AA研要覧 2001
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22 アジア・アフリカ言語文化研究所には,1970年に浅井恵倫博士の所蔵していた書籍を中心として,浅井文庫が設置された。しかし,既に公開された書籍の他に,台湾原住民に関する貴重な一次資料(フィールドノート,語彙集等,写真などのアルバムやフィルム,原稿,書簡,単語カード,音声資料,8ミリフィルム,未発表の高砂族伝説集検索カード,浅井の大先輩でもある小川尚義の講義ノート等)があり,そのほとんどは未整理・未公開である。これらの中には,戦災で現物が消失した『スピリツアル修行』のマニラ本のフィルムや台湾の平埔族関係の清代に作られた土地契約文書の原本なども含まれており,これらは,現在では既に手に入れることがほとんど不可能である。また,台湾の原住民のうち,平埔族については,既に平埔族自体が漢化してしまっており,独自の言語,文化のほとんどを失っている。このような事実から考えれば,浅井博士の残した資料は大変重要な資料であるということが出来,早急に分類・整理を行って公開することが必要と考えられる。 このような状況に鑑み,本プロジェクトは以下の2点を主な目的とする。1つめは,浅井博士及び小川尚義博士の残した一次資料の整理・分類を行い,この方面の研究者の研究の利便を図るために,電子媒体を中心として公開していくことである。本資料に関しては,台湾の研究者からも関心を寄せられており,その学術的な価値は非常に高い。第2には,両博士の資料を通して,戦前の日本人による言語学・民族学の調査活動が主に学術的な面において果たした役割などについての検討を行うことである。これまで,鳥居龍蔵,伊能嘉矩等一部の学者については,いくつかの一次資料が整理されて公開されているが,当時の植民地政策の中での,日本人による言語学あるいは民族学的な調査活動のコンセプトや実態などについては,まだまだ研究が進んでいるとは言い難い。本プロジェクトは,浅井博士の資料の整理・分類を通して,日本植民地時代の台湾の民族学・言語学の調査活動についての一側面を明らかにすることができると考えられる。 笠原政治 清水 純 末成道男 谷 智子 中西裕二 宮岡真央子 森口恒一 吉澤誠一郎 2000年度第1回研究会で,本プロジェクトの検討課題を以下の3点に整理した。 1. 対象とされる古典的物語のテクストの「語り」を分析するだけでなく,より高次の次元でその「語り」を規定し,テクストを了解可能にする「語り」-メタナラティブ,もしくはマスター・ナラティブを検討する。 2. テクストにアプローチする研究者の思考を規定する近代歴史学のメタナラティブを問題にする。 3. 近代歴史学のメタナラティブを下敷きにした私たちの歴史叙述そのもののありようを問題にする。 そこで,第2年度の前半の研究会では,上述の歴史認識・分析方法にかかわる問題に取り組み,後半の研究会では研究員各自の個別研究テーマの報告・検討に移る予定である。 飯島明子 伊東利勝 桃木厚子 片山須美子 小泉順子 小林寧子 土佐桂子 原田正美 浅井・小川未整理資料の分類・整理・研究 (主査:土田 滋/所員 4,共同研究員8) 前近代東南アジアの「古典的物語」と歴史認識 (主査:青山 亨/所員 1,共同研究員8)所外からの代表による共同研究プロジェクト

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