AA研要覧 2010
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16共同利用・共同研究課題(共同研究プロジェクト)共同研究【「シングル」と家族 ―縁(えにし)の人類学的研究】2010〜2012年度 代表者:椎野 若菜 所員2/共同研究員21本研究は「シングル」とされる人間の存在とその生き方について、それと相反し強化しあうかのような存在である、当該社会における家族親族、またくわえて個々人に少なからず影響を及ぼす国家の存在との関係性を念頭に、縁(えにし)という言葉を手がかりに社会‐文化人類学(以下、人類学と記す)の立場から追究するものである。現代社会における個人の生き方は多様化してきている。出稼ぎ、単身赴任、留学、宗教的理由、また被災、少子高齢化といった要因で頻繁に人は移動し分散し、こうした社会的環境の変化によってライフスタイルや人と人との関係性も大きく変化している。いったん崩壊したかにみえた近代家族だが、それをモデルにした擬似的な「家族的」なものを求め、近年、人々がつながりだしている事象がみられる。以上のような現代の事象をもとに、本研究はアジア・アフリカを中心に家族、社会の実態と、それらによって創出されたとも考えられる「シングル」の生きる戦術を明らかにする。さらにこうした作業により、固定されがちなシングルに対する現代的な社会理念、シングルの存在の対として位置づけられがちな理想像として生産される家族(像)について、人類学の立場から検討する。【東・東南アジアにおける地域間越境移住の人類学 ―結婚(離婚)移住ネットワークにみる文化・エスニシティとアイデンティティー】2010〜2012年度 代表者:石井 香世子(名古屋工業大学) 所員2/共同研究員13本研究では、専門分野を越えた内外の若手新進気鋭の研究者を集め、東・東南アジア地域に近年発達しつつある、越境結婚(離婚)移住ネットワークについて分析する。これまで人類学の分野では、東・東南アジア地域を対象とした移動研究・越境移動研究が数多く蓄積されてきた。しかし一方で、今日の越境移動の重要な一角を占める結婚移住に焦点を当て、移動ネットワークやメカニズム、越境移動に伴う諸現象を分析した研究は未だ少ない。ましてや、国際離婚にともなう離婚移住に着目した研究は皆無に近い。本研究ではこれらの越境移動事例に焦点を当てて研究することで、人類学の移動・移民研究分野において新たな知見を得ることが期待される。【社会開発分野におけるフィールドワークの技術的融合を目指して】2010〜2012年度 代表者:増田 研(長崎大学) 所員1/共同研究員14本研究は、文化人類学に隣接した今日的な実践的分野である社会開発における研究活動に必要とされるフィールドワークの技術的融合を目的とする。具体的には、(1)参与観察とインタビュー調査を中心とする文化人類学の方法論を、広い意味での社会調査のなかに適切に位置づける、(2)疫学・統計といった数量的調査および空間情報システム(GIS)によるアウトカムを、質的調査の成果と組み合わせる方法を模索する、(3)アジア・アフリカにおける人口静態・動態調査のアウトカムに対しての検討を通して技術的融合の可能性を探る、および(4)これらの技術を参加型開発の実践に応用する手法を見出す、以上4点を活動内容とする。社会開発分野においては人類学と同様に「フィールドワーク」を必要とするとはいえ、Rapid Ethnographic Method (Rapid Appraisal)のような、時間をかけずに手っ取り早く調査を済ませる方法論が提唱されている。しかし我々は、このような「目的に向かって単線的に進む調査手法」からそぎ落とされてしまう「ノイズ」にも注目し、従来型の地域の文脈に根ざした人類学的な手法、「問題をめぐって発見をあぶり出していく螺旋的思考運動」を、多様な分野における調査・分析方法と具体的データを事例に吟味し議論しつつ、新たなフィールドワークの方法論へと結びつけたいと考えている。■歴史学・地域研究系【東アジアの社会変容と国際環境】2006〜2010年度 代表者:中見 立夫 所員3/共同研究員37近年における国際情勢の変化と学術交流の発展によって、われわれ歴史学研究者は東アジア各地域の文書館・図書館などに所蔵される一次資料に対し、以前とは比べられないほど容易に接近できるようになった。さらに現地学界でも、新たな歴史評価・研究動向がおこり、われわれの研究への刺激となっている。ただ対象とすべき資料の量があまりに膨大で、その実態を体系的に把握してはいない。また、個別の研究が深化するとともに、より大きな視野のもとに、問題をとらえなおし、分析枠組みを再検討することも必要である。さらに海外学界との共同研究、史料調査も、双方にとって、より具体的で実りの多い形で推進しなければならない。本プロジェクトでは、このような研究状況を念頭におきながら、

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