共同研究員15サハラ以南アフリカ諸国の経済停滞が国際的な懸案となっている現在、大多数の国々の基幹産業である農業についての研究を一層深化させることが国際的に求められている。これまで我が国におけるサハラ以南アフリカ農業研究は、主に農学、人類学、経済学の研究者によって実施され、多くの成果をあげてきた。本研究課題においては、これらの学問分野の研究者に歴史学研究者も加わり、サハラ以南アフリカ諸地域の農業と文化の関連について歴史的観点からの研究を共同で実施する。特に社会的・文化的に重要な役割を果たしてきたにもかかわらず未解明の課題が少なくない主食用作物に関わる史的諸問題を広範に検討することによって、サハラ以南アフリカ農業研究の新たな研究領域の開拓を試みる。【中東都市社会における人間移動と多民族・多宗派の共存】2010〜2012 年度 代表者:黒木 英充 所員5/共同研究員10レバノン、シリア、トルコ、イランの主要都市を対象として、近現代における都市空間の拡大を人間移動の結果ととらえ、そこでいかなる多民族・多宗派関係が形成されてきたかを明らかにするとともに、その共存関係が現代の政治・社会運動をどのように方向付けているかを解明する。各都市に関してムスリム・非ムスリム間の、また多民族間の共存関係を分析することは、広く地球社会全体のムスリム・非ムスリム関係、さらには多民族・多宗派関係一般の望ましいあり方を構想するための有効な知見を提供することになろう。歴史学、地理学、人類学、政治学、都市計画学といった多様な領域を専門とする研究者を国際的に組織し、ベイルートの「中東研究日本センター」を拠点として調査研究を実施する。研究成果も同海外拠点を利用して国際的に発信する。
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