AA研要覧 2010
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共同研究15概 要研究共同利用・共同研究課題(共同研究プロジェクト)と発展に寄与する優れた業績」であるとして第一回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」を受賞している)。メンバーには、文献学だけでなく、工学(光学的手法による非破壊文書年代検査法)専門家を含み、唐代写本・奈良朝写経を多数所蔵する正倉院事務所所長、京都博物館保存課課長、海外からは大英図書館・パリ国立図書館の各敦煌コレクション責任者を加え、編年規準の客観化・国際化に十分留意したプロジェクトとする。【契丹語・契丹文字研究の新展開】2010〜2012年度 代表者:松川 節(大谷大学) 所員1/共同研究員810世紀、現中国北部~モンゴリア地域に成立した契丹(遼)では、漢語とともにモンゴル語系の「契丹語」が主要言語として通用し、「大字」と「小字」という異なるタイプの文字体系で記されていた。これらは石刻史料の形態で現存するが、資料数は僅少であり、内容的にも墓誌に限られるため、結果的に未だ契丹語および文字の解明には到っていない。また従来の研究においては、契丹文字資料の研究は歴史学的見地からの研究が主流を占め、言語学的見地からの研究は充分に尽くされているとは言い難い。本プロジェクトは、契丹文字資料について、最新の言語学的研究をもとに研究・分析を行い、新たな契丹語・文字研究を目指す。【ダイクシス表現の多様性に関する研究】2010〜2011年度 代表者:林 徹(東京大学) 所員1/共同研究員5指示詞、代名詞、人称や時制の標識などの空間ダイクシス、人称ダイクシス、時間ダイクシスに関する表現は、言語の基本的要素であるにもかかわらず、意味を明確に説明することが極めて困難である。その理由は、言語が発せられる状況が意味と緊密に結びついているからである。本研究は、性急に一般化を求めることなく、手話を含めたアジアの諸言語に見られるダイクシス表現のさまざまな用法を、定型表現など非ダイクシス的用法も含めて、できるかぎり詳細に検討し、アジアの諸言語におけるダイクシス表現の信頼できる概説を作成する。また、これと並行して、従来母語話者の内省報告に偏っていた嫌いのある言語データを多様化するために、新たな調査法を考案し試行する。■人類学系【アジア・アフリカ地域におけるグローバル化の多元性に関する人類学的研究】2008〜2010年度 代表者:三尾 裕子 所員3/共同研究員7近年のヒト、モノ、情報の移動や越境現象は、「グローバル化」と名付けられ、政治学・経済学などの社会科学等での研究が興隆している。しかしながら、従来の研究の多くは、「グローバル化」に関し、いわば世界システム論が言う「中心/周辺」ないしは「南北問題」的な二項対立図式を前提としたものが主流であった。そこで、本プロジェクトでは、総論的、観念的に語られることの多かった「グローバル化」について、文化人類学者を中心に歴史学や地域研究の研究者も加えて、アジアとアフリカにおける「グローバル化」をめぐる多様で複雑な諸相について具体的、実証的に解明していくことを目指すものである。また、「グローバル化」を最近の特異な現象として捉えるのではなく、より長い歴史の中で相対化して捉えることも目指す。更に、同時にこの研究を通じて従来の地域概念の再検討へ寄与することも目的とする。【人類社会の進化史的基盤研究(2)】2009〜2011年度 代表者:河合 香吏 所員5/共同研究員18人類は生物分類学的には霊長目に属し、進化史的にはごく最近(約600~700万年前)までチンパンジーやピグミーチンパンジー(ボノボ)といった大型類人猿とともに進化の過程を歩んできた。人類の社会性(sociality)の基盤はこれらヒト以外の霊長類との連続性と非連続性を検討することによってこそ、より深く明解な人類学的理解が可能となろう。このプロジェクトは、長期的プロジェクトの第1弾として2005~2008年度に行われた「人類社会の進化史的基盤研究(1)」におけるテーマ「集団」に続く第2弾として「制度」をとりあげるものである。ここでは、「制度は言語のうえに成立する」という一般に当然と思われている命題にたいして、音声言語をもたないヒト以外の霊長類に「社会」を認め、社会構造論や家族起原論などを展開してきた霊長類学の知見や理論によってこれを相対化する。そのいっぽうで、当該社会の成員の行為・行動のなかに制度の前駆的なありようをみとめ、言語を前提としない制度の可能性とその進化史的基盤を追究する。

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